金張り、金めっき、ヴェルメイユ
gold fill/doublé d'or, rolled gold plate/plaqué d'or laminé, gold electroplate/plaqué
d'or, vermeil
(上) クロワ・ジャネットに打たれたドゥブレ・ドール(金張り)の刻印。19世紀末から20世紀初頭
純金は可視域の中ほどから赤外域の波長の光をよく反射するので、黄色がかって見え ます。また化学的に非常に安定で、銀のような硫化や、鉄や銅のような酸化が起こりません。地球上に存在する金の可採埋蔵量は、これまでに採掘されたものも含めて、オリンピック・プール三杯分しかありません。これらの特性、すなわち独特の色と化学的安定性、稀少性ゆえに、金は有史以前から人間を魅了してきました。
以上に加えて、金はアレルギーを起こさないという優れた性質を有します。このため金はジュエリーや時計ケースの素材として優れたもののひとつです。しかしながら金は手に入る量が限られており、また展延性に富む反面、剛性に欠けるという欠点も有します。それゆえ銀やベース・メタル(貴金属ではない金属)の表面に金を張った素材が、ジュエリーや時計ケース(註1)に多く使用されています。
表面に金を張った素材は大きく四種類に分かれます。この論考ではそれぞれの定義を記述して、違いを整理いたします。
1. 金張り
「金張り」は、英語で「ゴールド・フィル」(gold fill)、フランス語で「ドゥブレ・ドール」(doublé d'or) といいます。
「金張り」とは、金の薄板を、高温高圧によって、ベース・メタルの表面に鑞(ろう)付けした素材です。後述の「ロールド・ゴールド・プレート」との違いは、鑞付けされる純度の金が、製品全体の重量の「二十分の一以上」使用されていることです。
金張り製品における品質表示の刻印は、"gold filled"、"G.F."、"doublé
d'or" 等です。下の写真はエルジンの女性用時計(1924年製)のケースに見られる「ゴールド・フィルド」(金張り)の刻印です。この時計ケースの場合、14カラット・ホワイト・ゴールドがケース全体の重量の二十分の一以上使用されています。時計は
当店の商品です。
時計ケースの場合、金張りであっても「ゴールド・フィルド」等の表示が無い場合があります。金張りケースが多用されていた時代には、「ゴールド・フィルド」「G.F.」等の表示が無くても、メーカー名や耐久保証の表示によって、金張りであることがはっきりと分かったからです。下の写真は、やはり1924年のエテルナ製女性用時計のケースです。「20年保証」(warranted
20 years) と刻印されていることから、金の層は厚いが金無垢ではないこと、すなわち金張りであることがわかります。時計は
当店の商品です。
買い手を騙(だま)す意図があるのか、単なる知識不足なのか、どちらかわかりませんが、ファヒス (Fahys) 製ケースのアンティーク時計を「14金ケース」という説明で売っている業者があります。ファヒスの時計ケースには「ゴールド・フィルド」「G.F.」等の表示はありませんが、ファヒス社は金張りケースしか作っていませんので、"Fahys 14K" 等の表示があるケースはすべて金張りです。金無垢ではありません。
2. ロールド・ゴールド・プレート
「ロールド・ゴールド・プレート」(rolled gold plate) は、フランス語では「プラケ・ドール・ラミネ」(plaqué d'or
laminé) といいます。
「ロールド・ゴールド・プレート」とは、金の薄板を、高温高圧によって、ベース・メタルの表面に鑞(ろう)付けした素材です。「金張り」との違いは、鑞付けされる純度の金が、製品全体の重量の「二十分の一」に満たないことです。したがって「ロールド・ゴールド・プレート」の金の厚みは「金張り」の場合よりも若干薄くなりますが、後述のゴールド・エレクトロプレートに比べるとはるかに厚い場合がほとんどです。
ロールド・ゴールド・プレート製品における品質表示の刻印は、"rolled gold plate"、"R.G.P."、"plaqué
d'or laminé" 等です。下の写真は1950年代の男性用(男女兼用)時計のケース裏蓋に見られる「ロールド・ゴールド・プレート」の刻印です。この時計ケースの場合、10カラット・イエロー・ゴールドの薄板がベゼルに張られています。時計は
当店の商品です。
下は 1956年のオメガ製女性用時計に見られるケースの刻印で、フランス語による表示「プラケ・ドール・ラミネ」の例です。厚さ80ミクロンは最も厚い「ドゥブレ・ドール」(金張り)に匹敵します。時計は
当店の商品です。
3. ゴールド・エレクトロプレート
「ゴールド・エレクトロプレート」(gold electroplate) は、フランス語では「エレクトロ=プラケ・ドール」(électro-plaqué
d'or)、あるいは単に「プラケ・ドール」(plaqué d'or) と呼ばれます。
「ゴールド・エレクトロプレート」とは、化学的、電気的、その他の方法を使って、金の層をベース・メタルの表面に付着させた素材です。「ロールド・ゴールド・プレート」との違いは、金の層を形成する方法を問わないことです。「ゴールド・エレクトロプレート」の金の厚みは、「金張り」や「ロールド・ゴールド・プレート」に比べて格段に薄いことがほとんどです。
ゴールド・エレクトロプレート製品における品質表示の刻印は、"gold electroplate"、"gold
plated"、"G.E.P."、"électro-plaqué d'or"、"or
plaqué" 等です。現代の金めっきはほとんどすべてゴールド・エレクトロプレートです。
4. ヴェルメイユ
ヴェルメイユ(vermeil)はフランス語ですが、英語でもそのままの語形で使われます。英語ではヴァーミル(vermil)と呼ばれる場合もあります。フランス語ヴェルメイユの原意は緋色(鮮紅色、ヴァーミリオン)で、これはラテン語のウェルミクルス(羅
VERMICULUS 小さな虫)に由来します。ウェルミクルスはウェルミス(羅 VERMIS 虫)の縮小形で、この場合の虫とはケルメスカイガラムシ(Kermes
vermilio, PLANCHON, 1864)を指します。
水銀(Hg)は大量の金を溶かしてアマルガムとなるゆえに、かつては洋の東西を問わずにアマルガム法による金めっきが行われ、大量の水銀が消費されました。東大寺の廬舎那仏(東大寺大仏)はブロンズに金をめっきした金銅仏ですが、創建時には練金
10,436両(一両 41 g として、およそ 428 kg)、水銀 58,602両(同じく、およそ 2,402 kg)が使用されています。アマゾン奥地の金採掘者は今でもアマルガム法を用います。
アマルガム法による金めっきは、金を溶かした水銀を他の金属製品の表面に塗り、加熱して水銀を蒸発させます。しかるに水銀を空気中で加熱すると、猛毒の酸化水銀(II)(HgO)となります。酸化水銀(II)は多く赤味がかった色を呈するゆえに、古い時代のヴェルメイユ製品が赤みがかった色合いを有しました。そのような理由で、銀の表面に金めっきを施した技法をヴェルメイユ、緋色の物と呼ぶようになり、アマルガム法が使われなくなっても名称のみが残っています。十九世紀以降に制作されたヴェルメイユは、金の薄板を、高温高圧によって、銀の表面に鑞(ろう)付けした製品です。
近代以降のヴェルメイユ製品においては、鑞付けされる純度の金が、製品全体の重量の「二十分の一以上」使用されています。「ゴールド・フィルド」との違いは、基層になる金属がベース・メタルではなく銀であることです。
ヴェルメイユ製品における品質表示の刻印は、"vermeil"、"vermil" です。ヴェルメイユは貴金属として扱われ、金、銀、プラチナと同様に、検質所(アセイ・オフィス)でホールマークを刻印されます。
下の写真は
エマイユ・シュル・バス=タイユを施した聖母のメダイユです。金属部分は金色であるにもかかわらず、800シルバーのポワンソン(ホールマーク)があり、ヴェルメイユ製品であることがわかります。このメダイは
当店の商品です。
カナダ産業省競争政策局 (le bereau de la concurrence, Canada) の資料から、カナダにおける現行の品質基準を、参考までに引用いたします。カナダにおいては、いずれの素材にも10カラット以上の純度の金を使用することになっています。
Qualité minimale pour les articles doublés d'or
Un article doublé d'or est un article composé d'un métal de base inférieur
à la surface duquel on a soudé ou brasé une plaque d'or. Afin de se qualifier
pour une marque de qualité correspondant à un article doublé d'or :
- la couche d'or doit être au titre minimal de 10K; et
- cette qualité d'or doit correspondre à au moins 1/20 du poids brut de l'article.
Nota : Si la quantité d'or 10K est inférieure à 1/20 du poids
brut de l'article, l'article doit alors être classé dans la catégorie plaqué
d'or laminé.
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Qualité minimale pour les articles plaqués d'or
Un article plaqué d'or est un article composé de toute substance sur laquelle on a déposé une couche ou un placage d'or par le biais d'un procédé chimique, électrique, mécanique ou métallurgique, ou d'une combinaison de ces procédés.
Afin de se qualifier pour une marque de qualité d'article plaqué d'or, l'article doit être recouvert d'un placage d'or au titre minimal de 10K.
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Qualité minimale pour les articles plaqués d'or laminé
Un article plaqué d'or laminé est un article composé d'un métal de base
inférieur à la surface duquel on a brasé, soudé ou brasé par la chaleur
une plaque d'or. Afin de se qualifier pour une marque de qualité correspondant
à un article plaqué d'or laminé :
- la couche d'or doit être au titre minimal de 10K; et
- cette qualité d'or doit correspondre à moins de 1/20 du poids brut de l'article.
Nota : Si la quantité d'or 10K est de 1/20 ou plus du poids brut,
l'article peut être classé dans la catégorie doublé d'or.
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Qualité minimale pour les articles vermeils
Un article vermeil est un article composé d'argent qui a été plaqué d'or.
.Afin de se qualifier pour la marque de qualité correspondant à un article
vermeil :
- l'article doit contenir de l'argent au titre minimal de 0,925; et
- la placage d'or doit être au titre minimal de 10K.
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註1 時計の「ケース」(case, boîte) とは、下の写真に写っている部分、すなわちムーヴメント(時計内部の機械)を保護する金属製の「側」(がわ)のことです。 輸送用、ディスプレイ用、ギフト用等の箱のことではありません。
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