リュシアン・カリア作 「めでたし、聖寵充ち満てるマリア」 少女の幸福を見守るマリアの銀無垢メダイ アール・デコ様式の名品 直径 18.0 mm


突出部分を含むサイズ 縦 20.9 x 横 18.3 mm

フランス  1920年頃



 白百合を抱く少女マリアの美麗メダイ。1920年代頃のフランスで制作された作品で、裏面に彫られたアール・デコ様式の装飾が、この時代ならではの特徴を映しています。





 受胎告知の際、マリアは「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」(ルカ 1:38)と答え、自由意思によって救いを受け入れて、恩寵の器となりました。本品の浮き彫りにおいて、少女マリアは信仰の証しである神の花嫁のヴェールを被り、百合の花束を抱いています。本品のマリアは十代半ばの少女にしては大人びた顔立ちですが、これはイスラエルの太祖たちにも勝る優れた信仰が、成熟した表情として視覚化されたためです。マリアの柔和な横顔は、揺るぎない信仰、神への信頼、心の平和を表しています。

 マリアが胸に抱く百合の花束は、マリアが救い主の母として神に選ばれたことを象徴します。クレルヴォーの聖ベルナールは、「雅歌」二章の若者を「神」、若者の恋人である乙女を「神に選ばれたマリア」と解釈しました。「雅歌」二章一節から六節を、ノヴァ・ヴルガタと新共同訳により引用します。二節は若者の歌、それ以外は乙女の歌です。

    NOVA VULGATA      新共同訳 
  1.  Ego flos campi
et lilium convallium.
    わたしはシャロンのばら、
野のゆり。
         
  2. Sicut lilium inter spinas,
sic amica mea inter filias.
  おとめたちの中にいるわたしの恋人は
茨の中に咲きいでたゆりの花。
         
  3. Sicut malus inter ligna silvarum,
sic dilectus meus inter filios.
Sub umbra illius, quem desideraveram, sedi,
et fructus eius dulcis gutturi meo.
    若者たちの中にいるわたしの恋しい人は
森の中に立つりんごの木。
わたしはその木陰を慕って座り
甘い実を口にふくみました。
  4. Introduxit me in cellam vinariam,
et vexillum eius super me est caritas.
    その人はわたしを宴の家に伴い
わたしの上に愛の旗を掲げてくれました。
  5. Fulcite me uvarum placentis,
stipate me malis,
quia amore langueo.
    ぶどうのお菓子でわたしを養い
りんごで力づけてください。
わたしは恋に病んでいますから。
  6. Laeva eius sub capite meo,
et dextera illius amplexatur me.
    あの人が左の腕をわたしの頭の下に伸べ
右の腕でわたしを抱いてくださればよいのに。


 「雅歌」二章二節には、「おとめたちの中にいるわたしの恋人は、茨の中に咲きいでたゆりの花」と謳われています。聖ベルナールの解釈によれば、マリアは香しき白百合に他なりません。

 「マタイによる福音書」六章二十五節から三十四節、及び「ルカによる福音書」十二章二十二節から三十四節に記録されたイエス・キリストの言葉により、百合は「神の摂理を信じる信仰」の象徴でもあります。また白百合が純潔の象徴であることは良く知られています。これらすべての意味において、百合の花は「優れた信仰ゆえに神に選ばれたマリア」を卓越的に表します。





 マリアの左肩付近に、リュシアン・カリアのサイン(L, CARIAT)が彫られています。リュシアン・カリア(Lucien Jean Henri Cariat. 1874 - 1925)はパリ生まれのメダイユ彫刻家で、肖像を得意とし、二十世紀初頭から二十年代前半にかけて美しい作品群を制作しました。リュシアン・カリアの作品はオルセー美術館にも収蔵されています。裏面の意匠から判断して、本品の制作年代は 1920年頃です。したがって本品はメダイユ彫刻家リュシアン・カリアが円熟期を迎えた最晩年の作品であることがわかります。

 純度八百パーミル(800/1000)の銀を表すパリ造幣局のポワンソン(仏 poinçon 貴金属の検質印)、「テト・ド・サングリエ」(仏 tête de sanglier イノシシの頭)が、上部の環に刻印されています。純度八百パーミルの銀はフランスの信心具に使われる最も高級な素材です。「テト・ド・サングリエ」の検質印は 1838年から 1973年まで使用されていました。




(上) 絹のリボンを結んだ立体カニヴェ 「初聖体の日」 119 x 77 mm フランス 19世紀末 当店の商品です。


 九十年前のフランスでは、現代人には想像できないほど貧富の差が激しく、一般の人々はめったなことで銀無垢製品を購入できませんでした。銀はめっきとして使われるのが普通で、銀でできた「銀無垢」(ぎんむく)製品は特別な高級品だったのです。したがって銀無垢製品である本品は、人生の特別な機会に購入されたものであることがわかります。

 花嫁のヴェールを被った少女マリアの図柄から判断すると、おそらく十二歳の女の子が初聖体を受ける際に、両親から贈られたものでしょう。日々大切に身に着けられた本品は、突出部分が磨滅して、真正のアンティーク品ならではの優しい丸みを帯びています。少女がマリアに捧げた日々の祈りが、柔らかなメダイの表情になっています。





 メダイの裏面には、アール・デコ様式の模様に重ねて、三輪の白百合が浮き彫りにされています。多くの受胎告知画において、百合はガブリエルからマリアに差し出され、あるいはマリアの居室に飾られています。





 上の写真は筆者(男性)の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になると、もうひと回り大きなサイズに感じられます。

 本品は百年近く前のフランスで制作された真正のアンティーク品です。少女が聖母に捧げた日々の祈りはメダイの丸みとなり、本品に柔らかな表情を与えてくれています。マリアの柔和な微笑みが、少女の幸せな日々を祝福しています。アンティークならではの表情を獲得した本品は、高名なメダイユ彫刻家リュシアン・カリアと、名も無き少女による美しき共作であり、小さな美術品です。





本体価格 11,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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