(下) 男性による着用例


(下) 女性による着用例



ハミルトン グレード 982 《リンウッド》 最上のドレス・ウォッチ 金無垢ケースの稀少モデル 1940年

HAMILTON 《LINWOOD》 grade 982, 19 jewels, 1940



 ペンシルヴェニア州ランカスターに本社があったハミルトン・ウォッチ・カンパニーが、1938年から 1941年までの四年間のみ販売した美しい時計、「リンウッド」(Linwood)。「リンウッド」はいずれの年度の製品であってもすべてハイ・ジュエルの高級機ですが、1938年製及び 1939年製の「リンウッド」が 17石ムーヴメント「グレード 980」であったのに対し、本品は 1940年製で、よりいっそう高級な19石ムーヴメント「グレード 982」を搭載しています。

 「リンウッド」に搭載された「グレード 980」及び「グレード 982」は、1937年にグリュエン社が開発した「キャリバー 330」への対抗馬で、球面の一部を切り取ったような曲面デザインが特徴の薄型ムーヴメントです。これを搭載した「リンウッド」はもともと男性用として作られた時計ですが、1940年の男性用時計は現代のもののように大きくなく、デザインもたいへん上品かつ優美ですので、女性にも十分にお召しいただけます。

 本品は七十年以上前の品物であるにもかかわらず、保存状態はきわめて良好で、きちんと動作します。バンドは茶や赤などお好きな色に交換可能です。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)と呼びます。ムーヴメントを保護する容器、すなわち時計本体の外側に見えている金属製の部分を「ケース」(英 case)と呼びます。バンドを取り付けるためにケースから突き出た突起のことを「ラグ」(英 lug)と呼びます。数字を取り付けた板状部品を文字盤(もじばん)または文字板(もじいた)と呼びます。文字盤はケース内のムーヴメントに取り付けられ、ガラスで保護されています。ガラスの枠となる金属製部分、すなわちケースの最上部を「ベゼル」(英 bezel)と呼びます。

 本品のケースは非常に細長く、最大幅 20ミリメートルに対して、十二時側のラグの先端から六時側のラグの先端までの直線距離は 42ミリメートルに達します。ケースの形状はベゼルの三時側と九時側が外側に張り出した「トノー形」です。「トノー」(tonneau) とはフランス語で「樽」(たる)のことです。本品「リンウッド」のベゼルには、三時側と九時側に美しいフルーティング(英 fluting 並行する縦溝の装飾)装飾があり、ラグの先端まで続いています。





 時計は文字盤側、裏蓋側とも優美な曲線を描きます。特に文字盤側は縦(12時 - 6時)の方向にも横(3時 - 9時)の方向にも曲線を描いており、あたかも球体の一部を削り出したかのようです。ハミルトン社は 1938年 7月 15日付の販売店向け書簡のなかで、「リンウッド」の曲面デザインを「スーパー・カーヴド」(super curved) と呼んでいます。


 「リンウッド」が作られた 1930年代後半は、「手首の丸みに沿って曲面を描く細長い時計」が流行しました。この時代の男性用ムーヴメントは円形のものがほとんどでしたし、時計の中央部分に小さめの円形ムーヴメントを入れると、ケースを湾曲させることも可能になるので、流行のデザインで男性用時計を作るには、多くの場合、細長い時計の中央部分に円形ムーヴメントを入れていました。下の写真の時計はいずれも細長いデザインですが、円形ムーヴメントを採用しています。また右端の「ウエストフィールド 《ハドソン》」を除く左側三点のケースは、縦(12時 - 6時)方向に緩やかな曲面を描きます。


(下) 左から順に、「ロード・エルジン 《グレード 531》」(1937年)、「ブローバ 《アメリカン・クリッパー》」(1936年)、「ブローバ 《ライタングル》」(1938年)、「ウエストフィールド 《ハドソン》」(1940年)




 細長く湾曲した時計ケースの中央部分に小さな円形ムーヴメントを入れると、縦方向に曲がった時計を簡単に作れる反面、ムーヴメントが小さいゆえに、十分な精度を確保できない恐れがあります。それゆえグリュエン社はこの方法に満足せず、ムーヴメント自体を縦方向に湾曲させた「キャリバー 311」(1935年)、「キャリバー 330」(1937年)を開発しました。一方ハミルトン社は、非常に高度な技術力によって、1938年に本品「グレード 982」を開発しました。「ハミルトン グレード 982」は薄く細長い 14/0サイズのトノー形ムーヴメントで、地板(ムーヴメントの文字盤側プレート)の周囲を斜めに削り取り、縦横両方向に湾曲したドーム状の文字盤を取り付けられるようにしています。

 下の写真は文字盤を取り外してムーヴメントの地板を撮影しています。ドーム状文字盤を取り付けるために、地板の周囲が斜めに削り取られているのがわかります。





 「ハミルトン グレード 982」の縦方向の長さを、同時代の「グリュエン キャリバー 330」と比較すると、「ハミルトン グレード 982」は 24.6ミリメートル、「グリュエン キャリバー 330」は 26.8ミリメートルで、その差は 2ミリメートル強にすぎません。グリュエン社の「カーヴェクス」ムーヴメントは優れた発明ですが、特殊な構造ゆえに無理が生じている面もあり、私見では「天真折れ」という故障が起こりやすいように思えます。これに対して「ハミルトン グレード 982」に特段の弱点はありません。


 「ハミルトン グレード 982」はペンシルヴェニア州ランカスターのハミルトン社自社工場において製作されたムーヴメントで、電池ではなくぜんまいで動く「手巻式」です。電池で動く「クォーツ式」腕時計が普及したのは、1970年代以降のことです。本品が製作された 1940年にはクォーツ式腕時計はまだ存在せず、腕時計はすべてぜんまいで動いていました。

 秒針があるクォーツ式腕時計を耳に当てると、秒針を動かすステップ・モーターの音が一秒ごとに「チッ」、「チッ」、「チッ」 … と聞こえます。デジタル式など秒針が無いクォーツ式腕時計を耳に当てると、何の音も聞こえません。これに対して機械式時計、すなわち本品のようにぜんまいで動く腕時計や懐中時計を耳に当てると、小人が鈴を振っているような小さく可愛らしい音が、「チクタクチクタクチクタク…」と連続して聞こえてきます。





 「ハミルトン グレード 982」は、時計各社、各モデルのムーヴメントを通じて、この時代に製作された最も美しいトノー形の機械です。上の写真は「グレード 982」の受け側、すなわちムーヴメントをケース裏蓋から外すと見える側を撮影しています。「受け」(ブリッジ bridge)と呼ばれる部分には、英語で「ダマスキーニング」(damaskeening) あるいは「ダマシーニング」(damascening)、フランス語で「フォース・コート」(fausses côtes) または「コート・ド・ジュネーヴ」(côtes de Genève) と呼ばれる装飾が施されています。この美しい模様は、回転する小円盤でバフ掛けすることにより産み出されています。それぞれの受けは鏡のように磨き上げられているだけではなく、縁を丁寧に面取りされています。天符はチラネジ天符、ひげぜんまいは「エリンバー」(Elinvar) による巻き上げひげ(ブレゲひげ)です。「エリンバー」はひげぜんまい用の優れた合金で、弾性が温度変化の影響を受けません。

 良質の機械式腕時計、懐中時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、良質の時計の部品として使用されるのです。本品のムーヴメント「ハミルトン グレード 982」は 19個のルビーを使用しています。上の写真ではルビーが 6個しか見えませんが、あとの13個は機械の裏側(文字盤側)など、上の写真に写っていない部分に使われています。

 17個のルビーを使用した「17石」(じゅうななせき)のムーヴメントは、摩耗してはならない個所すべてにルビーを使用した高級機です。17石以上のクラブトゥース式ムーヴメントを、「ハイ・ジュエル」(high jewel) と呼びます。1938年及び 1939年製の「ハミルトン リンウッド」は、本機と同系の17石ムーヴメント、「グレード 980」を搭載しています。

 17石の「グレード 980」は十分に高級なムーヴメントですが、1940年及び 1941年製「ハミルトン リンウッド」には、ケースが金張りであるか金無垢であるかに関わらず、19石の「グレード 982」が採用されました。17石の「グレード 980」は高級機ですが、19石の「グレード 982」はそれをさらに高級にした最上質のムーヴメントです。

 本機は 1940年製の「リンウッド」ですので、19石の「グレード 982」を搭載しています。「ハミルトン グレード 982」はガンギ車用にも二個の受け石を追加し、19石となっています。機械式ムーヴメントにおいて最も重要な箇所は調速脱進機ですが、「ハミルトン グレード 982」の調速脱進機は、およそ必要と考え得るすべての箇所にルビーを使っています。





 「受け」には、メーカー名「ハミルトン」(HAMILTON)、製造国名「アメリカ合衆国」 (U. S. A.)、石数を表す「十九石」(19 JEWELS)、ムーヴメントのグレード名(型式名)である "982"、ムーヴメントのシリアル番号 (M5458) が刻まれています。写真を見れば、受け側の二番車、三番車、四番車、天符、地板側の四番車、及びアンクル真用のルビーを、金(十四金)のシャトン(chaton フランス語で「宝石を留める爪」の意)に伏せ込んだうえで、受けまたは地板の孔に摩擦留めされていることがお分かりいただけます。

 穴石を受けまたは地板の孔に直接摩擦留めせず、シャトンに伏せ込んだうえで摩擦留めしている理由は、1940年の技術で加工した穴石はサイズや形状にわずかな誤差がある可能性があったからです。サイズや形状にわずかな誤差がある穴石を受けや地板に直接押し込むと、穴石に無理な力がかかり、割れる危険性があります。それゆえ各種金属の中でもとりわけ展延性に富む(軟らかい)金でシャトンを作り、これにルビーを伏せ込んだうえで、受けまたは地板の孔に摩擦留めしたのです。


 本品のムーヴメントには金(十四金または十八金)のメダルが取り付けてあり、「ハミルトン・ウォッチ・カンパニー」を表す "HW" のモノグラムが彫られています。「ハミルトン グレード 982」には「金のメダルが付いたもの」、「円で囲んだ "M" の文字が地板に刻印されたもの」、「メダルも刻印も無いもの」、の三種類があり、特に手間をかけて仕上げられた前二者が「メダリオン・グレード」と呼ばれました。シリアル番号の最初の "M" も、「メダリオン・グレード」を示します。

 「ハミルトン リンウッド」は 1938年から 1941年のわずか四年間のみに製作されました。「ハミルトン リンウッド」に「メダリオン・グレード」が導入されたのは 1940年です。本品のシリアル番号は 5458番ととても小さいので、1940年に製作された時計であることがわかります。


 19石ムーヴメントである「ハミルトン グレード 982」はどれも高級品ですが、本品のように実際に金のメダルを取り付けた「メダリオン・グレード」のムーヴメントは、金無垢ケースの最上級品に使用されました。金メダル付き「メダリオン・グレード」は、受けが鏡のように磨き上げられている点、「コート・ド・ジュネーヴ」装飾が細かい点でも、他のムーヴメントと一線を画しています。

 後述するように、1942年から太平洋戦争の終結までの間、ハミルトン社は民生用の時計を作ることができなくなります。1940年製の金無垢時計「リンウッド」(本品)は、太平洋戦争前、ハミルトン社がもっとも繁栄していた時代に、同社が持てる技術の粋を結集して製作した名品です。





 上の写真は時計を動作させて撮影しています。1940年製の本品は耐震装置を持ちませんが、天符の動作中に天輪の軌跡がぶれていないことからお分かりいただけるように、天真の曲がりは一切ありません。エリンバー製ひげぜんまいにも巻き乱れはなく、巻き上げひげ(ブレゲひげ)ならではの美しい同心円を描いています。





 上に再掲した写真は、ムーヴメントの地板側を撮影しています。八時過ぎのあたりに見えるのが天符の受け石と受け石座、六時半の位置に見えるのがガンギ車の受け石と受け石座です。写真で分かるように、いずれの受け石座も、裏側(受け側)からネジを入れて留められています。雌ネジは地板に切らず、受け石座にのみ切ってあります。こうすることで、ネジが折れた場合でも地板が損なわれることが無く、受け石座のみを取り換えれば済む設計になっています。

 六時のあたりに見えるルビーは四番車の穴石、七時のあたりに見えるルビーはアンクル真の穴石で、いずれも金のシャトンで留められています。

 アンクル真の穴石付近に、プラスのねじ頭がふたつ、見えています。これはドテピン(アンクル棹の動きを制限する二本のピン)の幅を微調整するための仕組みです。二本のドテピン間の幅は、通常はピンセットでドテピンを直接触って調整しますが、「ハミルトン グレード 982」はドテピンの破損すなわち金属疲労による破断を防ぐとともに、極限レベルの微調整を可能にする機構を備えているのです。

 同業他社が外見的デザインを重視したのに対し、ハミルトン社は素人受けを狙う安易な路線を拒んで、あくまでもムーヴメントの質を追求しました。素人の目に触れない部分で時計職人をうならせる「ハミルトン グレード 982」の設計には、時計の外見的デザインよりも計時性能を優先するハミルトン社の、硬派な姿勢が表れています。





 本品の文字盤は銀製で、ヘアライン加工が施され、サテン生地のように柔らかな光を反射します。 黒の文字で "HAMILTON"(ハミルトン)のロゴが書かれています。本品の文字盤は、ケースの縁に当たる部分に、塗装剥がれによる変色がありますが、ヴィンテージ時計(アンティーク時計)はどれもこうなっています。ケースに入れた状態でよく見える部分に関して、本品の文字盤には特筆すべき変色が無く、たいへん綺麗な状態です。





 文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を、「インデックス」(英 index)といいます。本品のインデックスはアラビア数字の立体インデックスで、六時のみが小さな円になっています。本品のインデックスは、たいへん贅沢なことに、十八金製の部品を植字しています。インデックスは金無垢であるゆえに錆びることもなく、製作された当時からまったく変わらない輝きを見せています。







 本品「リンウッド」の文字盤は平坦ではなく、中央部分に向けて緩やかなドーム状に隆起しています。ドーム状文字盤の場合、地板の中央部分と文字盤裏の間に隙間が生じるので、「筒車」(短針を取り付ける車)が浮き上がって、隣の「日の裏車」との噛み合わせが外れてしまい、ムーヴメントが問題なく動いているにもかかわらず、針が進まなくなることがあります。このような事態を避けるために、普通は針座(筒車にあてがう環状のバネ)を一枚ではなく二枚組み合わせて使い、筒車を地板に強く押し当てる方法が採られます。ところが本品「リンウッド」は、針座を二枚使う代わりに、文字盤そのものを中央部分で厚くしています。「リンウッド」の文字盤中央部は 2.0ミリメートルの厚みがあります。

 「筒車」と「日の裏車」の噛み合わせを保つのに、文字盤中央部の厚みを増すのは最も確実な方法ですが、私はこの種の文字盤をハミルトン以外のメーカーで見たことがありません。より優れた製品を作るためであれば一切の労力を厭わないハミルトンの時計作りは、驚嘆と敬服に値します。





 現代の時計の秒針は「センター・セカンド」といって、短針、長針と同様に、時計の中央に取り付けられています。これに対して 1950年代までの時計の秒針は、ごく少数の例外を除き、「スモール・セカンド」といって、六時の位置に取り付けられています。時計の中央に秒針を取り付ける方式のムーヴメントを制作するのは技術的に困難で、「センター・セカンド」が普及するのは1960年代です。1950年代までの時計はほとんどすべて「スモール・セカンド」方式で、本品も例外ではありません。本品「リンウッド」の文字盤は、センター・セカンド部分においても裏側の厚みを増して文字盤の安定性を高めています。センター・セカンドを表(おもて)から見ると、端から中央に向かって文字盤の厚みが増すのがよくわかります。





 針は金色のアルファ型で、当時のオリジナルです。いかにもヴィンテージ時計らしいクラシカルな針は、文字盤全体の上品なデザインに良く似合っています。

 クリスタル(風防)は、ミネラルガラス製です。よく見ると二時の辺りの文字盤中央寄りに線状のキズがありますが、このキズはごく細く浅く、また数字の上にも掛かっていないので、気になりません。縁の数か所にもフリーバイト(flea bites 微小な欠け)がありますが、これもアンティーク時計のガラス製風防においては普通のことであり、特段の問題はありません。





 本品のケースは14カラットの金無垢、つまり十四金製で、裏蓋の十二時側の端に「キーストーン・ウォッチ・ケース・カンパニー」(Keystone Watch Case Company, 1875 - 1956) のマークと、「14カラット・ゴールド」(十四金)の文字が刻印されています。またイニシアルが浅く刻まれています。

 十四金は 14/24、すなわち純度 58.5パーセントの金で、金無垢時計のケースをはじめ、アメリカ合衆国の金製品に最も多く使われる純度です。時計ケースにはムーヴメントを守るという大切な役割がありますが、スイスや日本で使われる十八金はとてもやわらかいので、特にケースの面積が大きい男性用時計において、歪みを生じる場合が多くあります。十四金は十八金に比べて硬く、摩耗や変形を起こしにくいゆえに、時計ケースに適しています。また十四金は上品なシャンパン・ゴールド(淡い金色)であるゆえに、濃い金色が苦手な方にも抵抗なくご愛用いただけます。





 裏蓋の内部には「ハミルトン・ウォッチ・カンパニー、ペンシルヴェニア州ランカスター」(HAMILTON WATCH COMPANY, LANCASTER PA.)、「十四金製」(14K GOLD) の文字と、「キーストーン・ウォッチ・ケース・カンパニー」のマーク、本品に固有のシリアル番号が刻まれています。なおケースのシリアル番号はムーヴメントのシリアル番号とは無関係です。


 「ハミルトン リンウッド」発表時の広告 1938年


 「ハミルトン リンウッド」は 1938年から 1941年まで作られた時計です。「リンウッド」の生産が 1941年に終わったのは、後述するように、日本との戦争が原因でしょう。四年間のみ生産された「リンウッド」は、ハミルトン社の時計のなかでも稀少な機種ですが、現在残っているものはほとんどすべてが金張りケースのものです。

 1980年1月、ソ連がアフガニスタンに侵攻したときに、金の価格が 1トロイオンスあたり 850ドルの史上最高値を付けました。当時の850ドルを現在の貨幣価値に換算すると、1,800ドル以上に相当します。金価格はその後いったん落ち着き、1999年8月には 250ドルまで下がりましたが、その後上昇に転じ、2011年から 2012年にかけて 1トロイオンスあたり 1,800ドル以上と、1980年に並ぶ高値を付けました。アンティーク時計の金無垢ケースは、金価格がこのように高騰するたびに、時計に関心が無い人たちによって貴金属買取店に持ち込まれ、スクラップ・ゴールドにされてしまいます。現在残っている「ハミルトン リンウッド」が金張りケースのものばかりで、金無垢ケースの「リンウッド」を目にする機会が無いのは、高価な金無垢時計の製作数がそもそも少なかったことに加えて、多くのケースがスクラップ・ゴールドとして融かされてしまったという理由に拠ります。




(上・参考写真) 金張りケースの「ハミルトン リンウッド」


 上の写真は 1941年に製作された金張りケースの「リンウッド」です。ムーヴメントには「グレード 982」を搭載し、外見のデザインも本品とよく似ていますが、ベゼルの三時側及び九時側のフルーティングが異なります。すなわち金張りモデルのフルーティングは縦に長く溝が刻んであるだけですが、下の写真でも分かるように、金無垢時計である本品のフルーティングは立体的に作り込まれています。

 現在残っている「リンウッド」はほとんどすべて金張りモデルで、金無垢モデルを見る機会が無いので、金無垢モデルのフルーティングが金張りモデルよりも凝った作りであったことは、コレクターの間でもほとんど知られていません。





 1940年代当時、本品のような金無垢、ハイ・ジュエルの高級時計の価格はたいへん高価で、現代の貨幣価値に換算すると、おそらく八十万円から百万円ぐらいに相当しました。このような高級品である本品の品質は、購入者の期待を決して裏切りませんでした。特にアメリカ時計の品質はスイス時計よりもずっと優れており、一生のあいだ愛用できる耐久性を有していました。

 しかしながら 1941年12月8日、日本が真珠湾を攻撃して日米が開戦すると、合衆国政府はアメリカ国内でムーヴメントを製作するエルジン、ハミルトン、ウォルサムの各時計会社に命じ、全力を挙げて軍用時計のみを生産させました。そのためこの三社は、太平洋戦争のあいだ、民生用の時計を作ることができませんでした。アメリカの有力時計会社三社が民生用の時計を作れずにいる状況は、中立国スイスの時計産業にとって大きなビジネス・チャンスでした。民生用の時計が不足した戦時下のアメリカには、大量のスイス時計が輸入され、顧客を奪われたエルジン、ハミルトン、ウォルサムは経営上の大きな打撃を受けて、ムーヴメントを自社で開発、生産する力を失ってゆきました。

 ハミルトン社は 1892年にペンシルヴェニア州ランカスターで創業し、数々の名作ムーヴメントを世に送り出してきました。その技術力は「リンウッド」に搭載されたムーヴメント「グレード 982」を見てもよくわかります。しかしながらハミルトン社は 1950年代頃からスイス製エボーシュを使い始め、1969年にはランカスター工場でのムーヴメント生産を完全に停止します。そして 1971年、ハミルトン社は遂にスイス資本(オメガ・アンド・ティソ)に買収されてしまいます。

 「ハミルトン グレード 982」は、ハミルトン社に最も力があった太平洋戦争前の最後の時期に、自社で開発・製作した名品ムーヴメントです。高級ドレス・ウォッチ「リンウッド」のケース内に秘められた「グレード 982」の美しさは、ハミルトン社が燃え尽きる前に見せた最高の輝きです。








  本品は男性用として作られた時計ですが、1940年の時計は現代の時計に比べて小さめのサイズであり、たいへん上品であるゆえに、女性にもお使いいただけます。バンドはお好きな色、質感、長さのバンドに替えることができます。時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り替えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。時計お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料で承ります。

 本品のバンドの幅は 14ミリメートルです。標準的な男性用時計のバンド幅は、現代の時計で 18ミリメートルないし 21ミリメートル、ヴィンテージの時計で 16ミリメートルですが、本品をはじめ、1930年代に流行した細長い男性用時計のバンド幅は、ほとんどが本品と同じく 14ミリメートルです。本品のように細長い男性用時計は現在作られておらず、現代の時計でバンド幅 14ミリメートルといえば女性用に相当するゆえに、取り付け部がこの幅の現代のバンドは、先端に向かってとても細くなっているのがふつうです。女性が使う場合は先端が細くても何の問題もありませんが、男性が使う場合は、バンドの先端の幅がなるべく細くならないデザインを選ぶ必要があります。男性が本品に取り付けるバンドを通信販売等で購入される場合は、取り付け部の幅だけでなく、バンド全体の幅にも注意してください。


 当店はアンティーク時計の修理に対応しております。アンティーク時計の修理等、当店が取り扱う時計につきましては、こちらをご覧ください。









 当店では時計用の箱をご購入いただけます。箱はレプリカ(現代の複製品)ではなく、時計と同時代のヴィンテージ品(アンティーク品)です。写真に写っている箱は重量感のあるオールド・プラスティック、おそらくガラリスでできており、基部の幅 13.4センチメートル、基部の奥行 8.7センチメートル、全体の高さ 4.5センチメートルです。税込価格は 21,600円ですが、時計をお買い上げいただいた方には税込価格 12,600円にてご提供いたします。







 当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





380,000円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




男性用腕時計 金無垢ケース 商品種別表示インデックスに戻る

男性用(男女兼用)腕時計 一覧表示インデックスに戻る


腕時計 商品種別表示インデックスに移動する


時計と関連用品 商品種別表示インデックスに移動する



アンティークアナスタシア ウェブサイトのトップ・ページに移動する




Ἀναστασία ἡ Οὐτοπία τῶν αἰλούρων ANASTASIA KOBENSIS, ANTIQUARUM RERUM LOCUS NON INVENIENDUS