稀少品 ブイ作 《使徒アンドレアス 小さなメダイユ 直径 15.4 mm》 未使用・銀無垢の高級品 フランス 1920 - 30年代


突出部分を除く直径 15.4 mm



 1920年代ないし 30年代頃のフランスで、メダイユ彫刻家ブイ(Bouix)によって制作された美しい作品。直径 15ミリメートル強と小さ目のサイズですが、信心具の素材として最も高級な銀でできています。

 本品に浮き彫りにされているのはシモン・ペトロの兄弟で、十二使徒のひとりでもある聖アンドレアス(Ἅγιος Ἀνδρέας, Sanctus Andreas, + c. 62)です。ガリラヤ湖畔でペトロと網を打っているときに、イエスから「わたしについて来なさい。人間をとる漁師にしよう」と声を掛けられて弟子になりました(マタイ 4: 18 - 19 他)。「ヨハネの福音書」によるとアンドレアスは洗礼者ヨハネの弟子でしたが、歩いておられるイエスを見た師ヨハネが「見よ、神の子羊」というのを聞いてイエスについてゆき、また兄弟シモンをイエスに引き合わせました(ヨハネ 1: 35 - 42)。





 アンドレアスはペトロとともに最初に召命を受けた重要な使徒ですが、この使徒のメダイはたいへん少なく、ほとんど手に入りません。本品は使徒アンドレアスが祈る姿を中央に大きく浮き彫りにし、執り成しを願うラテン語の祈りで周囲を取り巻いています。

  SANCTUS ANDREA, ORA PRO NOBIS.  聖アンドレアスよ、我らのために祈り給え。

 アンドレア(羅 ANDREA)はアンドレアス(羅 ANDREAS)の呼格です。サンクトゥス(羅 SANCTUS 聖なる)が主格のままですが、主核と呼格の混用は中世以降のラテン語に時折みられます。


 イエスやマリアをはじめ、聖書には登場人々の外見に関して如何なる記述もありません。ペトロについてもアンドレアスについても年齢や身体的特徴は一切記録されておらず、美術作品に描かれる姿は全くの想像によります。本品に浮き彫りにされた聖アンドレアスは如何にもユダヤ人にふさわしく、髪と髭を伸ばしています。アンドレアスの姿も画家によって大きく異なりますが、本品の使徒の姿と祈祷書の描写は下に示したシモーネ・マルティーニのテンペラ画を髣髴させます。本品メダイを制作する際に、ブイはこのテンペラ画を参考にしたのかもしれません。




(上) Simone Martini, Saint Andrew, c. 1330, tempera on wood, gold ground, 57.2 x 37.8 cm, The Metropolitan Museum of Art, New York


 宗教的図像において聖人とともに描かれ、聖人を同定する助けとなる物品を持物(じぶつ アトリビュート)といいます。たいていの持物は聖人伝を典拠とします。聖アンドレアスの事蹟を述べた新約正典以外の文書としては、外典「アンデレ行伝」があります。これは「ヨハネ行伝」「ペトロ行伝」「パウロ行伝」「トマス行伝」とともに、レウキウス(Leucius)という人物による書物とされて八世紀頃まで広く流布しており、エウセビオスやアウグスティヌスの著作にも言及がみられます。

 「アンデレ行伝」("VITA ANDREAE")はいくつかの写本が残っていますが、ほとんどは「原アンデレ行伝」が大幅に加筆されたものと考えられています。「原アンデレ行伝」は現存していませんが、ヴァティカン図書館にあるギリシア語写本(Codex Vaticanus graecus 808)と、ユトレヒト大学にあるコプト語のパピルス断片 (Papyrus Copt. Utrtcht I) は、原資料に忠実な写本と考えられています。前者は使徒がパトラエに囚われていた際の事蹟がその内容となっていますが、殉教の部分は残っていません。「アンデレ行伝」の成立年代は最近の研究によって従来の説よりも早められ、190年よりも以前と考えられています。





 聖人伝は史実性が疑わしい場合が多いですが、「アンデレ行伝」は成立年代が古いので、史実をある程度正確に反映していると考えられます。「アンデレ行伝」によると、聖アンドレアスはペロポンネソス半島北端のパトラエで十字架に架けられて殉教しました。「アンデレ行伝」の記述によると聖人は普通のラテン十字に括りつけられて殉教していますが、後世の伝承ではイエスと同じラテン十字に架かるのは畏れ多いという聖人の願い出により、エックス(X)形の十字架が殉教に用いられたとされ、この形の十字架は聖アンドレアス十字と呼ばれるようになりました。

 アンドレアス十字は本品にも刻まれています。木材の質感や釘が写実的である反面、十字架のサイズが小さすぎますが、持物は象徴的機能を果たしさえすればよいので、木製十字架の質感を迫真的に表現した本品は優れた浮き彫りといえます。





 十三世紀の聖人伝「レゲンダ・アウレア」は宗教美術の分野において多くの表現の典拠となる重要資料です。同書によると、使徒アンドレアスは処刑される直前に、瞑想への思いを熱心に語りました。聖アンドレアスはこの記述に基づいて本を手にした姿で表されることも多く、本品もそのような作例のひとつとなっています。ます。「レゲンダ・アウレア」によると、使徒アンドレアスは殉教の直前に自分が架けられる十字架を見て次のように祈りました。テキストは十三世紀のラテン語、日本語訳は筆者(広川)によります。

     O bona crux, quae decorem ex membris Domini suscepisti, diu desiderata, sollicite amata, sine intermissione quaesita, et aliquando cupienti animo praeparata: accipe me ab hominibus, et redde me magistro meo; ut per te me recipiat, qui per te me redemit.    主が御体によりて飾られし善き十字架よ。ずっと以前から願われ、切に望まれ、絶え間なく求められたる十字架よ。(汝を)求むる(わが)魂に、ようやく与えられんとする十字架よ。(数ある)人のなかからわれを(選びて)受け入れ、わが師の許へと行かしめよ。汝を通してわれを購いたまいし御方が、汝を通してわれを受けたまわんがため。


 ハギオグラフィ(聖人伝)は歴史的事実の記述を事としないまでも、「レゲンダ・アウレア」はあまりにも荒唐無稽な内容が多く、著者のジェノヴァ大司教ヤコブス・デ・ウォラギネは同時代の教会人たちから厳しく批判されました。使徒アンドレアスの祈りも創作に違いありませんが、「レゲンダ・アウレア」に頻繁に登場する超自然的な出来事とは違い、主イエスに従って殉教する使徒が実際に心に浮かべたであろう祈りの心境をよく表しています。





 正典福音書は救済の経綸を解き明かし、イエスがメシアであると証明することを唯一の目的としています。それゆえ福音記者にとって登場人物の容姿が関心の埒外にあるのはもちろんのこと、個人的な感情の動きもほとんど描写されません。このような意味で福音書は我々が通常思い浮かべる文学とは大きく異なります。

 いっぽう聖人伝の役割は、正典福音書に欠落した文学性を補うことです。人々の文学的欲求に応えて産み出された聖人伝文学は、イエス、聖母、使徒、聖人たちを実在の人物として身近に感じさせるために大きな役割を果たしています。たとえ荒唐無稽であろうとも、聖人伝が芸術的営為に生命を吹き込み、本品をはじめとする美術作品群を産み出している事実は、聖人伝が有する文化的産生力の豊穣さを如実に示しています。


 使徒の向かって右下にメダイユ彫刻家ブイのサイン(Bouix)、左下に銀細工工房のマーク(AP)が刻まれています。メダイ上部に上部の突出部分には、銀細工工房の菱形の刻印と、八百パーミル(八十パーセント)の銀を示す蟹の検質印(ホールマーク)があります。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。

 本品は突出部分を除く直径が十五ミリメートルあまりと小さめのサイズですが、使徒アンドレアスの顔、手、髪、髭、十字架、祈祷書のどこを取っても大型の浮き彫り作品に劣らない迫真性を有するばかりか、アンドレアスの表情には主イエスに従って殉教する前の心の平和が紛れもなく表されています。不可視の価値を可視化した本品の優れた出来栄えは、メダイユ彫刻家がブイが手先が器用なだけでなく、力強い芸術的表現を為し得るミニアチュール彫刻家であったことを証明しています。浮き彫り彫刻が発達したフランス製メダイのなかでも、本品はとりわけ優れた作品のひとつです。







 本品は数十年前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず保存状態は極めて良好で、おそらく未使用のまま大切に保管されていたものと思われます。そのため突出部分にも摩滅はまったく見られず、細部まで完全な状態で残っています。フランスでは現在でも、数万円から十数万円程度の貴金属製メダイユを、人生の節目に購入したり贈ったりする習慣があります。本品は信心具の素材として当時最も高級であった銀でできており、人生の大切な節目に購入された特別なメダイユであったことがうかがえます。

 直径 15ミリメートル強と小さ目のサイズであるゆえに、本品はどのような服装にも良く似合います。日々ご愛用いただける本物の美術品です。使徒アンドレアスの祝日は 11月 30日です。





本体価格 15,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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