ジャン=バティスト・エミール・ドロプシ作 「童貞マリア」 セルロイド製台座のゆりかご用メダイユ ウルトラマリンのエマイユ・パン 100.8 x 70.7 mm


突出部分を含むサイズ 縦 100.8 x 横 70.7 mm

ブロンズ製円形メダイユ部分の最大の厚さ 7.3 mm (セルロイド製台座を含む)


重量 28.8 g


フランス  1920 - 30年代



 高名なメダイユ彫刻家ジャン=バティスト・エミール・ドロプシ(Jean-Baptiste Emile Dropsy, 1848 - 1923)によるメダイユ・ド・ベルソー(仏 médailles de berceau ゆりかご用メダイ)。八十年ないし九十年前のフランスで制作された美しい品物です。





 円形メダイユは、のちに聖母となる少女マリアの横顔を、浮彫彫刻で表しています。円形メダイユの直径は四十五ミリメートルで、ブロンズを打ち出して金めっきをかけ、エマイユ・パンを施しています。円形メダイユは八角形の台座に嵌め込まれ、螺子(ねじ)で固定されています。台座は象牙色のセルロイドでできています。上の写真は本品の表裏を写して並べた合成写真です。メダイユ・ド・ベルソーは一点のみ在庫しています。





 キリスト教の伝統的図像表現において、聖母をはじめとする聖女たちは、祈りの象徴であるヴェールを被った姿で表されます。マリアのヴェールには、受胎告知のマリアが被る神の花嫁のヴェールと、マーテル・ドローローサ(羅 MATER DOLOROSA)が被る悲しみのヴェールの二通りがあります。本品のマリアはごく若い年齢であること、ヴェールは薄く軽やかで柔らかいこと、瑠璃(るり ラピス・ラズリ)のような後光の文様に華やぎが感じられることから、本品に彫られているのは受胎告知の聖母、アヌンティアータ(羅 ANNUNTIATA)であり、少女マリアは神の花嫁として描かれていることが分かります。





 マリアは家にいるときに、ガブリエルから救い主の受胎を告知されました。天使が家の中に突然入ってくるという、普通の人であれば不安におののくであろう異常な状況にもかかわらず、マリアは優しいまなざしを前方に向けています。少女のまなざしの先に具体的な何かが見えているわけではなありませんが、盤石(ばんじゃく)不動の信仰を有するマリアは、あたかも野にある白百合のようにすべてを神の摂理に委ねて(マタイ 6: 25 - 34)、何らの不安も感じていないのです。





 マリアの肩のすぐ後ろ、円形メダイユの縁に近いところに、「E・ドロプシ」のサイン(E. Dropsy)があります。ドロプシという名前のメダイユ彫刻家には、フランスが生んだ最も優れたメダイユ彫刻家のひとりであるジャン=バティスト・エミール・ドロプシ(Jean-Baptiste Emile Dropsy, 1848 - 1923)と、その息子でやはり高名なアンリ・ドロプシ(Henri Dropsy, 1885 - 1969)があります。本品のマリアは父エミール・ドロプシの作品で、彫刻家の没後にメダイユ・ド・ベルソーとして制作されています。

 救世主を産むという大任を果たすように天使ガブリエルから告げられても、少女マリアはいささかも動じませんでした。マリアの信仰、神に対する限りない信頼は、メダイユ彫刻家ジャン=バティスト・エミール・ドロプシの優れた浮き彫りにより、あくまでも穏やかな表情のうちに形象化されています。





 聖母像の背景には、ウルトラマリンすなわち瑠璃(ラピス・ラズリ)色の不透明ガラスにより、エマイユ・パン(仏 émailpeint 手書きエマイユ)が施されています。エマイユのパターンは一定の規則性を有しつつも有機的曲線を多用し、アール・ヌーヴォーの残り香を留めます。ウルトラマリンと金色の組み合わせは、温かみと華やぎを感じさせます。

 ウルトラマリンのエマイユ・パンによる後光のパターンは、筆者(広川)にはクジャクの羽根に見えます。毒蛇を捕食するクジャクは、蛇を踏みつける無原罪の御宿リと重なり合います。本品のエマイユを意匠化した工芸作家は、おそらくそのことに気付いていたのでしょう。





 本品の台座に用いられているセルロイドは、セルロースから生まれた最古のプラスチックスです。セルロースは綿花やパルプから取れる多糖類(炭水化物の一種)で、硝酸セルロース(セルロイド)はこれを加工して作られます。

 セルロイドは発色が美しく、また優れた質感を有しますが、火薬といってよいほど爆発的に燃焼し、非常に危険です。筆者が子供のころは、セルロイド・フィルムの固体燃料に点火して、ロケットを飛ばす遊びがありました。セルロイドはわが国でも危険物に指定され、ほとんど使われなくなってしまいました。本品のようなセルロイド製アンティーク品は、現在では貴重品です。





 本品の制作年代は、1920年代から 30年代頃の戦間期です。この時代に生まれた子供の両親は、自身の子供時代に第一次世界大戦を経験しています。彼らは我が子の未来が平穏であることを願いましたが、先の大戦を上回る規模の戦争がやがて再発し、フランスは否応なく巻き込まれることになります。このメダイに見守られてゆりかごで眠った幼子を、聖母が加護し給うたことを願わずにはいられません。

 本品はいまから八十年ないし九十年前のフランスで制作された真正のアンティーク品(ヴィンテージ品)ですが、古い品物であるにもかかわらず、保存状態は良好です。特筆すべき問題は何もありません。





本体価格 21,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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