800シルバーを用い、19世紀のフランスで制作された透かし細工の高級なメダイ。
表(おもて)面の中央には、両腕を広げて斜め下に降ろし、手のひらを前に向けた「無原罪の御宿り」の聖母が浮き彫りにされています。球体の上で蛇を踏み付ける聖母は、首を傾(かし)げて地上に視線を注ぎ、両手に嵌めた指輪から恩寵の光を注いでいます。
聖母の背景は布目のように細かいパターンで埋め尽くされています。ジュエリー製作において、平滑に磨き上げる「光沢仕上げ」は一見高級感がありますが、実はあまり手間がかからない方法です。空間を細かいパターンで埋め尽くすのは、光沢仕上げに比べてはるかに手間がかかります。それにもかかわらず、この小さなメダイが後者の方法を採用したのは、光を柔らかく反射することにより、たおやかな光に満たされた天上界を再現しているのです。
聖母の浮き彫りは突出部分に摩耗が見られますが、それ以外の部分は衣の襞(ひだ)等の細部までよく残っています。商品写真は実物の面積をおよそ 40倍に拡大していますので、摩耗した部分が判別できますが、実物を肉眼で見ると充分に美しいコンディションです。
メダイの周囲は六輪の薔薇をモティーフにした透かし細工になっています。薔薇は極度に様式化されず、花も葉も実物のように自然のままの形で制作されており、19世紀末から20世紀初頭のヨーロッパを席捲したジャポニスム(日本趣味)の影響が感じられます。
薔薇は美しく芳(かぐわ)しい花であり、ジュエリーのモティーフにふさわしいデザインですが、キリスト教美術においては、聖母を象徴する花でもあります。5世紀のラテン詩人セドゥーリウス (Coelius/Caelius Sedulius) は、「カルメン・パスカーレ」第2巻で聖母を薔薇に喩えています。セドゥーリウスによると、薔薇の花芽は棘のある繁みから生まれますが、棘に傷つくことなく美しい花を咲かせます。ちょうどそれと同じように、薔薇の花たる聖母マリアは、薔薇の棘たる人祖の妻エヴァが犯した罪(原罪)に傷つくことなく、かえってエヴァの罪を清めます。ここには「無原罪の御宿り」(IMMACULATA CONCEPTIO) の考え方が現れています。
フランスにおいて 800シルバー(純度800/1000のシルバー)を示す「蟹」のホールマーク、及びフランスの銀製品工房のマークが、メダイ上部の環に刻印されています。ブロンズ等と比べて高価な素材である銀は、通常はめっきとしてのみ使用されましたが、このメダイは美しい細工に掛かる手間と、素材に掛かるコストを惜しまずに制作した特別な品物であり、信心具のメダイとしては最も高級なクラスに属します。
写真では分かりませんが、本品はたいへん美しい小品です。聖母と薔薇が艶やかに輝く一方で、布目模様の背景が、あたかも聖母を包む神の愛のように、優しく柔らかい光を放っています。ご購入いただいた方には必ずご満足いただけます。