十字架の道行き
VIA CRUCIS, le chemin de la croix, el víacrucis, la via crucis, der Kreuzweg




(上) 浮き彫りによる十四留 《ウィア・クルーキス 十字架の道行きのクルシフィクス 17.7 x 10.7 センチメートル》 壁掛け用信心具 イタリア 二十世紀中頃 当店の商品です。


 ヨーロッパから聖地エルサレムへの巡礼は古代から行われていましたが、十一世紀末に十字軍が始まるとイスラムとの平和的共存が脅かされ、十四世紀にはヨーロッパ人が聖地に出かけることは難しくなりました。そこでヨーロッパに居ながらにして聖地巡礼の代用とするために、受難のキリストが辿り給うたウィア・クルーキス(羅 VIA CRUCIS 十字架の道)を聖堂内や聖堂周辺に再現し、それらの地点に足を止めて救い主の受難を瞑想する信心が行われるようになりました。この信心を「十字架の道行き」と呼んでいます。

 受難の際にイエスが経験し給うた出来事は、スターチオーネース(羅 STATIO 数形 STATIONES)と呼ばれる絵画や小祠、聖像を辿ることで追体験されます。ラテン語スターチオーとその複数形スターチオーネースは静止、停止点の意味ですが、十字架の道行きにおけるスターチオー、スターチオーネースは留(りゅう)と和訳されています。


【十字架の道行きの発展】

 十字架の道行きの信心業を広めるうえで主に功績があったのは、いずれもドミニコ会士であるハインリヒ・ゾイゼ(Hl. Heinrich Seuse O.P., c. 1295 - 1366)とアルバロ・デ・コルドバ(Beato Álvaro de Córdoba O.P., 1360 - 1430)でした。ドミニコ会では留すなわち可視的な目印を用いずに瞑想を行いました。

 これに対してフランシスコ会では可視的な目印として留が制作されました。留を設置した早期の例としては、シチリア島メッシーナのクララ会会員エウストキア(Santa Eustochium/Eustochia Smeralda Calafato O.S.C., 1434 - 1485)が、自身の修道院に設けた十字架の道行きが知られています。


【伝統的な十四留】

 留の数ははじめ八ないし十八と一定しませんでしたが、 1690年頃に十四に固定されました。教皇インノケンティウス十二世は 1696年12月24日の小勅書「アド・エア・ペル・クアエ」(Ad ea per quae)で、ベネディクトゥス十三世は 1726年3月5日の大勅書「インテル・プルーリマ」(Inter plurima)で、クレメンス十二世は 1731年4月3日の通知で、ベネディクトゥス十四世は 1742年5月10日の通知で、いずれも十四留を確認し、贖宥を与えました。これらの教皇文書によって定められた十四留の内容は下表の通りです。


    I イエス、死刑判決を受け給う。 マタイ 27:11 - 14 他
    II イエス、十字架を負わされ給う。 マタイ 27:31 他
    III イエス、十字架の重みに倒れ給う。 正典福音書に該当無し
    IV イエス、聖なる御母に出会い給う。 正典福音書に該当無し
    V キュレネ人シモン、イエスが十字架を運び給うのを助け奉る。 マタイ 27:32 他
    VI 神を畏れる女、イエスの御顔を拭い奉る。 正典福音書に該当無し
    VII イエス、再び倒れ給う。 正典福音書に該当無し
    VIII イエスに付き従うイスラエルの娘らを、イエス慰め給う。 ルカ 23:28 - 31
    IX イエス、三たび倒れ給う。 正典福音書に該当無し
    X イエス、衣を奪われ給う。 マタイ 27:35 他
    XI イエス、十字架に付けられ給う。 マルコ 15:25, 26 他
    XII イエス、十字架上に息絶え給う。 ヨハネ 19:28 - 30 他
    XIII イエス、十字架から降ろされて御母に渡され給う。 ヨハネ 19:38 他 ただし福音書は聖母に言及せず。
    XIV イエス、墓に安置され給う。 ヨハネ 19:39 - 42 他



【1991年以降の十四留】

 上記十四留のうち福音書に明記された出来事は九留のみで、残り五留の出来事は伝承によります。

 また福音書に関連がある九留のなかでも、第十三留は聖母がイエスを抱くピエタの図像で表現されるのが常ですが、イエスの遺体を取り下ろした人物として、福音書にはアリマタヤのヨセフのみが挙げられています。すなわちイエスの降架と埋葬を記録した「ヨハネによる福音書」十九章三十八節から四十ニ節によると、アリマタヤのヨセフがイエスを十字架から取り下ろし、そこにニコデモが没薬と沈香を持ってきました。イエスの遺体は香料を添えて尼布に包まれ、近くの墓に納められました。ここに名前が出るのはアリマタヤのヨセフとニコデモだけであり、素直に読めばイエスの降架はこの二人によって行われたと思われます。

 「マタイによる福音書」二十七章六十一節によると、アリマタヤのヨセフがイエスを墓に納めて立ち去った後も、マグダラのマリアともう一人のマリアが墓の近くに残りました。「マルコによる福音書」十五章の記述も同様ですが、墓の近くに残った「もう一人のマリア」をヨセの母マリアと明記しています。「ルカによる福音書」二十三章五十五節には、アリマタヤのヨセフに付いて行ったのがガリラヤからイエスに従った女性たちであると書かれています。すなわちアリマタヤのヨセフがイエスの遺体を十字架から降ろしたとき、女性たちがその場にいたと福音書は明示していないし、聖母マリアへの言及もありません。


 1991年、当時の教皇ヨハネ=パウロ二世は聖書に拠らないこれら六留を他の出来事に置き換え、新しい十四留を下記のように定めました。これら十四の留はいずれも福音書に典拠を有します。


    I イエス、ゲツセマネの園で祈り給う。 マタイ 26:36 - 46 他
    II イエス、ユダに裏切られて捕えられ給う。 マタイ 26:47 - 56 他
    III イエス、サンヘドリン(ユダヤの最高法院)にて罪に定められ給う。 マタイ 26:57 - 68 他
    IV イエス、ペトロに否認され給う。 マタイ 26:69 - 75 他
    V イエス、ピラトに裁かれ給う。 マタイ 27:11 - 26 他
    VI イエス、茨の冠を被せられ給う。 マタイ 27:29 他
    VII イエス、十字架を負い給う。 ヨハネ 19:17
    VIII キュレネ人シモン、イエスが十字架を運び給うのを助け奉る。 マタイ 27:32 他
    IX イエスに付き従うイスラエルの娘らを、イエス慰め給う。 ルカ 23:28 - 31
    X イエス、十字架に付けられ給う。 マタイ 27:35 他
    XI イエス、善き盗賊に天の御国を約し給う。 ルカ 23:39 - 43
    XII イエス、御母をヨハネに託し給う。 ヨハネ 19:26 - 27 他
    XIII イエス、十字架上に息絶え給う。 マタイ 27:45 - 56
    XIV イエス、墓に安置され給う。 マタイ 27:57 - 61 他




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