「マリアの子ら会」(Congrégation des Enfants de Marie) のメダイ。大きめサイズの立派な品物で、百円硬貨二枚分強の重量があります。手に取るとかなりの重みを感じます。
表(おもて)面には無原罪の御宿りを浮き彫りにしています。両腕を開いて斜め下に伸ばし、球体の上に蛇を踏みつけ、指先から恩寵の光を放つマリアの姿勢は、不思議のメダイの聖母などと共通した「無原罪の御宿り」の姿です。聖母の顔立ちは美しく、衣の下にうかがえる胸のふくらみ、腹部や太ももの丸みは女性らしく、衣の襞も流れるように優美です。その一方で聖母が蛇を踏みつけ、あたかも天地を繋ぐかのようにまっすぐに立つ姿は、美しいだけにとどまらず、力強さも併せ持つ表現となっています。
美しく力強い本品の聖母は、19世紀後半にフランス各地に建造された「ウィルゴー・ポテーンス」(VIRGO POTENS ラテン語で「力ある乙女」の意)の巨像を思い起こさせます。「ウィルゴー・ポテーンス」は、世俗的価値観をはじめとする害悪から純真な少女たちを守る母に、この上なくふさわしい表現です。
聖母の周囲には次のラテン語が記されています。
MONSTRA TE ESSE MATREM 御身の母なるを示したまえ。
(下) 19世紀に建造された巨大な聖母子像の例。左はノートル=ダム・ド・フランス、右はノートル=ダム・ド・ラ・ガルド。
メダイの裏面には白百合と星が刻まれています。メダイ下部の矩形は名前や日付等を刻むためのスペースですが、本品は未使用品なのか空白のままです。メダイの周囲に次の言葉がフランス語で記されています。
Congrégation des enfants de Marie マリアの子ら会
「雅歌」二章二節の成句「おとめたちの中にいるわたしの恋人は、茨の中に咲きいでたゆりの花」により、百合は神に選ばれたマリアの象徴とされます。受胎告知画に百合が描かれるのも、同じ理由によります。百合はまた神へのゆるぎない信頼、絶対的な信仰の象徴でもあります。
さらにマリアは「海の星」とも呼ばれます。ザンクト・ガレン修道院の9世紀の写本に伝わる「アウェ、マリス・ステッラ」(AVE, MARIS STELLA ラテン語で「めでたし、海の星よ」の意)では、「清き生を授けたまえ。安けき道をととのえたまえ。イエズスにまみゆる我らの、とわなる喜びのうちにあらんため」という祈りが聖母に対して捧げられます。本品表(おもて)面に刻まれた「御身の母なるを示したまえ」(MONSTRA
TE ESSE MATREM) という言葉も、「アウェ、マリス・ステッラ」の一節に他なりません。
したがって本品裏面に刻まれた百合と星は聖母の象徴であることがわかりますが、表(おもて)面の言葉が言う如く、聖母は「マリアの子ら会」会員の母なのであり、その徳は会員の鑑(かがみ 手本)です。マリアと同様に神に選ばれた会員たちは、マリアと同様に神を信頼し、マリアを手本として清き生を歩んでイエズスに見(まみ)えることを求められています。「マリアの子ら会」のメダイに刻まれた星と百合は、会員たちが送るべき信仰生活の象徴でもあるのです。
本品は19世紀のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらずたいへん良好なコンディションです。大きめのサイズですので男性にもお使いいただけます。