ラファエロ作 「サン・シストの聖母」 幸運の守護天使 薔薇を刻んだ四つ葉形のメダイ 23.5 x 19.4 mm
突出部分を含むサイズ 縦 23.5 x 横 19.4 mm
フランス 1934年
ラファエロの名画、「サン・シストの聖母(システィナの聖母)」の画面下方に描かれたふたりのアンジュロのうち、向かって左側のアンジュロ(angelot 小天使)を刻んだ愛らしいメダイ。幼児のように丸々としたアンジュロの体形が、巧みな浮き彫りによって活き活きと表現されています。
ラファエロの原画では中心に聖母子が描かれ、向かって左側に3世紀の初代ランス司教聖シクストゥス (St. Sixte de Reims)、 右側に3世紀の殉教聖女聖バルバラを描きます。ふたりのアンジュロは画面の最下部に描き加えられていて、左側のアンジュロは肘をついて顎を掌に載せ、右側のアンジュロは重ねて置いた手に顎を載せ、いずれも頭上の聖母子を退屈そうに眺める姿はたいへんユーモラスで可愛らしく、微笑みを誘います。
(下) Raffaelo Sanzio, "Madonna Sistina", 1512 - 14, Öl auf Leinwand, 265 x 196 cm, Gemädegalerie Alte Meister,
Dresden
この作品は38歳の若さで亡くなったラファエロが、自らの手で仕上げた最後の聖母子像です。1754年以来ずっとドレスデンにあり、第二次世界大戦当時はヒトラーの命により地下室に保管されていたために、連合軍のドレスデン空襲による破壊を免れました。第二次世界大戦後、いったんモスクワに運ばれましたが、その後ドレスデンに返却され、現在に至っています。
本品の説明に戻ります。
ゴシック建築では、フランス語で「カドリロブ」(quadrilobe) または「カトルフイユ」(quatre-feuilles) と呼ばれる四つ葉装飾が壁の刳り型や窓に多用されますが、本品のシルエットはこの「カドリロブ」を模(かたど)っており、頭と翼の突出と曲線をうまく活かした造形となっています。メダイの縁も建築物の「カドリロブ」さながらに丁寧に仕上げられていて、まるでアンジュロが窓際で頬杖をついて空を眺めているような面白い効果が生まれています。
「カドリロブ」の下部は文字を彫り込めるようになっています。現状ではこの部分に何も彫られていません。
メダイの裏面は表(おもて)面と同様の丁寧さで仕上げた縁に囲まれ、ひとつの株から分かれ出て咲く三輪の薔薇が浮き彫りにされています。中心と左右に三輪の薔薇が咲く構図は「カドリロブ」の画面に調和しています。葉や枝、棘、つぼみまでも精緻に再現した浮き彫りはたいへん巧みで、あたかも活きて咲く薔薇のようです。
薔薇はもともと五枚の花弁を有する花ですが、五枚の赤い花弁がキリストの五つの傷を思わせるゆえに、キリスト受難の象徴でもあり、神の愛の象徴でもあります。本品に彫られた花の数が三輪であるのは、三位一体の神の愛を表しています。人への愛ゆえに十字架で受難し給うたのは、三位一体の第二のペルソナであるキリストですが、ペルソナ間のペリコーレーシス(περιχώρησις 相互浸透)に基づき、三位一体の三つの位格が「三本の十字架」「三輪の薔薇」「三つのクリスム
(XP)」等で象徴的に表されることはよくあります。
棘のある繁みから生まれながらも、棘に傷つくことなく美しい花を咲かせる薔薇は、エヴァが犯した罪に傷付かない無原罪の御宿り、聖母の象徴でもあります。本品の向かって左に咲く薔薇の左下には、大輪の花に寄り添うように小さなつぼみが彫られています。これは天上でキリストの右(向かって左)の座にある聖母マリアではないでしょうか。
メダイの下部には流麗な書体でイニシアル (I. G.) と日付(3 Juin 1934 1934年6月3日)が手彫りされています。楕円の中に
"FIX" とあるのは、フランスのメダイユ工房の刻印です。
1934年は第一次世界大戦と第二次世界大戦の間に位置する戦間期です。ヨーロッパ全土を荒廃させた未曾有の世界大戦(第一次大戦)の終結後、人々は恒久平和を願って国際連盟を設立しましたが、平和は長続きしませんでした。1933年にはドイツでヒトラー内閣が成立し、1935年にはドイツの再軍備とユダヤ人に対する絶滅政策が始まります。本品に刻まれた日付の五年後、1939年には第二次世界大戦が始まって、フランスの国土は再び荒廃し、戦死者、戦災死者、戦争寡婦、戦争孤児が国中に溢れることになります。
文字を彫るスペースが限られているゆえにイニシアルと日付しか刻まれていませんが、この小さなメダイはおそらく新生児の洗礼、または幼い子供の初聖体を記念したものでしょう。この五年後に再び世界大戦が起こることを知っている私たちは、このメダイを贈られた子供の安全を幸せを願わずにいられません。
本品の材質はブロンズに金の薄板を貼り付けた「金張り」あるいは「ロールド・ゴールド・プレート」です。突出部分であるアンジュロの頭部に金の磨滅が見られますが、この部分をルーペで観察すれば、当時の「金張り」に使われた金が、現代の金めっきに比べて十倍以上も厚いことがわかります。
本品は80年近く前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず十分に良好な保存状態で、細部までよく残っています。拡大写真は実物の面積を35倍に拡大してあるので金の磨滅が判別できますが、肉眼で見る実物は美しく、ご満足いただけます。
なお本品を手に取ったとき、多くの小きずと突出部分の磨滅に気付いて、私はほっといたしました。洗礼の記念品として大切に扱われたはずのメダイにきずが付き磨滅しているのであれば、持ち主の子供がその後も長く元気で暮らしたことが推察されるからです。この小さなアンジュロは、戦争中にも戦後の困難な時代にも、持ち主を守り抜いた守護の天使であったのかもしれません。
15,800円 販売終了 SOLD
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