表(おもて)面にはシャルトル司教座聖堂の地下に安置されている聖母を、裏面には身廊に安置されている柱の聖母 (Notre-Dame du Pilier) を、それぞれ浮き彫りにしたメダイ。
このメダイのテーマとなっているノートル=ダム・ド・シャルトル(シャルトル司教座聖堂ノートル=ダム)は、パリを通ってサンティアゴ・デ・コンポステラへ向かう巡礼路が通過する場所でもあり、中世以来、サンティアゴを最終目的地とする巡礼者が立ち寄る聖地でしたが、1912年から13年にかけてシャルル・ペギーが徒歩によるシャルトル巡礼を行い、その影響でシャルトルへの巡礼がふたたび盛んになりました。
このメダイは 第一次大戦の前後、ちょうどシャルトル巡礼が再興した時期にフランスで制作された物です。
表(おもて)面には司教座聖堂と同名の聖母子像「ノートル=ダム・ド・シャルトル」(シャルトルの聖母)が浮き彫りにされています。聖母の膝に幼子イエズスが座る姿は、典型的な「知恵の座の聖母」像といえます。この像は、1020年に建設された現在の地下聖堂に安置されています。
聖母子像「ノートル=ダム・ド・シャルトル」において、幼子イエズスは天地の支配権を表すグロブス・クルーキゲル(GLOBUS CRUCIGER 世界球)を左手に持ち、威厳ある態度で天を指さして、自らが天地の造り主にして三位一体の第二のペルソナ、子なる神キリストであることを宣言しています。
本品の浮き彫りにおいて、聖母子の足下にある雲は、聖母子がもはや地上にはおらず、天上で栄光に輝いていることを表しています。聖母子像の浮き彫りを取り巻くように、「ノートル=ダム・ド・シャルトル」(Notre-Dame
de Chartres シャルトルの聖母)と記されています。「ノートル・ダム・ド・シャルトル」という名称は、この聖母子像を表すとともに、聖母に捧げられたシャルトル司教座聖堂をも表します。
裏面には司教座聖堂身廊に安置されている16世紀の聖母、「ノートル=ダム・デュ・ピリエ」(Notre-Dame du Pilier 柱の聖母)が浮き彫りにされています。聖母子は共に戴冠しており、均整のとれた顔立ちはもちろんのこと、冠、豪華な刺繍のある衣、アカンサス飾りのある柱頭など、細部に亙る緻密な彫刻が実物を忠実に再現しています。聖母子像の足下に、「ノートル=ダム・デュ・ピリエ」と記されています。
本品は百年近く前にフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず、たいへん優れた保存状態です。聖母子の目鼻立ちや冠の細工、衣の刺繍等の細部までよく残り、突出部分の摩耗もごく軽微です。