比較的大型のブロンズ製メダイ。手に取ると心地よい重量感があります。
一方の面には、雲の上、天上にある聖母と、その腕に抱かれたキリスト教徒の魂が浮き彫りにされています。聖母は大きく、抱かれる人は小さく表されています。聖母が大きく表されているのは内面の卓越性ゆえであり、抱かれる人が必ずしも子供というわけではないでしょう。ただし受胎告知の際、ガブリエルに対して「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」と答え、自由意志を以って、全人類のために救いを受け入れた聖母マリアは、全てのキリスト教徒の母、倣うべき範であり、これに対してキリスト教徒をマリアの子たちということができます。
マリアは教会の象徴であり、エクレシアのイメージとも重なります。したがってマリアが腕の中にキリスト教徒を抱く図像は、信徒を抱き、救いへと導くカトリック教会を表していると見ることもできます。
(下) 参考画像 シナゴーガ(向かって左)と、エクレシア。1235年頃に製作されたストラスブール司教座聖堂の砂岩彫刻。高さはいずれも 194センチメートル。
聖母の周囲には次の祈りがラテン語で刻まれています。
O MARIA, TUUS SUM EGO. SALVUM ME FAC. マリアよ、我は御身のもの。救いたまえ。
屈折語であるラテン語は語順が自由ですが、この祈りでは "TUUS"(御身のもの)と "SALVUM"(救われたる)が文頭に置かれ、聖母に身をゆだねて救いを求める気持ちが痛切に表されています。
もう一方の面の最上部には、三位一体を象徴する三角形と、聖霊なる神を表す鳩を配し、そこから発出する光によって、汲めども尽きざる神の恩寵を表します。その下に置かれているのは、悲しみの剣に刺し貫かれた聖母の汚れ無き御心です。聖母の御心から噴き出す炎は、神への愛を表します。その両横には聖母の象徴であり純潔の象徴でもある白百合が浮き彫りにされています。百合が聖母を象徴するのは、次に示す「雅歌」2:2のテキストによります。
Sicut lilium inter spinas, sic amica mea inter filias. (Nova Vulgata) おとめたちの中にいるわたしの恋人は 茨の中に咲きいでたゆりの花。
(新共同訳)
これらの図像を取り囲むように、次の言葉がラテン語で記されています。
NOLI NEGLIGERE GRATIAM QUAE HODIE DATA EST TIBI. こんにち汝に与えられたる恵みを忘るることなかれ。
このメダイの浮き彫りは、特に表(おもて)面において立体的であるために、突出部分に磨滅が見られます。日々の恵みを忘れることが無いように、常日頃から身に着けられて、数限りない祈りを呼吸してきた証しといえましょう。