神に選ばれた父ヨセフ 働き育てる父親の守護聖人 優れた細密彫刻の小メダイ 直径 10.3 mm


突出部分を除く直径 10.3 mm

フランス  1910年頃



 幼子をしっかりと腕に抱くたくましい父、聖ヨセフのメダイ。堂々とした風貌と体格の聖ヨセフは左腕に息子イエズスを抱いています。イエズスは幼いながらも威厳ある身振りで右手を挙げて祝福の姿勢を執っています。ヨセフの右腕側には一本の百合が見えます。聖ヨセフに執り成しを願う祈りの言葉が、父子を囲むようにフランス語で記されています。

 Saint Joseph, priez pour nous.   聖ヨセフよ、われらのために祈りたまえ。

 メダイ裏面にはこの作品のテーマ(後述)を象徴する百合が浮き彫りにされています。


・聖父子像と聖母子像

 「聖父子」像と「聖母子」像を見比べると、図像表現に共通点がある一方、大きな相違にも気付きます。

 聖母子像の場合、聖母はイエズスの向かって左側に描かれることが多いのですが、これは聖母が天上において「イエズスの右(すなわち、向かって左)」の座を占めていることを表します。絵画や浮き彫り彫刻においてヨセフが幼子イエズスを抱く場合も、ヨセフはイエズスの右(向かって左)にいる作例が大多数を占めますが、これは聖母子像に倣って描かれているためでしょう。また父子は互いに睦みつつも両者ともほぼ正面を向き、ホデーゲートリア(救い主を世に示す聖母)型の画面構成となっています。ヨセフは百合を持っています。イエズスが向かって右側に描かれる点、イエズスを人々に示すかのような抱き方をしている点、百合が描かれる点のいずれにおいても、本品を含めた多くの聖父子像は聖母子像と共通しています。





 しかしながらヨセフとマリアの図像表現には、ひとつの大きな違いがあります。彫刻や絵画において単独で表されることも多いマリアと違い、ヨセフはほとんど常に幼子イエズスを伴います。これは「父」としての属性が強調されているためです。


・ヨセフが持つ百合の意味

 聖父子像のヨセフは百合を持っています。通常この百合はヨセフがマリアの浄配であること、すなわちマリアとの間に肉体関係が無いことの象徴であると解されています。この解釈は決して誤りではありませんが、聖父子像の百合には純潔の象徴にとどまらない積極的な意味があります。

 ヨセフの百合が純潔の象徴に過ぎないならば、ヨセフはイエズスを抱かない単独像であってもよいはずです。百合を持ったヨセフを、イエズスではなくマリアとともに描けば、「純潔」の意味はさらに強調されるでしょう。しかしながら実際には、百合を持ったヨセフは、単独像でもなく、マリアとともにでもなく、幼子イエズスとともに描かれます。これはどうしてでしょうか。

 百合の象徴性は多様であり、「純潔」を表す以外にも、「神に選ばれた身分」、及び「すべてを神に委ねる信仰」を表します。旧約の「雅歌」 2章 2節ではユダヤ民族が「茨の中に咲きいでたゆりの花」に譬えられていますし、キリスト教では同じ聖句が神に選ばれたマリアを指すと解釈されています。また「マタイによる福音書」 6章及び「ルカによる福音書」 12章では、栄華を極めたソロモンに勝って美しく装う百合が、神の摂理への無条件的な信頼、揺るぎない信仰を象徴しています。

 ヨセフはイエズスの父として神に選ばれました。また夢に現れた天使の言葉を信じて、懐妊したマリアを妻として受け入れました。それゆえ力強い父ヨセフが幼子イエズスをしっかりと抱いている図像において、百合は純潔を表すというよりも、むしろヨセフが信仰ゆえに父として選ばれたことを強調していると考えられます。


(下) Georges de La Tour,  L’Apparition de l’Ange à Saint Joseph, c. 1640, Huile sur toile, Musée des Beaux-Arts, Nantes




・このメダイのテーマ




 それゆえこのメダイに刻まれた百合は何よりもまず、神によってヨセフが選ばれ、幼子イエズスの父にふさわしいとされたことを表していると考えられます。ヨセフは浄配でもあり信仰者でもありますが、本品において堂々と力強いヨセフが幼子イエズスを抱く姿は、父としての属性をとりわけ強調した表現となっています。

 メダイに彫られた聖父子像を注意深く観察すると、ヨセフがイエズスを抱く抱き方が、聖母子像におけるマリアの抱き方とは異なることに気付きます。聖母子像のマリアは幼子の体に両手を添えて、母子が密着するような抱き方をしています。しかるにヨセフは幼子の体を力強い左腕でしっかりと支えつつ、右手は幼子の足を下から支えて、あたかも自らの足で立つイエズスを支えるかのような姿勢を執っています。

 正統教義のキリスト論によると、イエズスは三位一体の第二のペルソナ、全知全能の神であると同時に、まったくの人間でもあります。それゆえ幼子イエズスはどこにでもいる普通の子どもと同様に、知恵においても背丈においても少しずつ成長されました。(ルカ 2: 52) したがって幼子の健全な成長に両親の存在が大きな役割を果たしたことは、普通の子どもの場合とまったく同様です。幼子イエズスは信仰深い両親に育てられ、人間として成熟していったのです。

 その過程において、神に選ばれたヨセフは父親としての役割を立派に果たしました。父ヨセフがいなければ、イエズスは神の意志に従って受難する強さも信仰も得ることが無かったでしょう。マリアがイエズスを生むために夫は必要でなかったにもかかわらず、神がマリアの夫にヨセフを選び給うたのは、イエズスの成長に父が必要であったからなのです。このメダイのヨセフは何よりもまず「父」として表されているのであり、本品の白百合は神に選ばれた父の象徴に他なりません。





 本品はおよそ百年前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず、アンティーク品として問題無い保存状態です。浮き彫りのなかで最も突出した幼子の部分には表面に磨滅が見られますが、ヨセフは制作当時の状態を細部に至るまでよく残しています。大きな商品写真は実物の面積を百倍以上に拡大していますから、わずかな磨滅もよく判別できますが、肉眼で実物を見ると十分に美しいことがおわかりいただけます。直径 1センチメートルと指先に載るサイズながら、堂々としたヨセフの様子、百年の経過を映す美しい古色が、たいへん重厚な品物です。





本体価格 5,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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