高名なふたりのメダイ彫刻家、 リュドヴィク・ペナン (Ludovic Penin, 1830 - 1868) とジャン・バティスト・ポンセ
(Jean-Baptiste Poncet, 1827 - 1901) のサインがある美麗なメダイ。メダイの素材としては最も高級なものである銀を使用して製作された「小さな美術品」とでも呼ぶべき品物です。
一方の面には、右手で祝福の仕草をしつつ、左手で胸の聖心を示すイエズス・キリストが浮き彫りにされています。キリストの聖心は、人間には想像することさえ難しい烈しい愛に燃え、まばゆい光を放っています。背景には次の言葉がフランス語で記されています。
Voilà ce Cœur qui a tant aimé les hommes. かくも人を愛したるこの聖心を見よ。
これは近代的な形の聖心への信心の創始者、聖マルグリット=マリ (Marguerite-Marie Alacoque, 1647 - 1690) に対して、1675年6月に出現したイエズス・キリストが言った言葉の一部で、免償のクルシフィクスにも刻まれています。
メダイの最下部、縁に近いところに、ふたりの彫刻家「ペナン」と「ポンセ」の名前が刻印されています。リュドヴィク・ペナン (Ludovic Penin,
1830 - 1868) とジャン・バティスト・ポンセ (Jean-Baptiste Poncet, 1827 - 1901) はいずれもリヨンのメダイユ彫刻家で、多くの共作を発表しています。本品の製作時期は20世紀初頭であることから、彫刻家の没後に鋳造された作品であることが分かります。
"DEPOSÉ." は「意匠登録済」の意味で、このメダイのデザインが、定型化されない独自のものであることを示しています。上部の環に800シルバー無垢を表すフランスのホールマークが刻印されています。
もう一方の面には胸の前に手を合わせて祈るルルドの聖母が、立体的な浮き彫りで表されています。ルルドの聖母はロザリオの聖母とも呼ばれますが、ロザリオにおいては、受胎告知の際の天使祝詞が主な祈りの言葉となります。このメダイに表された年若い聖母は、しっかりと目を見開いて前を見ています。天使ガブリエルから受胎を告知され、自らを神に委ねて、与えられた役割を素直に受け入れる少女マリアは、その姿に深い精神性を感じさせます。聖母の浮き彫りを取り巻いて、次の言葉がフランス語で刻まれています。
Notre-Dame de Lourdes, priez pour nous. ルルドの聖母よ、われらのために祈りたまえ。
メダイの最下部、縁に近いところにペナンとポンセの名前、「意匠登録済」(DEPOSÉ) を表す "DEP." の文字が見られます。
本品は高名な彫刻家の共作にふさわしく、イエズスの髪の質感も、イエズスとマリアの衣の自然な襞(ひだ)も、あたかも眼前にふたりがおられるようにさえ感じられる出来栄えです。商品写真は実物をおよそ60倍の面積に拡大しており、突出部分の摩耗が判別できますが、肉眼で見ると十分に綺麗なコンディションです。この程度の摩耗は真正のアンティーク品ならではの優しい丸み、趣(おもむき)とお考えください。