銀で鋳造したメダイに手作業で金彩を施し、スマルト(コバルトガラス)で青色エマイユを施した美しいメダイ。小さなサイズながらも良質の素材を使い、手間をかけて制作された高級品です。
表(おもて)面には若きマリアの横顔を柔らかなタッチの浮き彫りで表します。天使ガブリエルから受胎告知を受けたマリアは、「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」と答えてすべてを神に委ねました。突然家の中に入ってきた神の使いから、救い主を産むという大任を告げられるという異常な状況にもかかわらず、ごく若い少女であったマリアの柔和な表情には、神への絶対的な信頼、無条件の信仰が読み取れます。マリアの後光に施された金彩は、あたかも金が錆びないように、神を信じて揺るがない信仰を表しています。
上の拡大写真に写っている定規のひと目盛は 1ミリメートルです。本品の浮き彫りにおいて、マリアの顔の高さ(縦のサイズ)はわずか 3ミリメートルほどであることがわかります。「物」である芸術品に精神性を表現するのは本来難しいことですが、とりわけメダイの浮き彫り彫刻においては、絵画のように色を使えないうえに、背景からの突出は最も高い部分でも
0.5ミリメートルに足りません。このように厳しい条件にもかかわらず少女マリアの内面までも見事に表現するメダイユ彫刻家の仕事は、芸術的感覚と驚くべき職人技の両輪で成り立っています。
メダイ上部に突出した部分、及びこの部分に取り付けられた環には、フランスにおいて800シルバー無垢を表す「イノシシの頭」のホールマークが刻印されています。
メダイの裏面にはマサビエルの洞窟における聖母出現の様子を浮き彫りにしています。金色の微光に包まれて岩の窪みに現れた聖母は、右手首に15連のロザリオを掛け、茨の繁みに裸足で立っています。ベルナデットはヴェールを被り、シエルジュ(大ろうそく)とロザリオを手にして聖母の前に跪いています。ベルナデットは聖母に名を問い、聖母は胸の前に手を合わせて「我は無原罪の御宿りなり」と答えています。聖母の傍らから泉が湧き出て、聖母とベルナデットの間を流れています。
無原罪の御宿りであるマリアは、人祖アダムの妻エヴァと同様に女性でありながら、エヴァの罪を引き継ぎませんでした。それは薔薇の花芽が棘だらけの藪から出でながら、その棘に傷付くことなく、美しい花を咲かせるのにも似ています。ルルドの聖母が茨の繁みに裸足で立ちながら、その足が傷付かないのは、聖母が奇(くす)しき薔薇、無原罪の御宿りであることを表しています。
上の拡大写真に写っている定規のひと目盛は 1ミリメートルです。人物像の高さはそれぞれ4、5ミリメートルに過ぎませんが、人体の比率は正しく、流れるような衣の襞(ひだ)、周囲の岩場のごつごつした様子等がごく自然に表現されています。
このメダイは1930年代頃のフランスで制作された真正のヴィンテージ品ですが、古い年代にもかかわらず保存状態は非常に良好で、特筆すべき問題は一切ありません。メダイの縁は軽い磨滅によって優しい丸みを帯び、美しい銀色に輝いています。メダイの浮き彫りはエマイユのガラスに守られて、細部まで完全な状態で残っています。古い時代ならではの丁寧な手仕事による良質の美術工芸品であるとともに、美しいジュエリーとして日々ご愛用いただけます。