コミュニオン・ソラネルのプラケット 《わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように 19.0 x 16.5 mm》 二色の金張りによる名品 フランス 1920 - 30年代



 いまからおよそ九十年前、戦間期のフランスで制作された美麗な小品プラケット。プラケットとは四角いメダイユのことです。本品はコミュニオン・ソラネルに参加する十二歳の少女のために制作された品物で、二色の金を用いた厚い金張りとなっています。初聖体を受ける少女の名前は裏面に刻まれています。





 現代に比べると、昔は我が国でも元服、裳着が低い年齢で行われました。平安時代の貴族女性は十二歳から十四歳で裳着を行いました。古い時代ほど成人が早い傾向は、我が国以外にも当てはまります。新約聖書時代のユダヤ人は、男女とも十二、三歳で成人を迎えました。男性は家族を支えないといけないので、実際の結婚は成人の数年後でしたが、女性はほとんどの場合、成人後間を置かずに結婚していました。受胎を告知されたときのマリアの年齢に関して「ルカによる福音書」は何も語っていませんが、聖書学者は歴史学的データに基づき、このときのマリアの年齢を十代半ばであったと考えています。

 本品の作りが他のメダイやプラケットに比べてたいへん美しい理由は、少女の初聖体を祝う品物であるからです。二十世紀前半頃までのフランス社会は今日ほど世俗化が進まず、人々の生活を律する年間行事や人生の通過儀礼は、すべてカトリック教会とともにありました。コミュニオン・ソラネルは我が国の元服や裳着と同じく成人式であって、本品メダイを身に着けた少女ベルナデットも、緊張のうちに誇らしい気持ちを味わったに違いありません。


 本品に浮き彫りにおいて、無邪気な子供時代を終えたマリアは祈りの象徴であるヴェールで髪を隠し、目を閉じて、神との対話に沈潜しています。メシアの母として選ばれたマリアにとって、祈りのヴェールはそのまま花嫁のヴェールでもあります。





 十六世紀後半から十七世紀前半にかけて活躍したマニエリスムの画家フランシスコ・パチェコ(Francisco Pacheco del Río, 1564 - 1644)は、ベラスケス(Diego Velázquez, 1599 - 1660)とアロンソ・カノ(Alonzo Cano, 1601 - 1667)の師にあたります。 パチェコの娘フアナ(Juana Pacheco, 1602 - 1660)はベラスケスと結婚しています。

 美術の教育者でもあったフランシスコ・パチェコは、数冊の著書を著しました。そのうちの一冊、1649年にセビジャで出版された「絵画の技術 ― 古来の方法とその卓越性」("Arte de la pintura, su antigüedad y su grandeza", Sevilla: Simón Fajardo, 1649)において、受胎告知を受ける少女マリアの年齢に関し、パチェコが論じている箇所を引用します。テキストは近世カスティジャ語で、日本語訳は筆者(広川)によります。文意を通じやすくするために補った語は、ブラケット [ ] で囲みました。


      Sin poner a pleito la pintura del Niño en los brazos, para quien tuviere devoción de pintarla así, nos conformaremos con la pintura que no tiene Niño, porque ésta es la más común...     両腕に幼子を抱く聖母を我々が描くのは、抱かれる幼子への信心ゆえである。[それゆえ聖母とともに]幼子を描くことに、我々は反対するわけではない。聖母は幼子を抱いて描かれる場合が最も多い。
      Esta pintura, como saben los doctos, es tomada de la misteriosa mujer que vio San Juan en el cielo, con todas aquellas señales; y, así, la pintura que sigo es la más conforme a esta sagrada revelación del Evangelista, y aprobada de la Iglesia Católica, la autoridad de los santos y sagrados intérpretes y, allí, no solo se halla sin el Niño en los brazos, más aún sin haberle parido, y nosotros, acaba de concebir, le damos hijo...     [しかしながら]学識ある人々が知っているように、[単身の聖母を描いた]この絵は、福音記者聖ヨハネが天国で見(まみ)え、彼(か)のあらゆる印を有する神秘的な女性を描いたものである。それゆえ私が範とする絵は、福音記者に示されたこの聖なる啓示に最も合致しており、カトリック教会、諸聖人の権威、及び聖なる学者たちに是認されているのであって、両腕に幼子を抱いていないのみならず、未だ幼子を産んでいない。この女性は懐妊したばかりであり、我々は彼女に一人の息子を与えるのである。
      Hase de pintar, pues, en este aseadísimo misterio, esta Señora en la flor de su edad, de doce a trece años, hermosísima niña, lindos y graves ojos, nariz y boca perfectísima y rosadas mejillas, los bellísimos cabellos tendidos, de color de oro; en fin, cuanto fuere posible al humano pincel.     それゆえに、いとも清らかなるこの神秘のうちにあって、最も美しい年齢である十三歳の聖母を描くことが必要なのである。十三歳の聖母は誰よりも美しい少女であり、その眼は澄んでいて軽はずみなところが無く、鼻と口は完璧な形である。頬は薔薇色で、最高に美しい髪は長く、金色であり、つまりは人間の筆で描ける限り[の美しさでなければならない]。
         
     「絵画の技術 ― 古来の方法とその卓越性」 セビジャ、シモン・ファハルド書店 1649年    "Arte de la pintura, su antigüedad y su grandeza", Sevilla: Simón Fajardo, 1649



 ほとんどのメダイや受胎告知画に描かれるマリアは、若い大人の女性です。マリアが成熟した姿で表される理由は精神的成熟の形象化、すなわちアブラハムやヨブにも勝るマリアの信仰の可視的表現と考えることができます。しかしながら本品メダイにおいて、マリアはフランシスコ・パチェコが勧めるような年若い少女として表されています。その一方でマリアの横顔には年齢を超えた落着き、神の摂理への無条件的信頼が現れています。





 本品は八角形の珍しい形状で、すっきりとした直線的デザインは、この時代に全盛期を迎えたアール・デコ様式の特徴をよく表しています。材質はイエロー・ゴールド及びホワイトゴールドの金張りです。現代の金めっきに比べると昔の金張りは十数倍の厚みがあり、丈夫且つ見た目にも高級感があります。本品はおよそ九十年前の品物ですが、突出部分にも裏面にも摩滅はまったく認められません。

 八は仏教の聖なる数ですが、キリスト教においても新生を象徴します。大型の水槽に全身を浸す洗礼が行われていたロマネスク期の聖堂で、洗礼盤は八角形に作られましたし、洗礼堂も八角形の平面プランによりました。受胎告知の際、マリアが自由意志によって救いを受け入れ、「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」と答えたことで、人間は新生を得ました。また初聖体を拝領する少女は、聖体に現存するキリストを迎え入れることで、自覚的キリスト者として新しい人生を歩むことになります。これらのことを思うとき、コミュニオン・ソラネルのメダイである本品の八角形には、深い象徴的意味を見出すことができます。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。





 コミュニオン・ソラネルを受ける少女のために制作された本品は、数ある聖母マリアのメダイの中で最も美しいもののひとつです。本品の存状態は極めて良好で、特筆すべき問題は何もありません。半つや消しの金が放つ柔らかな輝きはあくまでも上品で、日々使いやすいペンダントに仕上がっています。





本体価格 15,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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