「マリアの子ら会」(Congrégation des Enfants de Marie) の美麗なアンティーク・メダイ。いまからおよそ90年前、1920年代のフランスで鋳造によって制作されたもので、メダイユ芸術の国ならではの美しい工芸品に仕上がっています。
メダイの表(おもて)面には、聖母の美しい立ち姿を立体的な浮き彫りにし、紡錘形、四つ葉形などいくつかの形を組み合わせた枠、及び祈りの言葉で囲んでいます。聖母は右足に体重を掛け、左の膝をわずかに曲げたコントラポストの姿勢で表されているために、じっと立っているだけではなく、動きを感じさせます。聖母像に潜在する動きは、頭部をわずかに左(向かって右)に傾げ、両腕を広げて罪びとを招く姿勢によっても強調されています。すなわちこの聖母は、「マリアの子ら会」会員をはじめとする地上の罪びとたちのために、天上にあって執り成しの祈りを捧げ、常に働き給う聖母の御姿なのです。
聖母は美しく整った顔立ちに優しく穏やかな表情を浮かべています。中心線が曲線を描く姿勢と、流れるような衣の襞の下にうかがえる女性らしく丸みを帯びた体つきが、全てを赦して執り成し給う母なるマリアの優しさを、余すところなく表現しています。マントを大きく広げているのも、悔い改める罪びとを庇護し給う「ミゼリコルディア(憐み)の聖母」の御姿です。
(下) Francisco de Zurbarán, "La Virgen de las Cuevas", 1655, Museo de Bellas Artes de Sevilla
聖母はヨハネの黙示録12:1に書かれている12の星の冠をかぶり、蛇を踏みつけるモントジッヒェルマドンナ(弦月の聖母)、無原罪の御宿りとして表されています。創世記 3:15 において、神は蛇に向かって次のように言っておられます。
お前と女、お前の子孫と女の子孫の間に / わたしは敵意を置く。/ 彼はお前の頭を砕き、/お前は彼のかかとを砕く。(新共同訳)
神のこの言葉ゆえに、聖母は蛇の支配を受けず、その身に罪を帯びない「無原罪の御宿り」であると考えられ、蛇を踏みつける姿で描かれます。
聖母を取り囲む枠内に、「御身の母なるを示したまえ」(MONSTRA TE ESSE MATREM.) との祈りの言葉がラテン語で記されています。これは聖務日課及び聖母マリアの小聖務日課において唱えられる祈り、「アウェ、マリス・ステーッラ」(アヴェ、マリス・ステッラ AVE MARIS STELLA 「めでたし、海の星よ」)の一節です。
1146年、クレルヴォーの聖ベルナール (St. Bernard of Clairvaux, 1090 - 1153) がシュパイエル司教座聖堂にある聖母像の前でこの聖歌を繰り返し歌って聖母を讃えていると、聖母が胸を押して聖ベルナールの開いた口に乳を飛ばしたといわれています。この伝説において、聖母の乳はその甘さにより、聖ベルナールの弁舌の巧みさをも象徴しています。
(下) Alfonso Cano (1601 - 67), "Vision of St. Bernard", 1650, Museo del
Prado, Madrid
メダイの裏面には、聖母を表す星と、同じく聖母の象徴である百合が浮き彫りによって描かれています。百合が聖母の象徴とされるのは、旧約聖書「雅歌」2:2によります。当該の聖句は次の通りです。
Sicut lilium inter spinas, sic amica mea inter filias. (Nova Vulgata) おとめたちの中にいるわたしの恋人は 茨の中に咲きいでたゆりの花。
(新共同訳)
表(おもて)面と同じ枠がこの図像を囲みます。枠内にはフランス語で 「マリアの子ら会」(Congrégation des Enfants de
Marie) と記されています。百合の茎の下方に巻き付いたバンドロールには、「マリアの子ら会」に新しく入会した女性の名前と日付がビュラン(彫刻刀)で彫り込まれています。
M. M. Damoiseau, 8 DÉCEMBRE, 1928 M. M. ダモワゾー、1928年12月8日
12月8日は、無原罪の御宿りの祝日です。
このメダイは 36.9 x 24.9ミリメートルという大きなサイズです。また 7.6グラムの重量は五百円硬貨よりも大きく、手に取ると心地よい重みを感じます。
(下) 標準的なサイズのメダイとの比較。左は本品。右は一般的なサイズの不思議のメダイ。
本品はおよそ90年前のフランスで制作されたもので、真正のヴィンテージ品であるにもかかわらず、突出部分はほとんど磨滅していません。非常に良好なコンディションです。私は「無原罪の御宿り」のメダイをこれまでに数多く見ていますが、本品は間違いなく最も美しい作品のひとつです。