少年のように若々しい姿の守護天使を立体的に打ち出したゆりかご用メダイ。象牙色のガラリト(ガラリス)製台座に嵌め込んであります。
ゆりかごに眠る幼子を守る決意を表すかのように凛々しい表情の天使は、胸の前に手を合わせ、神が幼子を正しい道に導き給うように祈っています。天使が若々しい姿で表されているのは、天使に守られる幼子自身の生命力を、守護天使の姿に反映させたものと見ることができます。
天使の造形はたいへん立体的で、あたかも目の前に天使が舞い降りたかのような錯覚さえ覚えます。金属の凹凸のみによる表現にもかかわらず、若き天使の滑らかな肌、艶のある髪、軽やかな衣、柔らかな羽、不定形の雲が、それぞれの質感を伴って見事に表現されており、メダイユの国フランスにおける浮き彫り芸術の層の厚さを実感させます。
天使の左肩の少し下に、フランスの彫刻家レモン・チュダン (Raymond Tschudin) のサインが彫られています。レモン・チュダンは
1916年に生まれ、パリの国立高等美術学校 (l'École nationale supérieure des beaux-arts de Paris,
ENSBA) において、高名なメダイユ彫刻家アンリ・ドロプシ (Henri Dropsy, 1885 - 1969) に師事し、フランス美術家協会 ( la Société des artistes français) のサロン展にて 1938年に銅メダル、1944年に銀メダルを獲得しました。1945年にはローマ賞メダイユ彫刻部門でグラン・プリを獲得し、
1946年から49年までローマに留学しています。
天使の右肩の下に「ジェ、デ」(G, D) とあるのは、メダイユ工房の刻印でしょう。
本品の台座はガラリト(仏 galalithe)でできています。「ガラリト」(英語では、ガラリス galalith)は 19世紀末に発明されたオールド・プラスチックの一種で、牛乳から作られるカゼイン樹脂です。同時代のセルロイドが強燃性の危険物であるのに対し、ガラリトは不燃あるいは難燃で安全性に優れ、また滑らかな手触り、重厚で美しい光沢があるゆえに、アール・デコ期から
1940年代頃にかけてよく使われました。
本品はおよそ70年前のフランスで制作された真正のヴィンテージ品ですが、古い年代にもかかわらず良好な保存状態です。艶やかなガラリトの輝きは高級感があり、優しい象牙色はどのような色の壁に掛けても美しく調和します。
天使の右ひじを延長したあたり、メダイユの縁にガラリトの欠損があります。この欠損は作品の美しさに影響しておらず、私は平気ですが、神経質な方は購入なさらないでください。