「罪びとを招くイエス、恩寵を与えるマリア」 エマイユ・シャンルヴェによるミニマリズムのペンダント 49.2 x 40.3 mm


 フランス  1960年代



 聖母子をテーマに制作された大きなサイズのペンダント。





 本品の聖母子像はミニマリスティックな面に還元され、色彩も五色に限定されています。ミニマリズムは宗教とは無関係に生まれた美学思想ですが、キリスト教哲学との間に本質的親和性を有します。本品の意匠はカトリック信仰の神髄を表していますが、十九世紀の作品であればさなざまな象徴で埋め尽くすであろうところを、聖母子のポーズと色彩だけで表現しています。

 本品の背景は漆黒の不透明ガラスによってエマイユが施されています。これに対して聖母子の色は明るく、髪は金色です。写真では分かりづらいですが、赤と緑の衣の表面にも微粒子状の金属光沢があります。聖母子は闇の中で光を放っているように見えます。

 福音記者ヨハネは「ヨハネによる福音書」の冒頭で、イエスを「言(ことば)」(ロゴス λόγος)と呼び、

     言の内に命があった。命は人間を照らす光であった。    ἐν αὐτῷ ζωὴ ἦν, καὶ ἡ ζωὴ ἦν τὸ φῶς τῶν ἀνθρώπων:
     光は暗闇の中で輝いている。暗闇は光を理解しなかった。(「ヨハネによる福音書」 1: 4 - 5 新共同訳)    καὶ τὸ φῶς ἐν τῇ σκοτίᾳ φαίνει, καὶ ἡ σκοτία αὐτὸ οὐ κατέλαβεν. (Nestle-Aland 26 Auflage)

 と書いています。イエスの命は闇の中に輝く光です。


 本品においては、イエスと共に、聖母も闇の中に輝いています。聖母は無原罪の御宿りとして特別な救いに与(あずか)ったわけですが、テオトコス(Θεοτόκος 神の母)、すなわちイエスに地上の命を与えた人であるゆえに、本品においては聖母もまた闇の中に輝くように表現されています。




(上) オリーヴの枝が描かれたカタコンベの墓碑 64 x 37.5 cm, depth 3 cm ラテラノ美術館蔵


 聖母はオリーヴ色の衣を着ています。「創世記」 8章の記述によると、神の怒りで惹き起された洪水の豪雨が収まった後、ノアは最初に烏(からす)、次に鳩を箱舟から放ちますが、大地が水に被われていて降りる地面が無かったので、いずれもすぐに箱舟に戻ってきました。その7日後、ノアが二度目に鳩を放つと、鳩は夕方になって箱舟に戻りました。鳩は嘴(くちばし)にはオリーヴの葉を咥(くわ)えていたので、水が引き、地面が顔を出し始めたことがわかったのでした。「創世記」の当該個所を下に引用します。

     ノアは鳩を彼のもとから放して、地の面から水がひいたかどうかを確かめようとした。しかし、鳩は止まる所が見つからなかったので、箱舟のノアのもとに帰って来た。水がまだ全地の面を覆っていたからである。ノアは手を差し伸べて鳩を捕らえ、箱舟の自分のもとに戻した。 更に七日待って、彼は再び鳩を箱舟から放した。鳩は夕方になってノアのもとに帰って来た。見よ、鳩はくちばしにオリーヴの葉をくわえていた。ノアは水が地上からひいたことを知った。彼は更に七日待って、鳩を放した。鳩はもはやノアのもとに帰って来なかった。 (「創世記」 8章8節から12節 新共同訳)


 この故事のゆえに、オリーヴは神との平和、和解、神の祝福を表します。受胎告知の際、少女マリアは「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」と答え、救いを受け容れました。本品のマリアがまとう衣のオリーヴ色は、キリスト者の鑑(かがみ 手本)であるマリアが自由意思を以て救いを受け容れたことを表しています。




(上) 生命と多産を象徴する緑の花嫁衣装 Jan van Eyck, Giovanni Arnolfini and His Bride, 1434, oil on oak panel, 82 x 60 cm, the National Gallery, London


 緑色は命の象徴でもあります。エヴァは「命」(ハワ、ゾーエー)という名前にも関わらず、原罪によって人間に死をもたらしました。これに対してマリアは救世主を産むことによって、人間に命をもたらしました。

 本品のマリアは斜め下に視線を向け、掌を下向きにして前方に差し出しています。地上を旅する者たちを、聖母は祝福しておられます。





 赤い衣を着たイエスは、掌を上向きにして前方に差し出し、人知を絶する愛によって罪びとを招いています。愛を象徴する赤は、罪びとを愛し給うた救世主イエスに最もふさわしい色です。アッシジの聖フランチェスコはイエス・キリストの姿を取ったセラフ(熾天使)から聖痕を受けましたが、キリスト教の図像体系において、セラフは常に赤色で表されます。トマス・アクィナスは「スンマ・テオロギアエ」第1部108問5項 「天使たちの位階には適切な名が付けられているか」("Utrum ordines angelorum convenienter nominentur.") において、セラフィムの本性を神に向かう愛であると論じています。したがって本品のイエスが身に纏う赤は、「人間を愛し給う神とイエスの愛」のみならず、「人間が神とイエスを愛する愛」をも表しています。このように考えると赤はキリスト者の鑑である聖母の衣にもふさわしい色ですが、フランス語の「シノプル」(sinople 緑)は本来ラテン語の「シノーピス」(SINOPIS 赤)であったゆえに、聖母の衣の緑色には赤が内在しているといえます。





 本品のエマイユ技法は「エマイユ・シャンルヴェ」(l'émail champlevé) ですが、肌色、緑、赤はブロンズに直接着色し、その上に無色のガラスでエマイユを施しています。すなわち本品は次の手順で制作されています。

    1.    エマイユの胎(たい ベース)となるメダイユをブロンズで鋳造する。
    2.     肌色、緑、赤の各色を、ブロンズに直接着色する。
    3.     背景部分に黒色不透明ガラスのフリット、それ以外の部分に無色のガラスのフリットを乗せ、焼成する。
    4.     半完成品を窯から取り出し、聖母子の髪、及びシャンルヴェの畝の部分に、手作業で金彩を施す。
    5.     金彩をカバーするように無色のガラスのフリットを乗せ、再び焼成する。


 このような手間をかけて制作された本品は、金彩を含む各色がこれから先も決して剥落せず、永年に亙って美しい状態でご愛用いただけます。





 上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。





 本品はサイズが大きいので、長めのチェーンと合わせるのが良いでしょう。金属のチェーン以外に、リボンや組み紐、革紐等を使っても構いません。リボン等を使う場合、長めのサイズであれば金具は不要で、頭から被って着用できます。





本体価格 15,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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