アール・ヌーヴォー様式による透かし細工 マリアを教育する母アンナのメダイ ブルターニュのエルミン 23.0 x 15.1 mm


突出部分を含むサイズ 縦 23.0 x 横 15.1 mm

フランス  19世紀末から20世紀初頭



 伝統的な図像を透かし細工で表した聖アンナのメダイ。1900年頃のフランスのもので、銀色の合金でできています。植物を思わせる左右非対称の曲線を多用したアール・ヌーヴォーのデザインは、この時代ならではの様式です。





 表(おもて)面には聖母マリアの母である聖アンナが幼い娘を教育している場面を表しています。修道女のように慎ましやかな衣を着て簡素な椅子に座った聖アンナは、膝の上に本を広げてページを指し示し、預言者たちが語った神の教えと、文字の読み書きを娘マリアに教えています。

 マリアを教育する姿は聖アンナの典型的図像表現で、中世以来、ステンド・グラス等にしばしば表されています。神の知恵そのものである幼子イエズスが、知恵を象徴する書物を手にして聖母の膝の上に座る「知恵の座の聖母」像のなかには、あたかも聖母がイエズスを教育しているかのように表現した作例が存在しますが、「マリアを教育する聖アンナ」は、これを一世代遡(さかのぼ)らせた図像と解釈することが可能です。


(下) 参考画像 「知恵の座の聖母」 15世紀の作例。勉強に疲れた幼子イエズスが、聖母の膝の上で居眠りしています。

 Henri Bellechose (fl. 1415), La Vierge a l'ecritoire


 メダイの最上部に刻まれた三輪の花は、一重の薔薇です。薔薇は白百合と並んで聖母を象徴する花です。

 聖アンナと少女マリアの背景は、全体が透かし彫りになっています。植物の蔓(つる)をモティーフとしているのは、アール・ヌーヴォー様式の特徴でもありますが、このメダイの場合はエッサイの樹のイメージとも重なります。マリアとアンナの足元に、フランス語で「サンタンヌ」(Ste. Anne 聖アンナ)と書かれています。

 メダイの最下部にはブルターニュの象徴であるエルミン(仏 l'Ermine)があしらわれています。伝承によると、聖アンナは 1624年、当地の農夫イヴ・ニコラジク(Yves Nicolazic, 1591 - 1645)に対して何度も出現し、自分(聖アンナ)にゆかりの地である彼の村に、聖アンナに献じた礼拝堂を建設することを求めました。1625年3月7日、自身に対する聖アンナの出現を証明するために、ニコラジクは大勢の村人が見守る場で地中から一体の像を掘り出します。この像は後に当地のカプチン会の修道士たちによって手が加えられて聖アンナの像として認知されるようになり、やがてヴァンヌ司教は当地における聖アンナ崇敬と礼拝堂建設を許可しました。 礼拝堂が建てられたニコラジクの村はサン=タンヌ=ドーレ(Sainte-Anne-d'Auray)と呼ばれて、聖アンナはブルターニュの守護聖人となりました。


 本品は100年以上前にフランスで制作されたものですが、古いメダイであるにもかかわらず、新品同様のコンディションです。軽やかな透かし細工、アールヌーヴォーの優美な曲線、可憐な薔薇が互いに響きあい、ふたりの聖女の優しさを感じさせる優美な品に仕上がっています。





本体価格 12,800円 販売終了 SOLD

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