フランス国民の誓い モンマルトル 聖心のキリスト 「悔悛のガリア」の大型メダイ 70.8 x 70.8 mm


フランス  1870 年代



 たいへん大きなサイズのブロンズ製メダイ。60グラムの重量があり、手に取るとずしりとした重みを感じます。パリのモンマルトルにサクレ・クール教会を建てるにあたり、パリ・コミューンの反動で宗教色の強い時代に製作されたメダイです。


  モンマルトルのサクレ=クール教会


 表(おもて)面は、聖心を示すイエズスを立体感ある浮き彫りで表し、その左右にギリシア文字のアルファとオメガを配します。アルファとオメガはキリストの象徴のひとつです。ヨハネの黙示録 1:8 には次のように書かれています。

 Ἐγώ εἰμι τὸ ἄλφα καὶ τὸ ὦ, λέγει κύριος ὁ θεός, ὁ ὢν καὶ ὁ ἦν καὶ ὁ ἐρχόμενος, ὁ παντοκράτωρ. (NA 27)  神である主、今おられ、かつておられ、やがて来られる方、全能者がこう言われる。「わたしはアルファであり、オメガである。」(新共同訳)


 イエズス像の下にはモンマルトル (MONTMARTRE) の刻印があり、周囲にはラテン語で次の言葉が刻まれています。

  COR JESU SACRATISSIMUM MISERERE NOBIS  いとも聖なるイエズスの聖心よ、我らを憐れみたまえ

 裏面にはフランス語で次のように刻まれています。

  VŒU NATIONAL  フランス国民の誓い

  ARCHICONFRERIE DU SACRE CŒUR  聖心の大信心会

 その周囲にはラテン語で次のように刻まれています。

  SACRATISSIMO CORDI JESU GALLIA POENITENS ET DEVOTA  いとも聖なるイエズスの聖心に対し、悔悛して帰依するガリア

 また表裏いずれの面にも、上下左右に突き出した部分には、ギリシア文字「キー」(X) と「ロー」(P) のモノグラム(組み合わせ文字)が刻まれています。「キー」(X) と「ロー」(P) のモノグラムは「クリスム」あるいは「クリストグラム」と呼ばれ、キリストを表す象徴の一つです。



 1689年、聖母訪問会のマルグリット=マリ (Ste Marguerite-Marie Alacoque, 1647 - 1690) は、国王ルイ14世へのメッセージを含む啓示をキリストから受け取りました。キリストはルイ14世を「わが聖心の長子」(le fils aîné de mon sacré Cœur) と呼び、受難の際に受けた不正への償いとして、次のことを求めました。

・国王が自らを聖心に奉献し、その範によって宮廷および諸国の権力者をも聖心の信心へと導くこと。

・聖心に捧げた礼拝堂を、ヴェルサイユ宮に設けること。

・ルイ14世自らがローマの聖座(教皇)に働きかけて、聖心に捧げたミサを定めさせること。

 マルグリット=マリはキリストの啓示を手紙に記し、ルイ14世に送りましたが、国王からの反応はありませんでした。聖女の手紙が届かなかったのか、国王が手紙を読んでも内容を実行しなかったのか、どちらかはわかりませんが、いずれにせよフランスはキリストの啓示を無視したのです。


(下) キリストの出現を受けるマルグリット=マリ。1900年のメダイ。当店の商品です。




 マルグリット=マリは 1864年に列福されましたが、その三年後である1867年8月に、聖女が修道院長に宛てた手紙のひとつ(第98書簡)が公開され、聖女がキリストから受けた上記の啓示、フランスへのメッセージが明らかになりました。

 19世紀後半のフランス人たちは、普仏戦争の敗北、コミューンの内乱など、フランスを襲った数々の不幸を、ノアの洪水に比して考えました。ルイ14世とフランス人の心が頑なになり、キリストの啓示に聴き従わなかった結果、それらの災厄が起こったと思われたのです。キリストはマルグリット=マリを通してフランスに啓示を与えたのに、それ以来百年経ってもフランスは回心せず、それどころかフランス革命を起こして、ますます悪くなりました。聖女に啓示が為されたちょうど百年後、1789年の聖心の祝日(6月17日)に第三身分が国民議会を結成し、反キリスト教的、反教会的なフランス革命が本格化したことは、保守的な人々の目から見れば、フランスが神に反逆した象徴的な出来事と映りました。




(上) キリストに身を投げかける悔悛のガリア。背景は 1914年9月4日のドイツ軍による空襲で炎上するランス司教座聖堂ノートル=ダム。ノートル=ダム・ド・ランスは歴代のフランス国王が戴冠した司教座聖堂です。手前にジャンヌ・ダルクの騎馬像が見えます。当店の商品。


 19世紀後半のフランスでは、こうして宗教的な「回心」の必要が叫ばれるようになり、「悔悛のガリア」(GALLIA POENITENS) をキリストの聖心に捧げる国民的規模の運動が起こりました。この時代に、聖心に捧げた「サクレ=クール教会」がモンマルトルをはじめとするフランス各地に建てられたのは、悔悛のガリアを聖心に奉献しようとする運動の結果です。






 本品の表(おもて)面に刻まれた「いとも聖なるイエスの聖心よ、我らを憐れみたまえ」(COR JESU SACRATISSIMUM MISERERE NOBIS) という祈り、また裏面に刻まれた「フランス国民の誓い」、「いとも聖なるイエズスの聖心に対し、悔悛して帰依するガリア」という言葉には、以上に述べたような歴史的背景があります。19世紀のフランス人は、聖心に捧げた大きな聖堂をモンマルトルに建設することで、悔悛したガリア(フランス)の国民的信仰を形で示そうとしました。この大型メダイは新聖堂建設のために結成された「聖心の大信心会」(ARCHICONFRERIE DU SACRE CŒUR) のものなのです。





 19世紀フランスで制作されたメダイユのなかでも、本品は群を抜いて立派な作例です。真正のアンティーク品ならではのパティナ(古色)が、メダイ全体を青銅色に被っています。





本体価格 28,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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