19世紀中頃のフランスで制作されたメダイヨン(ロケット型メダイ)。二枚のミニアチュール版画を円形ガラスで挟み、金めっきをかけたブロンズ製枠で留めた珍しい様式です。
一方の面の版画では、ふたりの天使が跪(ひざまず)き、右手を挙げて祝福を与えるイエズス・キリストを礼拝しています。キリストは聖体容器を手に、古い様式の祭壇の前に立っており、この図像がエウカリスチア(聖体)におけるキリストの現存を描いていることが分かります。
三位一体の第二のペルソナ(位格)であるキリストは、完全な人間(まったくの人間)であると同時に、半神ではない完全な神であり、本来は天使のパン (PANIS ANGELICUS)、すなわち天使の知性でしか捉える事が出来ない存在でしたが、イエズス・キリストが聖体拝領を定め給うたことにより、人間が神と親しく交わることができるようになりました。この版画はそのことを視覚的に表したものです。
もう一方の版画は、弦月に乗る無原罪の御宿りを中央に配し、聖母の左右に天使を跪かせています。聖母は戴冠し、裏面のキリストと同様に、右手を挙げて祝福しています。
本品のミニアチュールに関して特筆すべきは、版画技法です。下に示した二枚の写真は、実物の面積をおよそ80倍に拡大しています。定規のひと目盛は1ミリメートルですが、ひと目盛にはおよそ6ないし7本の線が刻まれています。これは最も細密な金属版インタリオ(凹版)に匹敵しますが、本品のミニアチュールを精査すると、凹版ではなく凸版であることがわかります。
しかしながらウッド・エングレーヴィングでここまで精密な作品を制作することはできません。したがって本品のミニアチュールは、モース硬度がある程度低く、肌理(きめ)が非常に細かく、多孔質でありながらも靭(じん)性に富む鉱物を彫って制作されたものと考えられます。これはたいへん珍しい作例であり、これまでに数多くのアンティーク版画を扱った私も、類例を目にしたことがありません。
本品は百数十年前のフランスで制作されたものであり、真正のアンティーク品ならではの趣を備えていますが、破損はまったくありません。たいへん良いコンディションです。