時が迎え出す秘められた美 《お言葉通り、この身に成りますように 直径 20.0 mm》 経年が生気を吹き込んだアンティーク・メダイユ フランス 1960年代


突出部分を除く直径 20.0 mm



 少女マリアの横顔を浮き彫りにしたフランスのメダイ。十九世紀末に設立されたメダイユとビジュ・ド・ファンテジ(仏 les bijoux de fantaisie コスチューム・ジュエリー)のブランド、オリア(Oria)が、1960年代に制作した美しい作品です。本品の実物は写真で見るよりもずっと良好な保存状態ですが、本品はレプリカ(複製品)ではなく、六十年近く前に作られた真正のアンティーク品(ヴィンテージ品)です。





 昔のフランスで使用された金合金は、金無垢製品の場合もビジュ・ファンテジ(コスチューム・ジュエリー)の場合も銅の含有率が高く、他国の金合金に比べて赤みを帯びています。本品のめっきに使われている金もローズ・ゴールド(ピンク・ゴールド)寄りのイエロー・ゴールドですが、ローズがかった色が見えるのは方形を並べた外周部分のみで、マリアとマリアの背景を含む中央の円形部分には、ローズがかった金の上に黄色味の強い金を被せています。

 ローズがかった環状部分は艶やかな鏡面仕上げ、黄色味の強い円形部分は艶消し仕上げです。艶消しに仕上げられたマリアの姿はあたかも神の愛に抱かれるように、あるいは聖性の微光を発するかのように、柔らかな金の光に包まれています。





 フランスのアンティーク・メダイユは美しい意匠の作例が多いですが、本品は元々の意匠が美しいことに加え、時を経て獲得されたアンティーク品ならではの美を備えます。

 先ほど述べたように、本品中央の円形部分は黄色味が強い金めっきの艶消し仕上げです。しかしながら写真で見てもわかりにくいですが、マリアのヴェールは黄色味の強い金が突出部分においてわずかに摩滅し、ローズがかった下地の色が露出するとともに、表面全体の質案も艶を増しています。その一方マリアの横顔はヴェールよりも一段低くなっているので、黄色味の強い金めっきほとんどそのまま残り、質感もおおむね艶消しのままです。表面の質感と色にこのような違いが生じたせいで、もともと均一であった円形部分の仕上げに細やかな陰翳が生まれ、あたかも生身のマリアを眼前にするかのような効果が生まれています。





 これはメダイユ彫刻家の意図によらず、時を経るなかで期せずして獲得された芸術的効果です。本品が制作された時点では隠されていたメダイユの生命が、あたかもメダイユ自身の自律性によって発露したもののようにも思えます。

 大理石を刻む彫刻家は石塊の中に潜む人物を思い浮かべ、人物を隠す石を取り除くことによって、像をいわば解放します。この場合、彫刻家は素材に隠れていた生命力を可視化するのです。わが国の古い仏像彫刻にも自然木の形状や風合いを敢えて残した作例があって、大理石彫刻と同様の考え方で制作されたことがわかります。京都市右京区愛宕山中にある月輪寺の千手観音立像(ひのき一木造り 像高 168.8 cm 十世紀 重要文化財)や、京都府木津川市加茂町にある海住山寺奥の院の十一面観音立像(白檀または萱の一木造り 像高 45.6 cm 九世紀 重要文化財 奈良国立博物館寄託)は、背面が木取り時の風合いを残し、粗彫りのまま放置されています。これは奈良時代後期から平安時代前期に行われた「一木造り」の制作法とともに、自然の木が有する霊力を尊重したためと考えられます。

 木の霊力を移した像として更に分かりやすい例は、鶏足寺(滋賀県長浜市 現在は廃寺)にあったと伝えられる地蔵菩薩立像あるいは僧形神像で、後頭部まで貫通する大きな節穴により、顔の右側(向かって左側)が大きく欠損しています。ここに節があることは木取りに際してわかっていたにもかかわらず、節を避けようとせず、むしろ像の最重要部に節を持ってきて意図的に彫り残し、あるいは脱落させているのです。




 大理石像の彫刻家や木彫りの仏像の仏師は、素材の中にもともと潜む者を、余計な部分を除去することで可視化しました。彫刻家や仏師当人の意識としては、自分の意思する形状の像を作っているのではないでしょう。芸術家の意思とは無関係無く素材の中に存在する人物や仏の姿を、彼らはその技術によって迎え出しているのです。

 二層の金めっきのうち表層の摩滅によって、本品のマリア像が生気を増した本品の現状は、経年変化が成し遂げた仕事であって、メダイユ彫刻家の意思はそこに介在していません。しかしながら素材の中にもともと存在していた生気溢れるマリアの姿が後になって迎え出された点で、本品は大理石彫刻や自然木の仏像と共通点を有します。本品の場合、彫刻家や仏師に代わって経年がその仕事をしたのであって、レプリカには真似のできないアンティーク品ならではの美が顕わになっています。





 上の写真では左上方の環にオリアの刻印が見えています。オリア(Oria)は十九世紀末、おそらく 1897年頃のフランスで設立されたビジュ・ド・ファンテジ(仏 bijoux de fantaisie コスチューム・ジュエリー)のブランドです。フランソワ=オーギュスト・サヴァール(François-Auguste Savard, 1803 - 1875)のフィクス(Fix)、シャルル・ミュラ(Charles Murat, 1818 - 1897)が 1847年に設立したミュラ(Murat)に比べると、オリアは後発ですが、その品質はフィクス、ミュラに比べて引けを取らず、1924年のナント博覧会で金メダル、1929年のバルセロナ博覧会で金メダル、1930年のアントワープ博覧会でも特別賞、1931年のパリ博覧会で大賞を獲得しています。

 本品の浮き彫りは分厚い外周に保護されているせいで、他の物とぶつかったり擦れ合ったりすることが少なく、優れた状態が保たれています。そもそもペンダントの表(おもて)面が何かと擦れ合うことはほとんどありませんし、オリアのメダイは金の層が厚いので、何かと軽く擦れるぐらいで金色が薄くなることはありません。本品の外周部分にも、金の剥落はまったく見られません。

 裏面は肌や服地に触れますが、裏面には何も彫られていませんし、そもそもメダイは軽量であるゆえに、擦れる面に大きな力が掛かることはありません。それゆえ本品を日々身に着けても、いずれの面も摩滅はほとんど起こらず、安心してご愛用いただけます。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きく感じられます。


 本品のように美麗なメダイは、多くの場合、初聖体あるいはコミュニオン・ソラネルを受ける少女のために買い求められたものです。聖体を拝領する少女はキリストの花嫁であり、ローブ・ド・マリエ(仏 robes de mariée 花嫁のローブ、ウェディング・ドレス)を身に着けます。ヨーロッパ絵画の伝統において、未だイエスを産んでいないマリアは十三歳ぐらいの少女として表されます。本品のマリアも初々しい少女として表現されており、ちょうどそれぐらいの年齢で聖体を受けるフランスの少女たちの身を飾るのに、如何にもふさわしく思えます。

 なお初聖体のときに身に着けたメダイやシャプレは、一度きりしか使われない飾りではありません。とりわけオリアのメダイは大人の女性が愛用するにふさわしい上質さを備え、末永く愛用できます。本品は未使用品であるゆえに、特定の少女の記念品ではありませんが、無垢な心を失わない女性にご愛用いただきたい小さな美術品となっています。





 本品はおよそ六十年前のフランスで制作された古い品物ですが、保存状態は極めて良好です。ヒッポのアウグスティヌスは、「光は神から発する唯一の可視的なものである」と考えました。艶消しに仕上げられた金の柔らかな光は、穢れなき乙女マリアの聖性と、マリアを包む神の愛を可視化しています。メダイ外周部の強い輝きは、天球の外なる神ご自身の存在を想起させます。

 本品のめっきは僅かに赤みがかったイエロー・ゴールドをベースにしています。ローズ・ゴールド寄りの金色を一目見れば、フランス製ヴィンテージであることがわかります。直径 20ミリメートルの小さなメダイに美しいマリアを造形し、艶消しと光沢の三種を切り替えて仕上げた本品は、現代品に比べて格段にクラシカルであり、ファイン・ジュエリーに引けを取らない高級感を備えます。





 既に指摘したように、本品のマリア像は表層のめっきが突出部分で摩滅したことにより、制作時に比べて生気を増しています。これはあたかも彫刻家が大理石や木の中から像を迎え出すように、メダイの内奥に隠された生気が経年によって顕在化したということであり、本品はアンティーク品ならではの美の在り方を体現する好例となっています。

 本品はペンダントとして大きすぎず、小さすぎず、金の輝きもたいへん上品であり、時と場を問わず日々ご愛用いただけるメダイユに仕上がっています。本品の実物は写真で見るよりもはるかに美しく、お買い上げいただいた方には必ずご満足いただけます。





本体価格 18,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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