未使用・稀少品 ルイ・トリカール作 《円形メダイユ 荒れ野に呼ばふ声あり 直径 17.6 mm》 福音記者聖マルコとライオン フランス 1930年代
突出部分を除く直径 17.6 mm 最大の厚さ 2.0 mm 重量 2.3 g
福音記者マルコをライオンと共に浮き彫りにした稀少なメダイユ(メダイ)。聖マルコのメダイを目にすることはほとんどありませんが、とりわけ本品は高名なメダイユ彫刻家ルイ・トリカール(Louis
Tricard)の作品であり、数あるアンティーク・メダイユの中でもほぼ入手不可能な作品です。トリカールの署名は少し読みづらいですが、メダイユ表(おもて)面の向かって右下部分に刻まれています。
メダイユの中央には、聖マルコが大きく浮き彫りにされています。聖マルコは本を抱えていますが、左手に鵞ペンを持っていることから、この本、すなわち「マルコによる福音書」の著者は、聖マルコ自身であることが分かります。サーンクトゥス・マルクス・アポストルス(羅 SANCTUS MARCUS APOSTOLUS 使徒聖マルコ)の文字が、頭部の光背にラテン語で刻まれています。
アポストルス(羅 APOSTOLUS)はギリシア語アポストロス(希 ἀπόστολος)のラテン語式表記です。ギリシア語アポストロスは動詞アポステッロー(希
ἀποστέλλω 派遣する)の派生語で、遣わされた者、使者のことです。福音記者マルコとルカは十二使徒には含まれませんが、福音書の著述を通して後の世までも宣教に資したので、十二使徒に含まれるマタイ、ヨハネと同様に、アポストロス(使徒)と呼ばれます。
マルコの右側(向かって左側)には、ライオンが寄り添っています。聖マルコとライオンを囲むように、ラテン語の句が刻まれています。
VOX CLAMANTIS IN DESERTO 荒れ野で叫ぶ者の声がする。
デーセルトゥム(羅 DĒSERTUM)は動詞デーセロー(羅 DĒSERŌ 棄てる、捨て置く)の完了分詞ですが、これを荒れ野の意味で実体詞(名詞)として使うのは、四世紀頃のキリスト教著述家に始まる用法です。オックスフォードのラテン語辞典(Lewis
& Short, A LATIN DICTIONARY, Clarendon, Oxford, 1984)には、キリスト教詩人プルーデンティウス(Aurelius Prudentius Clemens,
348 - c. 413)の「アポテオーシス」774、ヒエロニムス(c. 347 - 419)の書簡125, 2及びヴルガタ訳聖書各所が用例として引いてあります。
「マルコによる福音書」一章二節と三節には、次のように書いてあります。
見よ、わたしはあなたより先に使者を遣わし、あなたの道を準備させよう。
荒れ野で叫ぶ者の声がする。『主の道を整え、その道筋をまっすぐにせよ。』
二節は「マラキ書」三章一節から、三節は「イザヤ書」四十章三節から、それぞれ簡潔に引用されています。 マルコは洗礼者ヨハネがメシアの前触れであったこと、すなわち預言者ヨハネに先触れされたイエスが真のメシア(キリスト、救世主)であることを示すために、これらの預言書を引用しています。
マルコに寄り添うライオンはアジアライオン(Panthera leo persica)です。アジア種にしてもアフリカ種にしても、ライオンは半乾燥地帯に生息します。現在のアジアライオンはインド北西部グジャラート州の野生生物保護区に数百頭が残るのみですが、マルコの時代にはバルカン半島から中東、ウクライナ、イランを経てインド西南アジアに至るまで、広い地域に生息していました。
「コロサイの信徒への手紙」四章十節で、使徒パウロは次のように書いています。
わたしと一緒に捕らわれの身となっているアリスタルコが、そしてバルナバのいとこマルコが、あなたがたによろしくと言っています。このマルコについては、もしそちらに行ったら迎えるようにとの指示を、あなたがたは受けているはずです。 |
ここに登場するマルコは、福音記者マルコです。パウロの証言から、福音記者マルコはバルナバのいとこであったことが分かります。さらにバルナバに関して、「使徒言行録」四章三十六節から三十七節は次のように記しています。
36. | レビ族の人で、使徒たちからバルナバ――「慰めの子」という意味――と呼ばれていた、キプロス島生まれのヨセフも、 | ||
37. | 持っていた畑を売り、その代金を持って来て使徒たちの足もとに置いた。 |
バルナバがレビ人であるならば、バルナバと親戚関係にある福音記者マルコもレビ人であったと考えられます。彼らと同じくレビ人であった洗礼者ヨハネは荒れ野に住んで、ラクダの毛衣を着、腰に革の帯を締め、いなごと野蜜を食べ物としていました(マルコ
1: 6、マタイ 3: 4)。それゆえ「マルコによる福音書」の冒頭に置かれた荒れ野のモティーフは、この福音書にこの上なくふさわしいものと言えます。
「エゼキエル書」一章五節から二十節、ならびに「ヨハネの黙示録」四章六節から八節には、テトラモルフ(四つの生き物)、すなわち人間、ライオン、牛、鷲が登場します。リヨンの聖エイレナイオス(St. Eirenaeus Lugduni, c. 130 - 202)によると、「マルコによる福音書」は荒れ野の記述から始まるゆえに、テトラモルフのライオンはマルコを表します。
聖ヒエロニムス(St. Eusebius Sophronius Hieronymus, c. 347 - 420)は、テトラモルフの生き物それぞれがキリストの生涯における重要な出来事を表すと考え、人間をキリストの受肉、ライオンを荒れ野での誘惑、牛を受難、鷲を昇天に対応させました。聖ヒエロニムスの解釈に従い、出来事が起こった順にテトラモルフを並べると、ライオンは二番目の位置を占めます。
四人の福音記者を四つの生き物に対応させる教父たちの聖書解釈は、新約聖書のカノーン(希 κανών 規範、正典)が選ばれ、現在のように配列されるにあたって、強い影響を及ぼしたと考えることができます。
裏面に見られる菱形の刻印は、フランスの銀細工工房によります。素材の金属を示す検質印(ホールマーク)はありません。
上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。
本品は金めっきが掛けられています。浮き彫りの突出部分や裏面の縁部分はめっきが剥がれやすいですが、本品のめっきはまったく傷みが見られません。本品は今からおよそ九十年前、1930年代のフランスで制作されたものですが、古い年代にも関わらず、稀少な未使用品と思われます。
福音記者マルコのメダイはたいへん珍しく、長年に亙ってフランス製メダイを取り扱ってきた筆者(広川)自身、本品一点しか見たことがありません。ご購入いただいた方には必ずご満足いただけます。
本体価格 18,800円
電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。
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