銀無垢の高級品 「神はそれを望み、我らは神を望む」 第三共和政と戦う教会と信徒 アリャンス・カトリークの美麗クルシフィクス 52.3 x 33.5 mm フランス 1892年


突出部分を含むクルシフィクス本体のサイズ 52.3 x 33.5 mm

最大の厚さ 3.8 mm


自然に釣り下げたときの縦のサイズ 69.0 mm

重量 5.6 g



 1882年頃にフランスで制作された美麗なクルシフィクス。ペンダントとして吊り下げると、七センチメートル近くの長さがあります。





 吊り輪を除くクルシフィクス本体は縦五センチメートルあまり、横三センチメートルあまりと大きなサイズで、めっきではない銀でできています。十字架部分の末端は、フルール・ド・リス(仏 fleur de lys 百合の花)になっています。それぞれのフルール・ド・リスは一対の花弁状突起に挟まれて、パルメットのように見えます。ジャポニスム japonisme (ジャポニズム Japonism、日本趣味)の影響を感じさせる流麗な植物的意匠は、後に普及する免償のクルシフィクスの十字架と共通しており、この時代のヨーロッパの雰囲気を色濃くまとっています。





 本品のコルプス(羅 CORPUS キリスト磔刑像)は、図像学上クリストゥス・ドレーンス(羅 CHRISTUS DOLENS 苦しむキリスト)と呼ばれる様式に属します。十字架に鋲留めされたコルプスは、最も高くなったキリストの顔に若干の摩滅があって、真正のアンティーク品ならではの味わいを醸しています。なお摩滅の程度はごく軽く、目鼻口は十分に判別することができます。十字架表面の複雑なパターンは突出部分であるコルプスのおかげで良く守られ、細部まで完全な形で残っています。





 裏面にはフランス語で「アリャンス・カトリーク」(仏 Alliance Catholique カトリック同盟)、「神はそれを望み、我らは神を望む」(仏 Dieu le veut. Nous voulons Dieu.)と記されています。また最下部にクリストグラム(仏 christogramme キリストを表す記号)が配されています。クリストグラムにはいくつもの種類がありますが、本品のクリストグラムはクリスム(仏 le chrisme)と呼ばれるタイプで、ギリシア文字キー(Χ)とロー(Ρ)を組み合わせています。キーとローは、ギリシア語でキリストを表すクリストス(希 Χριστός) の最初の二文字です。クリスムの両側に見えるアルファ(α)とオーメガ(ω)はギリシア語アルファベットの最初と最後の文字で、キリストがその神性において有する超越性と永遠性を象(かたど)ります。


 「悔悛のガリア」運動と、モンマルトルのサクレ・クール教会建設が端的に示すように、十九世紀後半のフランスは未だ今日のように世俗化されておらず、カトリック教会とカトリック信徒は大きな社会的勢力を保っていました。その一方で第三共和政期のフランスでは社会の世俗化が政策的に推進されてゆきます。とりわけ教育省大臣を務めた左派共和主義者ジュール・フェリー(Jules Ferry, 1832 - 1893)は 1880年3月29日の政令により、イエズス会をフランスから退去させるとともに、他の修道会に対しても共和国政府の管理下に入ることをを求めました。後者の手続きに関して与えられた猶予期間は三か月でしたが、ベネディクト会、カルメル会、フランシスコ会等の修道会はイエズス会と連帯するために共和国政府に従いませんでした。この結果、官憲の手によって二百六十一か所の修道院が閉鎖され、五千六百四十三人の修道者がフランス国外に追放されました。

 このような強硬措置に対して、篤信のカトリック信徒は当然のことながら猛反発し、アリャンス・カトリーク(カトリック同盟)を結成して抗議運動を展開しました。本品が制作された 1882年はアリャンス・カトリークが大規模な抗議集会を開いた年に当たります。「デュ・ル・ヴ」(仏 Dieu le veut. 神はそれを望み給う)は 1095年のクレルモン公会議において、ウルバヌス二世が第一回十字軍の派遣を決めた際に発した言葉です。アリャンス・カトリークの構成員の間では、これに「ヌ・ヴロン・デュ」(仏 Nous voulons Dieu. 我らは神を望む)を続けた標語が使われました。本品裏面最下部のクリスムは、伝承によるとコンスタンティヌス大帝の頭上の空に浮かび、「汝、この印にて勝利せよ」(Ἐν τούτῳ νίκα)という言葉を伴っていたとされます。本品において、このクリスムは、フランス共和国政府の世俗化政策に対抗するカトリック勢力の強い意志を表しています。


 裏面最上部に「デポゼ」(DÉPOSÉ)の刻印がありますが、これは本品の意匠が公に登録されたものであることを示します。





 装飾的意匠を有する同素材の吊り輪が、クルシフィクスに取り付けられています。吊り輪はクルシフィクスと同時に制作されたもので、溶接によって閉じられています。本品をペンダントとして使う場合、チェーンのクラスプ(留め金)を吊り輪に通す必要がありますが、本品の吊り輪は開口部に十分な大きさがありますので、問題はありません。

 吊り輪の裏面には純度八百パーミル(八十パーセント)の銀を示す「蟹」の検質印が刻印されています。純度八百パーミルの銀は信心具に使われる最も高級な素材です。本品が制作された十九世紀末はベル・エポック(仏 la Belle Époque 美しい時代)、すなわちコミューンによる荒廃からの復興も進み、フランスの都市部が繁栄を謳歌した時期に当たります。しかしながら第二次世界大戦よりも以前のフランスは、極めて少数の富裕層以外は全員が貧しい時代でした。貧富の差が極端に大きかったフランスで、本品のような銀無垢製品は普通の人がめったに買えない高級品でした。本品はアリャンス・カトリークに参加した篤信のカトリック信徒が、強い決意の表明として贖(あがな)ったものでしょう。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真よりもひと回り大きなサイズに感じられます。





 本品は百四十年近く前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、保存状態は良好です。破損や鋲の緩み、脱落等、特筆すべき問題は何もありません。真正のアンティーク品ならではの美しいパティナ(古色)が、全体を均一に被(おお)っています。





本体価格 28,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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