1930年代頃のイタリアで制作された珍しいロザリオ。栄唱とそれぞれの玄義を唱えるビーズが、15個の小像に置き換えられています。59個のビーズを持つドミニカン・ロザリーは最も普通に見られるタイプですが、ドミニカン・ロザリー以外の稀少種を含め、数多くのロザリオを目にする私でも、このような小像付のものを見るのは初めてで、これまでに同様の作例を見たことがありません。
このロザリオのクルシフィクスは縦6センチメートル近いサイズで、銀メッキを施したブロンズ製と思われるクロス(十字架)とコルプス(キリスト像)を、クロムめっきの台座に鋲留めしています。コルプスは打ち出し細工でもクロスとの一体成型でもなく、別作の丸彫り像で、迫真性のある人体表現となっています。クロス交差部の光輪を、プッティ(有翼の童子)の姿で表されたケルビム(智天使)が取り囲んでいます。クロスの先端部4か所にもひとりずつ、ケルブが配されています。クルシフィクスの裏面に、製造国を示す「イタリア」(ITALY)
の刻印があります。
センター・メダルは透かし細工のようになっており、一方の面に聖マルグリット=マリ (Marguerite-Marie Alacoque, 1647 - 1690)、もう一方の面に聖心を示すイエズス・キリストを、立体的な浮き彫りで表しています。
ビーズは無色で球形のクリスタル・ガラスを、手作業でファセット・カットしたものです。ファセット間の稜線が摩耗によって丸みを帯びている部分がありますが、ファセット表面をルーペで観察すると平行線状の研磨跡があり、型に流し込んで作ったものでないことが分かります。またファセットの形がひとつひとつ異なっており、カットが職人の手仕事であることもわかります。
クリスタル・ガラスは屈折率が高いためにキラキラと輝き、またカットが容易である半面、瑕(きず)がつきやすいという欠点を有します。それゆえこのロザリオでは、ひとつひとつのビーズの前後に金属製の小さなリングを取り付け、ワイア断面との接触・摩擦による瑕を防止しています。ビーズはすべて揃っています。特筆すべき問題は無く、たいへん良いコンディションです。
本品は、栄唱とそれぞれの玄義を唱えるビーズの代わりに、15個の小像を使用しています。拡大写真を上に示しました。
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喜びの玄義 | 受胎告知 | エリサベトご訪問 | イエズスの降誕 | イエズスの奉献 | 神殿でイエズスを見出す |
苦しみの玄義 | ゲツセマネの祈り | 鞭打ち | 茨の冠 | 十字架の道行 | イエズスの死 |
栄光の玄義 | イエズスの復活 | イエズスの昇天 | 聖霊降臨 | 聖母被昇天 | 聖母戴冠 |
本品は実際に使用されていたものですので、小像の突出部分は銀めっきが剥がれてブロンズが露出していますが、像の形はよく保存されて、細部まで判別可能です。古いロザリオであるにもかかわらず、全体的にたいへん良好なコンディションです。金属部分にもガラス・ビーズにも、特筆すべき問題はまったくありません。