小さな高級品 マリアとクリストフ 銀に青色エマイユを施した「新生」のメダイ 127 x 104 mm
突出部分を含むサイズ 縦 12.7 x 横 10.4 mm
フランス 1940年代
青色ガラスのエマイユを施した八角形のメダイ。メダイの図柄として最も人気がある「聖母マリア」と「聖クリストフ」をテーマに制作されています。指先に載る小さなサイズながら、信心具の素材として最も高級な銀を使用した高級品です。フランスにおいて800シルバー(純度
800/1000の銀)を表すポワンソン(ホールマーク 貴金属検質所の印)が、上部の環に刻印されています。
一方の面には幼子イエスを肩に乗せて河を渡る聖クリストフが浮き彫りにされています。13世紀の聖人伝集成「レゲンダ・アウレア」によると、大男の武人クリストフォロスは世界で最強の君主に仕えることを望み、まずはじめに、最強と思われるカナンの王に仕えました。しかしながら王が悪魔を恐れていることがわかったので、次に悪魔の家来になりました。やがて悪魔が神を恐れていることを知ると、神に仕えることを望みましたが、どうすれば神に出会えるかがわかりません。隠者に相談したところ、人を背負って深い川を渡す仕事をすれば神に出会える、と教えられました。ある日小さな男の子が現れて、向こう岸に渡してくれるようにと頼まれたクリストフォロスは、男の子を肩に乗せて運び始めますが、途中で男の子が非常に重くなり、やっとの思いで向こう岸にたどり着きました。男の子は世界を創ったキリストで、世界よりも重かったのです。クリストフォロスはこのときから神に仕える者となりました。
「クリストフォロス」(Χριστόφορος) は、ギリシア語で「キリスト」を表す「クリストス」の語根「クリスト」 "Χριστ-"
と、「運ぶ人」を表す「フォロス」"-φορος" を "-ο-" で繋いだ合成語で、「キリストを運ぶ人」という意味です。クリストフォロスのフランス語形は「クリストフ」(Christophe)
です。メダイのクリストフは、肩の上の男の子があまりにも重くなったので、杖にすがって振り返り、問いかけるように男の子を見ています。男の子は全宇宙の支配権を示すグロブス・クルーキゲル(世界球)を手にし、天を指し示して、自らが神にして天地の造り主イエス・キリストであることを宣言しています。
中世以来、クリストフの絵や像を見た者は、その日のうちに「悪(あ)しき死」、すなわち臨終の場に司祭が立ち会わない突然の死に遭うことが無いと信じられています。それゆえクリストフのメダイには人気があって、さまざまな作品が作られています。上の写真は南ドイツで1423年に刷られた手彩色木版画で、絵の下部にはラテン語で次の言葉が書かれています。
Christofori faciem die quacumque tueris, illa nempe die morte mala
non morieris.
クリストフォロスの顔を見れば、その日は決して悪しき死に遭うことがない。
上の写真に写っている定規のひと目盛は 1ミリメートルです。大男クリストフの顔の直径が 1ミリメートル余りという極小のサイズにもかかわらず、問いかけるような聖人の表情、張りつめた腕の筋肉、足下に逆巻く川の流れ、強風にはためく衣等の細部が、大型の浮き彫り彫刻を見るかのような迫真性を以て表現されています。
もう一方の面には少女マリアの横顔が浮き彫りにされています。整った横顔を見せる歳若いマリアは、信仰の証しである神の花嫁のヴェールを被り、まっすぐに前を見ています。受胎告知の際、マリアは「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」(「ルカによる福音書」 1章 38節)と答え、自由意思によって救いを受け入れて、恩寵の器となりました。あたかもクリストフがイエスを背負ったように、十代半ばの少女マリアが人類の救いをその身に背負ったわけですが、その横顔には恐れも緊張も読み取れません。本品を制作したメダイユ彫刻家は、あくまでも柔和なマリアの横顔を浮き彫りにすることにより、「揺るぎない信仰」「神への信頼」「心の平和」という不可視の価値を見事に形象化しています。
上の写真に写っている定規のひと目盛は 1ミリメートルです。目、鼻、口の位置が 0.1ミリメートルでも狂えば全体のバランスが崩れますが、メダイユ彫刻家は人間離れした腕前でミニアチュール彫刻を完成し、外見的な容貌ばかりか、マリアの信仰をも形にしています。
このメダイは八角形のシルエットを有します。キリスト教の象徴体系において、神が天地創造に要し給うた日の数である「七」は、物事の完結性を表します。いっぽう「八」は「七」の次の数であるゆえに、物事の新たな始まり、新生、生まれ変わり、新しい命を表します。全身を水中に浸す洗礼が行われていた時代に、洗礼堂が八角形のプランで建てられていたのも、「八」が有するこの象徴性ゆえです。
本品の彫刻において、聖クリストフが川を渡る様子は、ヨルダン川でイエスが受け給うた洗礼を思い起こさせます。また若きマリアの横顔は、救いと新生を受け容れた受胎告知の聖母の姿に他なりません。エマイユの色である青は、聖母の色であるとともに、フランスの色でもあります。
これらのことを考え合わせると、メダイが表す意味は自から明らかです。すなわち本品は、クリストフの図柄によって神の加護を願い、マリアの図柄によって聖母の執り成しを祈るのみならず、八角形の形状によって「メダイを持つ人の新生、新しき出発」を願い、青い色によって「フランスの再生」を祈念しています。「フランスの新生」を祈念する理由は、本品が1940年代、すなわちフランスが第二次世界大戦に傷つき、その傷から立ち直ろうとしていた年代に制作されたからです。
本品はおよそ七十年前のヴィンテージ品ですが、保存状態は極めて良好です。銀製の部分にもエマイユのガラスにも、特筆すべき問題は一切ありません。
本体価格 7,800円 販売終了 SOLD
電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。
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