452 |
Primus amor Phoebi Daphne Peneia, quem non | ... | フォエブスが最初に愛したのは、ペーネウスの娘(註2)ダフネーであった。この愛は |
fors ignara dedit, sed saeua Cupidinis ira,. Delius hunc nuper, uicta serpente superbus, |
知らぬ間に運命が与えたのではなく、クピドーの激しい怒りが与えたのである。 デーロスの神(註3)は蛇が打ち破られた直後で傲慢になっていたのであるが(註4)、このクピドーが |
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455 | uiderat adducto flectentem cornua neruo | 弓の弦(つる)を張り直しているのを見て(註5) | |
«quid» que «tibi, lasciue puer, cum fortibus armis ?» dixerat : «ista decent umeros gestamina nostros, qui dare certa ferae, dare uulnera possumus hosti, qui modo pestifero tot iugera uentre prementem |
言った。「ねぇ、やんちゃなおちびさん、恐ろしい武器で何を[しているのだね]。 この弓こそ、わたしの肩に担ぐのに相応しき物なのだ(註6)。 わたしは獣に対しても敵に対しても、確実な打撃を加えることができる(註7)。 その腹から出る毒気で広大な耕地に害を与える |
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460 | strauimus innumeris tumidum Pythona sagittis. | 大いなるピュトーンを、わたしは数え切れぬ矢で打ちのめしたのだ(註8)。 | |
Tu face nescio quos esto contentus amores inritare tua, nec laudes adsere nostras !» filius huic Veneris «figat tuus omnia, Phoebe, te meus arcus» ait ; «quantoque animalia cedunt |
どんな愛だか知らないが、きみは自分の仕事に満足して、 することをしていたまえ。わたしにこそふさわしい称賛を求めてはいけないよ。」(註9) ウェヌスの息子はアポロンに言う。「フォエブスよ。きみの弓はあらゆるものを貫くかもしれないが、 わたしの弓はきみを[貫くのだよ]。すべての生けるものを合わせても |
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465 | cuncta deo, tanto minor est tua gloria nostra.» | 神には劣るが、それと同じ程度に、きみの栄光はわたしの栄光に引けを取っているのだ。」 | |
Dixit et eliso percussis aere pennis inpiger umbrosa Parnasi constitit arce eque sagittifera prompsit duo tela pharetra diuersorum operum : fugat hoc, facit illud amorem ; |
クピドーはこのように言い、羽ばたく翼で空気を切り裂いて 間髪入れずにパルナッソス山の[雲の]蔭なる頂に陣取り、 矢でいっぱいの箙(えびら)から二本の矢を取り出した。 [二本の矢は]正反対のはたらきで、一本は愛を退け、もう一方は愛を生じさせる。 |
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470 | quod facit, auratum est et cuspide fulget acuta, | 愛を生じさせる矢は金色に塗ってあり、先端が尖って光っている(註10)。 | |
quod fugat, obtusum est et habet sub harundine plumbum. Hoc deus in nympha Peneide fixit, at illo laesit Apollineas traiecta per ossa medullas ; protinus alter amat, fugit altera nomen amantis |
愛を退ける矢は尖らず、矢軸の中に鉛が入っている。 神(クピドー)は後者の矢をペーネウスの娘に打ち込んだ。しかるに[クピドーは]前者の矢で アポロンの骨を貫いて髄を傷付けた(註11)。 その結果、一方は恋をし、他方は[自分に]恋する者の名前を聞くのさえ嫌がるようになる。 |
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475 | siluarum latebris captiuarumque ferarum | 野生の獣や家畜のねぐらで、 | |
exuuiis gaudens innuptaeque aemula Phoebes : Vitta coercebat positos sine lege capillos. Multi illam petiere, illa auersata petentes inpatiens expersque uiri nemora auia lustrat |
まるで処女神フォエベーのように、この娘は獣の剥皮を喜んで身に着け(註12)、 乱れた髪を紐で束ねていた。 数多くの男たちがこの娘を求めたが、娘は求婚者たちを退け、 男がどうしても嫌で、男無しで[暮らし]、人里離れた森を駆けまわる。 |
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480 | nec, quid Hymen, quid Amor, quid sint conubia curat. | 結婚も恋愛も婚礼も、娘は気に懸けない。 | |
Saepe pater dixit : «Generum mihi, filia, debes,» saepe pater dixit : «debes mihi, nata, nepotes» ; illa uelut crimen taedas exosa iugales pulchra uerecundo suffuderat ora rubore |
父はたびたび言った。「娘よ。わたしのためにも家庭を持っておくれ。」 父はたびたび言った。「わが子よ。わたしのためにも子供たちを産んでおくれ。」 娘はあたかも罪悪のように結婚を嫌い(註13)、 愛らしい顔をはにかみで赤く染め(註14)、 |
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485 | inque patris blandis haerens ceruice lacertis | 両腕を父の首に回して抱きつき甘えて | |
«da mihi perpetua, genitor carissime,» dixit «uirginitate frui ! dedit hoc pater ante Dianae.» Ille quidem obsequitur, sed te decor iste quod optas esse uetat, uotoque tuo tua forma repugnat : |
言った(註15)。「大好きなお父さま、わたしにずっと 娘(処女)のままでいさせて。ディアナさまは昔、父神[のゼウス]さまからそうさせてもらっていたでしょ。」(註16) 父は承知しても、[ダフネーよ、]汝はその魅力のせいで自分の願い通りに することができず、その[美しき]容姿が誓いを守る妨げとなる(註17)。 |
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490 | Phoebus amat uisaeque cupit conubia Daphnes, | フォエブスはダフネーを見て恋をし、結婚したいと望む(註18)。 | |
quodque cupit, sperat, suaque illum oracula fallunt, utque leues stipulae demptis adolentur aristis, ut facibus saepes ardent, quas forte uiator uel nimis admouit uel iam sub luce reliquit, |
フォエブスは自分が望むことは何でも[実際に起こることとして]期待(予想)する。それゆえ自らの神託に欺かれる(註19)。 穂が取り去られた後で軽い藁は焼かれ、 また、通りがかった人がたまたま近づけすぎた松明によって、 あるいは夜が明けて放置した松明によって、垣根は燃えてしまうが、 |
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495 | sic deus in flammas abiit, sic pectore toto | それと同じように神は炎へと入って行き、胸の内すべてが | |
uritur et sterilem sperando nutrit amorem. Spectat inornatos collo pendere capillos et «quid, si comantur ?» ait. Videt igne micantes sideribus similes oculos, uidet oscula, quae non |
[激しい愛に]焼かれ、[この愛が成就すると]信じて、実りの無い愛を育む。 [アポロンは][ダフネーの]首に乱れ髪が垂れかかっているのを眺めて、 「髪が整えられればどんな[に美しい]であろう」と言う。[アポロンは]火を映して 星々のように輝く[ダフネーの]眼を見る。[アポロンは][ダフネーの]可愛い口を見るが、その口は |
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500 | est uidisse satis ; laudat digitosque manusque | いつまで眺めても見飽きることが無い。[ダフネーの]指も、手も、 | |
bracchiaque et nudos media plus parte lacertos ; si qua latent, meliora putat. Fugit ocior aura illa leui neque ad haec reuocantis uerba resistit : «Nympha, precor, Penei, mane ! non insequor hostis ; |
前腕も、半分以上露わになった上腕も、[アポロンは]讃嘆する。 見えないところに関しては、理想的な体つきを思い描く(註20)。かの軽き風よりも速い[ダフネー]は逃げて、 この娘に繰り返し呼び掛ける者の言葉にも止まらない。 「ニンフよ、ペーネウスの娘よ、お願いだから待ってくれ。わたしはきみに何もしないよ(註21)。 |
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505 | nympha, mane ! Sic agna lupum, sic cerua leonem, | ニンフよ、待ってくれ。子羊が狼から逃げるのも、鹿がライオンから逃げるのも、 | |
sic aquilam penna fugiunt trepidante columbae, hostes quaeque suos : Amor est mihi causa sequendi ! me miserum ! Ne prona cadas indignaue laedi crura notent sentes et sim tibi causa doloris ! |
鳩たちが恐れて羽ばたいて鷲から逃げるのも(註22)、 それぞれ自分の敵から逃げているのだが(註23)、わたしにとっては愛が[きみを]追う理由なのだ。 わたしは辛い。[そんなに]前かがみになって[速く走って]はだめだ。転んで脚を怪我するじゃないか(註24)。 茨で脚をひっかくじゃないか。わたしのせいできみに痛い思いをさせたくないんだよ(註25)。 |
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510 | Aspera, qua properas, loca sunt : Moderatius, oro, | きみが走っている場所は険しい所だ。お願いだから、もっとゆっくりと | |
curre fugamque inhibe, moderatius insequar ipse. Cui placeas, inquire tamen : Non incola montis, non ego sum pastor, non hic armenta gregesque horridus obseruo. Nescis, temeraria, nescis, |
走って、そんな風に逃げないでくれ(註26)。わたし自身も、もっとゆっくりとついてゆくから。 きみが誰の目に留まったのか、尋ねてほしいな。わたしは山の住民[のような野蛮人]ではないのだ。 わたしは牧人ではない。このあたりで牛や羊の群れを 守っている野卑な男ではないのだよ(註27)。きみはわかっていない。無知な娘よ。 |
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515 | quem fugias, ideoque fugis : Mihi Delphica tellus | 自分が誰から逃げているのか、きみはわかっていないのだ。だからきみは逃げているのだ。わたしに対して、デルフォイの地も、 | |
et Claros et Tenedos Patareaque regia seruit ; Iuppiter est genitor ; per me, quod eritque fuitque estque, patet ; per me concordant carmina neruis. Certa quidem nostra est, nostra tamen una sagitta |
クラロス(註28)も、テネドス(註29)も、パタラ(註30)の宮廷も仕えている。 わたしの父はユピテルだ。わたし[の神託]を通して、これから起こること、過去にあったこと、 いまあることが明らかになる。わたし[の力]を通して、歌と楽器が響き合う(註31)。 わたしの矢はなるほど確かではあるが、しかしもう一本の矢のほうがわたしの矢よりも |
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520 | certior, in uacuo quae uulnera pectore fecit ! | いっそう確かで、傷など無かった[わたしの]胸に、その矢が傷を付けたのだ。(註32) | |
inuentum medicina meum est, opiferque per orbem dicor, et herbarum subiecta potentia nobis. Ei mihi, quod nullis amor est sanabilis herbis nec prosunt domino, quae prosunt omnibus, artes !» |
医術(薬)はわたしが案出したもので、わたしは世の人々に[病を治して]人を助ける[神]と 言われている。各種の薬草を扱うのは、わたしが得意とすることだ。(註33) 何と悲しいことであろうか。愛は如何なる薬草によっても癒され得ないとは。(註34) すべての人に役立つ技が、その持ち主に役立たないとは。」(註35) |
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525 | Plura locuturum timido Peneia cursu | さらに多くを語ろうとするアポロンから、ペーネウスの娘は狂ったように走って | |
fugit cumque ipso uerba inperfecta reliquit, tum quoque uisa decens ; nudabant corpora uenti, obuiaque aduersas uibrabant flamina uestes, et leuis inpulsos retro dabat aura capillos, |
逃げ、アポロンの言葉を聴こうとしない。(註36) そうであってさえ、アポロンの眼に映るダフネーは美しかった(註37)。風で衣が翻えるせいで、体のあちこちが裸になって見えていた(註38)。 向かい風が衣の前面をはためかせ(註39)、 軽やかな微風が揺れる髪を後ろになびかせていた(註40)。 |
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530 | auctaque forma fuga est. Sed enim non sustinet ultra | ダフネーは逃げているせいで、いっそう美しくなっていた(註41)。しかしながら若き神は、確かに、 | |
perdere blanditias iuuenis deus, utque monebat ipse Amor, admisso sequitur uestigia passu. Vt canis in uacuo leporem cum Gallicus aruo uidit, et hic praedam pedibus petit, ille salutem ; |
優しい言葉を無駄に掛け続けるつもりが無い(註42)。まさに愛が命ずるままに、 [アポロンは]駆け足で[ダフネーが逃げた]あとを追う(註43)。 その様子はあたかも、ガリアの犬が開けた野原でノウサギを 見つけ、犬は獲物を捕まえるために走り、ノウサギは助かるために走るときのようだ。 |
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535 | alter inhaesuro similis iam iamque tenere | 一方は追い付こうとするときに、あたかも今まさに[相手を]捕らえたと | |
sperat et extento stringit uestigia rostro, alter in ambiguo est, an sit conprensus, et ipsis morsibus eripitur tangentiaque ora relinquit : Sic deus et uirgo est hic spe celer, illa timore. |
信じ、歯を剥(む)き出して、[相手が通った]跡の空(くう)を咬む(註44)。 もう一方は自分が捕らえられたかどうかも分からないままに 咬み付く[相手]を辛うじてかわし、[自分の身に]触れる[犬の]口から逃れる(註45)。 神と乙女はこれと同じで、神は望みのために走り、乙女は恐れのために走っている。 |
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540 | Qui tamen insequitur pennis adiutus Amoris, | しかしながら神は愛の翼によって助けられて追っている。(註46) | |
ocior est requiemque negat tergoque fugacis inminet et crinem sparsum ceruicibus adflat. Viribus absumptis expalluit illa citaeque uicta labore fugae spectans Peneidas undas |
神は乙女よりも速く、また休息を拒み、逃げる娘の背に 迫る。[娘の]うなじの産毛に神の息がかかる。 娘は力を使い果たして青ざめる。速く[駆けて] 逃げる苦しさに負けた娘の眼に、ペーネウスの流れが見える。 |
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545 | «fer, pater,» inquit «opem ! Si flumina numen habetis, | 娘は言う。「お父さま、助けて。川の流れよ、もしもあなた方に神の力があるのなら、 | |
qua nimium placui, mutando perde figuram !» Vix prece finita torpor grauis occupat artus, mollia cinguntur tenui praecordia libro, |
男のひとに愛されるのは、もういや! わたしを変えて、綺麗じゃなくして!」(註47) 祈りが終わるとすぐに強い痺れが[娘の]四肢を支配し、 柔らかい胸は薄い樹皮に取り巻かれる。(註48) |
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550 | in frondem crines, in ramos bracchia crescunt, | 髪は葉に、腕は枝になり、 | |
pes modo tam uelox pigris radicibus haeret, ora cacumen habet : remanet nitor unus in illa. Hanc quoque Phoebus amat positaque in stipite dextra sentit adhuc trepidare nouo sub cortice pectus |
あれほど速かった足もあっという間に不動の根に繋がり、 顔は木の上部になる。[しかしながら、その木が有する]ひとつの優美さ、輝きは、元の娘のままである。(註49) フォエブスはこの木をも愛した。右手を幹に置くと、 新しい樹皮の下で心臓がまだ鼓動しているのが感じられる。(註50) |
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555 | conplexusque suis ramos ut membra lacertis | [娘の]腕[を抱くか]のように、枝を腕のなかに抱いた[フォエブス]は、 | |
oscula dat ligno ; refugit tamen oscula lignum. Cui deus «at, quoniam coniunx mea non potes esse, arbor eris certe» dixit «mea ! semper habebunt te coma, te citharae, te nostrae, laure, pharetrae ; |
木に接吻を浴びせるが、木は接吻を拒む。 神は木に対して言う。「さて、きみはわたしの妻にはなれないが、 それでも、わたしの木になるのだ。 月桂樹よ。きみはこれからずっとわたしの髪に飾られ、キタラに飾られ、箙(えびら 矢筒)の飾りともなる。(註51) |
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560 | tu ducibus Latiis aderis, cum laeta Triumphum | 喜びの声が勝利を[讃えて] | |
uox canet et uisent longas Capitolia pompas ; postibus Augustis eadem fidissima custos ante fores stabis mediamque tuebere quercum, utque meum intonsis caput est iuuenale capillis, |
歌い、七つの丘が[勝利を祝う]長い行列を目にするとき、きみはラティウム(ローマ)の将軍たちに伴いなさい。(註52) アウグストゥス宮殿の入り口に立つ二本の側柱の、いとも忠実なる守り手にも[なり]、 扉の前に立ちなさい。[扉の]中ほどにはシェーヌ[の冠]が見えるはずだ。(註53) わたしの頭が髪が抜けずに[永遠に]若いのと同様に、(註54) |
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565 | tu quoque perpetuos semper gere frondis honores !» | きみもまた、[常緑の]葉によって、永遠の美を常に保ちなさい。」 | |
Finierat Paean : Factis modo laurea ramis adnuit utque caput uisa est agitasse cacumen. |
パエアーンは[語るのを]終えた。月桂樹がたったいまできたばかりの枝で うなずき、その頂を人間の頭のように動かしたのが見えた。(註55) |
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