ベル・エポックの美麗銀無垢メダイ 《サン・シストのケルブ》 守護天使の加護を願う工芸品 23.5 x 18.5 mm


突出部分を除く枠の直径 18.5 mm

突出部分を含む全体のサイズ 縦 23.5 x 横 18.5 mm  最大の厚さ 2.3 mm  重量 2.9 g


フランス  1900 - 1914年頃



 ラファエロの名画、「サン・シストの聖母(システィナの聖母)」の画面下方に描かれたふたりのプッティ(ケルビム)のうち、向かって左側のプット(ケルブ)を浮き彫りにした愛らしいメダイ。

 ラファエロの原画では中心に聖母子が描かれ、向かって左側に三世紀の初代ランス司教聖シクストゥス(サン・シスト St. Sixte de Reims)、 右側に三世紀の殉教聖女聖バルバラを描きます。ふたりのプッティは画面の最下部に描き加えられていて、左側のプットは肘をついて顎を掌に載せ、右側のプットは重ねて置いた手に顎を載せています。


(下) Raffaelo Sanzio, "Madonna Sistina", 1512 - 14, Öl auf Leinwand, 265 x 196 cm, Gemäldegalerie Alte Meister, Dresden




 「サン・シストの聖母」は三十八歳の若さで亡くなったラファエロが、自らの手で仕上げた最後の聖母子像です。1754年以来ずっとドレスデンにあり、第二次世界大戦当時はヒトラーの命により地下室に保管されていたために、連合軍のドレスデン空襲による破壊を免れました。第二次世界大戦後、いったんモスクワに運ばれましたが、その後ドレスデンに返却され、現在に至っています。

 この作品に描かれたふたりのプッティは、どちらも同じように可愛いのですが、メダイやプラケットに取り上げられるのは、ほとんど常に、向かって左側のプットです。向かって左側のプットのほうが、縦横の比の点で、円形メダイや正方形プラケットに収まり易いからでしょう。本品に取り上げられているのも向かって左側のプットで、肘をついて顎に手を載せ、眼だけ上に向けて聖母子を眺めています。

 ルネサンスおよびバロック絵画に頻出する有翼の童子は、「プッティ」とも「ケルビム」(ケルビーニ、シェリュバン)とも呼ばれます。聖書に出てくるケルビムは全身が無数の目に被われた恐ろし気な生き物で、神のみそばに侍(はべ)り、昼も夜も絶え間なく「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、全能者である神、主、かつておられ、今おられ、やがて来られる方」と唱え続けています(「ヨハネの黙示録」 4:8)。しかるにルネサンスおよびバロック絵画のケルビムは、幼い男の子の姿です。特に「サン・シストの聖母」のケルビム(プッティ)は、「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな」と唱えつつ飛び回る代わりに、如何にも退屈そうな様子で目だけを動かして、頭上の聖母子を眺めています。こんなケルビムを描いたのはラファエロだけで、微笑みを誘うその姿は万人に愛されています。





 本品に浮き彫りにされたプットあるいはケルブは、ラファエロの原画を忠実に写しています。手前には雲が加えられています。メダイユ彫刻においては丸彫り像とは異なって、作品の空間的な立体性、あるいは高低差はごくわずかです。本品の浮き彫りは厚みがあって立体的ですが、それでも背景との高さの差はせいぜい一ミリメートルです。また絵画と異なって、色(色相、明度、彩度)の変化によって立体性を表現することもできません。それにもかかわらずこの作品では、プットの幼児らしく丸々とした体形と天真爛漫な表情が、たいへん活き活きと表現されています。プットの右(向かって左)にはメダイユ彫刻家のイニシアル(LM)があります。





 本品は七つの部品を組み合わせ、手作業で溶接して制作されています。

 プットは直径 15.1ミリメートルの円形メダイに浮き彫りにされています。しかるにこの円形メダイは上部の環を切り落としたうえで内径 15.5ミリメートルほどの枠に嵌め込まれ、溶接によってしっかりと固定されています。枠は幅広のリボンで細い木を束ねた意匠で、上部を切除されています。枠が切除された部分には、三本の帯を曲げて組み合わせた銀線細工により、典雅な透かし模様が造形されています。円形メダイから切り落とした環は、銀線細工の頂部に改めて溶接されています。銀線細工には細かいミル打ち(英仏 milgrain)が施されています。ミル打ちは銀線細工の反対側すなわちメダイの裏面側にも、同じ丁寧さで施されています。

 銀色のメダイは、大抵の場合、ブロンズに銀をめっきを施して作られています。しかるに本品は表面だけでなく、すべてを純度八百パーミル(800/1000)の銀で作った「銀無垢」(ぎんむく)メダイです。上部の環にあるマークは、パリ造幣局が 1838年から 1963年まで使用していた「テト・ド・サングリエ」(仏 tête de sanglier イノシシの頭)のポワンソン(仏 poinçon 貴金属の検質印)で、純度八百パーミルの銀を示します。純度八百パーミルの銀は、信心具に使われる最高級の素材です。





 上の写真に写っている定規のひと目盛は一ミリメートルです。プットの顔は直径三ミリメートルの範囲に収まる極小サイズですが、目鼻立ちが整っているのみならず、感情豊かな表情までもが正確に写し取られています。ラファエロが原画に描いたプットの顔は、直径三十センチメートルあまりです。メダイユ彫刻家はラファエロのように色を使わず、銀製メダイの上に立体化し、直径三ミリメートルの範囲内にそっくりそのまま再現しています。メダイユ彫刻家は百分の一ミリメートルの正確さでビュラン(仏 burin 彫刻刀)をコントロールし、プットの感情までも形象化するのみか、せいぜい高さ一ミリメートルに過ぎない浮き彫りに、丸彫りに劣らない三次元性を与えています。髪の一本一本、翼の一枚一枚の羽根、不定形の雲も、眼前に実物を見るような存在感を与えられています。

 拡大写真を見ると、本品には磨滅した箇所が全く無いことにも気付きます。本品はおよそ百年から百十年前のフランスで制作されました。この頃のフランスは、十九世紀末から引き続く繁栄の時代、「ラ・ベル・エポック」(仏 la Belle Epoch 美しい時代)でした。しかしながら第一次世界大戦以前のフランスでは、貧富の差が現在以上に大きく、一般庶民はめったなことでは銀無垢製品を買えませんでした。古い年代にもかかわらず、突出部分にも磨滅が見られない本品の保存状態は、このメダイがいかに大切にされてきたかを物語っています。





 メダイの裏面には百合が刻まれています。百合は神による選びを象徴します。

 高価な銀無垢メダイを材料にして、繊細な加工を施した本品の作りは、このメダイが特別なペンダントであることを示します。おそらく本品は新生児の洗礼記念に制作されたものでしょう。胎児の死亡率が高かった当時、健康な赤ちゃんを抱き取った両親は、わが子が神に選ばれて生まれて来たと感じたことでしょう。またこの子が神と守護天使に守られて無事に育つように、心から祈ったことでしょう。





 上の写真は筆者(男性)の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になると、もうひと回り大きなサイズに感じられます。

 純度八百パーミルの銀はフランスの信心具に使われる最も高級な素材です。本品は銀無垢メダイであるうえに、ジュエリー職人の手で加工された特別な品物です。百年以上前のフランスで制作されたものであるゆえに、第一次世界大戦と第二次世界大戦を潜り抜けているはずですが、非常に大切に保管されていたために、制作当時のままの状態で残っています。古い年代にもかかわらず、突出部分にも磨滅はまったく認められず、これ以上は望み得ない完全な保存状態です。





21,800円

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