聖母被昇天の教義宣言を記念して、イタリアまたはフランスで制作された小さなメダイ。
「聖母被昇天」とは、聖母が地上の生を終えたとき、魂のみならず身体もまた天に引き上げられたとされるカトリックの教義を指します。復活したイエスが天に昇られたことは、ラテン語で「アースケーンシオー」(ASCENSIO)、日本語で「昇天」といいます。これに対してマリアが天に引き上げられたことは、ラテン語で「アッスーンプティオー」(ASSUMPTIO)、日本語で「被昇天」といいます。イエスは昇天の時に生きておられ、また自らの力で天に昇られました。これに対してマリアは地上の生を終えて亡くなっており、また神とイエスによって天に引き上げられた点が異なります。
聖母被昇天は三世紀ごろにさかのぼる可能性がある古い信仰ですが、1950年に教皇ピウス十二世のエクス・カテドラ宣言(ローマ司教座からの宣言)によってカトリックの正式な教義となりました。本品はこの教義宣言を記念するメダイで、一方の面にはプッティ(有翼の童子たち)に取り巻かれて、聖母が天に上げられる様子が浮き彫りにされています。マリアが天を仰ぎ、両腕を広げているのは、祈りの姿勢です。浮き彫りを囲むように、次の言葉がラテン語で刻まれています。
VIRGO MARIA ASSUMPTA IN CŒLO 天に上げられたおとめ(処女)マリア
上の写真に写っている定規のひと目盛は 1ミリメートルです。マリアの顔と手、プッティの顔はいずれも直径 1ミリメートルに収まります。マリアの衣の襞はごく自然に流れており、衣の下には女性らしい体つきがうかがえます。有形のものが細密に表現されているのみならず、不定形の雲も背景に溶け込むように自然に表されています。直径
16ミリメートルあまりの本品は、優れた技量のグラヴール(仏 graveur メダイユ彫刻家)が生み出した小さな芸術作品です。
(上) Tiziano. "Assunzione di Maria", 1516 - 18, oilo su tavola, 690 x 360 cm, la basilica di Santa Maria
Gloriosa dei Frari, Firenze
本品の意匠はティツィアーノ (1480/85 - 1576) がヴェネツィアのバジリカ・デイ・フラーリのために描いた大きな板絵をモデルにしています。この作品は同聖堂の主祭壇を飾るヴェネツィア最大の祭壇画です。
もう一方の面には教皇ピウス十二世の横顔を巧みな浮き彫りで表しています。上述したように、ピウス十二世は 1950年、「聖母被昇天」がカトリックの正式な教義であることを、聖座(ローマ司教座)から宣言した教皇です。教皇像を取り巻くように、次の言葉がラテン語で刻まれています。
PIVS XII PONTIFEX MAXIMUS, ANNO JESU MCML 教皇ピウス十二世 イエスの年 1950年
「イエスの年」とは「主の年」(ANNO DIMINI, A. D.) と同じく、西暦のことです。
上の写真に写っている定規のひと目盛は 1ミリメートルです。教皇の顔の高さ(縦のサイズ)は 8ミリメートル、目、鼻、口、耳の各部は 1~2ミリメートルしかありませんが、あたかも生身の教皇を眼前に見るかのような写実性を以て、臨場感豊かなミニアチュール彫刻に仕上がっています。
浮き彫り彫刻の物理的な三次元性は決して大きなものではなく、この面の高低差も 1ミリメートルに足りません。わずかな高低差で完全な三次元性を感じさせる本品の教皇像は、打刻でなく鋳造による小さな名品です。
本品は 1950年の「聖母被昇天」エクス・カテドラ宣言という、歴史上ただ一回の機会に制作された稀少品です。美術工芸品としての出来栄え、及びアンティーク品としての保存状態に関しても優れており、お買い上げいただいた方には必ずご満足いただけます。