19世紀のフランスで制作されたクロワ・ジャネット。5センチメートル近い高さがある大きめのサイズで、二面とも同一のデザインに基づき、まったく同じ丁寧さで仕上げられています。
菱形の中央交差部には五弁の花を咲かせた植物を、末端近くの楕円形部分にはアカンサス文(唐草文)を、それぞれ浮き彫りにしています。十字架全体が大きいために、浮き彫りを施すスペースにも余裕があり、細部まで丁寧に造形されています。植物文はいずれもよく研磨され、艶やかな光沢を見せています。植物文の背景は肉眼で識別できないほど細かいクロスハッチで艶消し処理されており、植物文の光沢をいっそう引き立てています。十字架に施された小さな窪みの連続が、視覚的なリズムを産み出しています。十字架の末端は優しい膨らみを持ち、小球で終わっています。
フランスの銀製品工房に特有の菱形のマーク、及びイノシシの頭を象(かたど)った800シルバーのホールマークが、上部の環に刻印されています。フランスの信心具において、800シルバーは最高級の素材です。素材が高価であるゆえに、比較的大きなサイズの十字架は打ち出し細工による二面を溶接して作り、内部が空洞になっているのが普通です。しかしながら本品は一体成型で鋳造した後、手作業で丁寧に仕上げられており、手に取ると心地よい重みを感じます。
高価な銀無垢製品に相応しく、本品のデザインは洗練されており、ファイン・ジュエリーに匹敵する優雅さを備えています。両面が同様の丁寧さで仕上げられているのも、高級品の証しです。
本品は19世紀のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にかかわらず、当時のままの良好な保存状態です。アンティークのクロワ・ジャネットは稀少品ですが、特に本品のような銀無垢製品は制作数が少なく、入手困難です。