祝福を授ける降誕のイエズス (ブマール・エ・フィス 図版番号 696)

La Crèche et l'Âme Fidèle, "Je vous crois Dieu et Homme tout ensemble." Boumard, pl. 696


カニヴェ全体のサイズ 126 x 84 mm

額のサイズ 21 x 16 cm


フランス  十九世紀中頃または後半



 十九世紀のフランスで制作されたクリスマスのカニヴェ。十九世紀の版画技法のなかでも、最も精緻な表現が可能なグラヴュール(エングレーヴィング)によります。

 カニヴェの表(おもて)面には、「馬槽(まぶね)の幼子と、キリストを信じる者の魂」(LA CRÈCHE ET L'ÂME FIDÈLE) との表題の下、ベツレヘムの家畜小屋における聖母子と、その前に跪くキリスト者が描かれています。ここで「馬槽の幼子」と訳した「クレシュ」(CRÈCHE) は、フランス語で「飼い葉桶」のことです。ナザレに住んでいた身重のマリアと夫ヨセフは、アウグストゥス(オクタヴィアヌス)の命による人口調査のためにベツレヘムを訪れていましたが、マリアが産気づいたにもかかわらず宿屋の部屋に空きが無く、救い主イエズス・キリストは家畜小屋で生まれ、飼い葉桶に寝かされました。


【下】 参考画像 レンブラント「羊飼いの礼拝」 1830年代のエングレーヴィング 当店の商品です。




 カニヴェの絵では、降誕した救い主への贈り物である花かごが跪く人の傍らに置かれており、カニヴェ裏面の祈りに出てくる花々を連想させます。かごには数種類の花が入っています。五枚の花弁を有するのは、薔薇の野生種でしょうか。それともクリスマス・ローズでしょうか。薔薇はキリストが受難の際に受け給うた5つの傷を象徴するとともに、聖母の象徴でもあります。またクリスマス・ローズ(helleborus niger キンポウゲ科クリスマスローズ属)は、降誕したイエズスに捧げる贈り物を持たない貧しい少女の目からこぼれた涙が雪に落ち、そこから咲き出でたという伝承があります。

 幼子イエズスは母の膝に座り、野の花を捧げて跪く人に微笑みかけ、祝福を与えています。幼子イエズスの表情はあくまでも柔和で、限りない神の愛にあふれています。

 この絵において、花かごと飼い葉桶の干し草、戸口の外の地面部分はエッチングですが、他の部分はすべてグラヴュール(エングレーヴィング)の技法で制作されています。ルーペまたは顕微鏡で拡大すると、線の刻み方が単なるクロスハッチでないことがわかります。すなわち、通常のクロスハッチよりも色調を暗くしたい場合は、交差する直線に囲まれてできた菱形の内部に、小さなドット(点)を配置します。逆に、通常のクロスハッチよりも色調を明るくしたい場合は、実線ではなく破線を用いてクロスハッチを施しています。いずれの場合も、極小の点は、版画家の手作業でひとつずつ刻まれています。





 十九世紀のエングレーヴィングは多大な労力を注いで制作されるのが常でしたが、とりわけ至近距離で鑑賞されるこのような小品の場合、版画家の職人芸は、信じ難いほどの繊細さを以って発揮されます。絵の下には次の言葉がフランス語で書かれています。

    Ô Jésus, j'adore sous les voiles de votre Humanité sainte

la seconde et adorable Personne de la Sainte Trinité.
  イエズスよ。あなたの聖なる人性の下に隠された

聖三位一体の慕わしき第二のペルソナ(位格)を、私は崇敬いたします。
    Je vous crois Dieu et Homme tout ensemble.   あなたが神にして同時に人であられることを、私は信じます。


 イエズス・キリストが父なる神と同質 (homoousios) であることは、325年のニケア公会議で宣言されました。またイエズス・キリストにおける神格と人格の「位格的結合」(UNIO HYPOSTATICA)、すなわちイエズス・キリストにおいては、神・人の二性が混合されることも分離されることも無く、それぞれ完全な形で存在するということは、451年のカルケドン公会議にて宣言されました。

 カニヴェ表(おもて)面、金色枠の外の右下には、裏面の最下部と同じパリの版元、ブマール社 (Boumard et Fils, Éditeurs Pontificaux) の名前が刻まれています。


 カニヴェ裏面の最上部には「汝ら来たりて我らとともに拝せん」(VENITE ADOREMUS) とラテン語で書かれ、その下には祈りの言葉がフランス語で書かれています。内容は次の通りです。

    Venez, divin Messie, doux Emmanuel, venez en votre crèche pour y recevoir nos adorations et l'expression vive de notre foi en votre sainte Humanité.   来たりたまえ、神なるメシア、優しきインマヌエルよ。飼い葉桶に生まれたまいて、聖なるその御人性において、我らの崇敬と、心よりの信仰を受けたまえ。
    Venez, divin Jésus, je vous attends, comme vous ont attendu les Patriarches et les prophètes....   神なるイエズスよ。我は御身を待ち望む。父祖ら預言者らが御身を待ち望みし如くに。
    Je me tiens en silence aux pieds de ma divine Mère pour y méditer le profond mystère des anéantissements du Verbe divin.   神の御母の御足許にて、我は黙して瞑想す。いと深き奥義、神の御言葉の託身を。
    Venez, divin Messie, fils de l'Homme, petit Enfant de la crèche, Crucifié du calvaire, Roi de l'Église, Jésus-Hostie, venez!... car mon cœur, debordant de bonheur, vous bénit à jamais d'avoir perdu l'abîme de ses désirs et de ses misères dans l'abîme de vos bontés.   来たりたまえ、神なるメシアにして人の子、飼い葉桶の幼子、カルワリオにて十字架に架かりたもうた方、教会の王、イエズスなる御聖体。来たりたまえ。我が心の深き望みと深きミゼール(惨めさ)は、御身の深き恵みの内にて満たされたり。それゆえ我が心は幸福にあふれ、御身への感謝は尽くること無し。
         
    Mère auguste du Dieu fait homme, disposez vous-même de mon cœur, afin que l'hôte divin vienne prendre en moi ses délices.   人となりし神を産みたもうた尊き御母よ。御身みずから我の心を統(す)べたまえ。神を宿したもうた御方の来たりたまいて、我を喜びたまわんがため。
    Obtenez-moi le lis de la pureté, la violette de l'humilité, et la rose de la charité pour parure.   純潔の百合、遜(へりくだ)りの菫、愛の薔薇を我に与えたまえ。我、それにて身を飾らん。
    Que l'humble connaissance de moi-même prepare la paille ou l'Enfant-Dieu puisse prendre son repos; que le renoncement à ma volonté lui élève un trône, que tous mes sens s'inclinent devant Lui comme serviteurs... Que toutes les puissances de mon âme se consacrent à Lui comme ministres fidèles... Enfin que mon être tout entier appelle JÉSUS, s'ouvre à JÉSUS, et n'ait plus qu'un désir... qu'un besoin... qu'un attrait: JÉSUS, LE DIVIN MESSIE.   我は望む。遜(へりくだ)りて自身を知り、神なる幼子の安らいたまう飼い葉桶の藁を捧げんことを。我執を棄て、神なる幼子こそを王と為すを。我が持てる肉の欲全てが、神なる幼子の御前にて膝を屈め、そのしもべとならんことを。我が魂の持てる力が全て、神なる幼子のために聖別され、委ねられたる業を忠実に遂行せんことを。そして遂には我が存在の全てがイエズスを呼ばわり、イエズスを受け入れ、もはや唯ひとつの望みしか持たず、唯ひとつのものを必要とし、唯ひとつのものに惹かれるようにならんことを。そはイエズス、神なるメシアなり。
    O mon âme, que ton amour soit égal à ta fidelité envers le Dieu de la crèche, et que, malgré les voiles de la sainte Humanité de Jésus-Christ, tu puisse t'écrier avec confiance: Oui, c'est mon Dieu, mon Sauveur que j'aime et que j'adore.   わが魂よ。汝の内なる愛が、すなわち飼い葉桶にまします神への忠誠であらんことを。イエズス・キリストは聖なる人性をまといたまえるも、汝が確信を持ちて大なる声にて語り得んことを。「ここなる幼子こそ、我が愛し崇むる神にして救い主なり」と。


 このカニヴェは130年ないし140年前のものですが、それほどまでに古いものとは俄かに信じがたいほど綺麗な状態です。たいへん稀少な完品です。

 臙脂(えんじ)のベルベットを使用して額装いたしました。額の種類、ベルベットの色は変更することもできます。変更に伴い、追加料金が必要となる場合もございます。





商品写真の額装で 19,500円 (カニヴェと額の合計) 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




主のご降誕 ノエル クリスマスのカニヴェ 商品種別表示インデックスに戻る

カニヴェ、イコン、その他の聖画 一覧表示インデックスに戻る


イエズス・キリストのカニヴェ 商品種別表示インデックスに移動する

カニヴェ 商品種別表示インデックスに移動する


カニヴェ、イコン、その他の聖画 商品種別表示インデックスに移動する


キリスト教関連品 商品種別表示インデックスに移動する



アンティークアナスタシア ウェブサイトのトップページに移動する




Ἀναστασία ἡ Οὐτοπία τῶν αἰλούρων ANASTASIA KOBENSIS, ANTIQUARUM RERUM LOCUS NON INVENIENDUS