「マリアよ、私の純潔をお守りください」 純潔の百合を授ける聖母のカニヴェ (ブアス=ルベル 図版番号1065)

LE LIS D'INNOCENCE - "Soyez en la gardienne, ô Marie!", Bouasse-Lebel pl. 1065


112 x 72 mm

フランス  1880 - 90年代



 ヴェールを被った少女に、処女の純潔を象徴する白百合を授ける聖母を描いた19世紀フランスのカニヴェ。フランスが普仏戦争とコミューンの混乱から立ち直り、宗教に回帰した「悔悛のガリア」の時代に制作されたもので、背景全体に繊細な切り紙細工を施した美しい作品です。





 カニヴェの表(おもて)面には、聖母に寄り添う少女と、少女をマントの内に招き入れる聖母が、非常に細密なインタリオ(intaglio 凹版)で描かれています。

 キリストの花嫁として純白のドレスに身を包み、純白のヴェールを被る少女は、左手を胸に当てて祈り、右手を聖母のほうに伸ばして白百合を受け取ろうとしています。白百合は「神による選び」と「純潔」を象徴します。少女は顔を挙げ、神に選ばれた純潔の鑑(かがみ)、手本である聖母マリアへと、まっすぐに眼を向けています。

 聖母は少女の視線を優しく受けとめてその背に優しく右手を添え、あたかも外界の害悪から庇護して天の国に招き入れるかのように、少女をマントで保護しています。聖母は白百合を左手に持ち、微笑みを浮かべて少女に優しく差し出しています。





 二人の女性の姿は、ほぼ全面的にグラヴュール(エングレーヴィング)で製作されています。オー・フォルト(エッチング)が使われているのは、スティプル(点描)を別にすれば、二人の髪と、百合の花部分ぐらいです。カニヴェは画面が小さいので、いずれの技法による描画も細密な仕上がりとなりますが、本品は手間がかかるグラヴュール(エングレーヴィング)をほとんどの部分に採用しており、類品に比べてもいっそう優れたクオリティのアンティーク版画となっています。

 上の画像は実物の面積を数十倍に拡大しています。定規のひと目盛は1ミリメートルです。1ミリメートルあたりの線の密度は場所によって異なりますが、概ね4ないし6本程度、スティプル(点描)の密度は1ミリメートル四方に20ないし30個を数えることができます。





 さらに拡大します。ふたりの女性の目、まつ毛、形の良い鼻と唇など、顔かたちと表情の細部が、すべて極小のスティプルにより巧みに表されていることがわかります。定規の目盛と比較していただければ分かりますが、目や唇の幅は、それぞれ1ミリメートルないし 1.5ミリメートルです。





 聖画の下には版元の名前と所在地、この聖画の図版番号がビュラン(彫刻刀)で刻まれています。

  Bouasse-Lebel Imprimeur et Éditeur, 29, rue St. Sulpice, Paris - 1065  印刷・出版元 ブアス=ルベル パリ、サン=シュルピス通29番地  図版番号 1065

 ブアス=ルベル社 (Bouasse-Lebel Editeur et Imprimeur) は、「ブアス=ルベル」と名乗ったエングレーヴァー、アンリ=マリ・ブアス (Henri-Marie Bouasse, 1828 - 1912) が創業したカトリックの出版社で、数多くの美しいカニヴェや小聖画の版元として知られています。本品はブアス=ルベルによる作品としては後期に属します。

 版元名の下には、この聖画のテーマがやはりビュランのグラヴュール(エングレーヴィング)で刻まれています。

 LE LIS D'INNOCENCE - Soyez en la gardienne, ô Marie!  純潔の百合 - マリアよ、私の純潔の守り手でいてください。

 フランス語「イノサンス」(innocence) は「純粋さ」という意味ですが、ここでは「性的純潔」「貞操」の意味で使っています。この言葉を「性的純潔」の意味で使うのは、いかにも19世紀の古風な用法です。

 カニヴェを飾る切り紙細工は、天上の光に包まれる二人の女性を、多数の薔薇が取り巻いています。薔薇の花や葉、星には、立体的なエンボス(型押し)が施されています。薔薇が聖母を取り巻くのは、中世のラインラントで多く描かれた「薔薇の園にある聖母」の流れを汲む図像表現です。「薔薇の園にある聖母」のイメージは、旧約聖書の愛の歌「雅歌」にある次の聖句に由来します。

  Sicut lilium inter spinas, sic amica mea inter filias.   おとめたちの中にいるわたしの恋人は 茨の中に咲きいでたゆりの花。 (雅歌 2:2 新共同訳)


(下・参考画像) Stefan Lochner, Muttergottes in der Rosenlaube, um 1448, Holz, 51 x 40 cm, Wallraf-Richartz-Museum, Koeln




 つまりこのカニヴェニにおいて、純潔の体現者である聖処女マリアと、マリアの純潔に倣う少女は、ともに神に選ばれた乙女、「茨の中に咲きいでたゆりの花」(雅歌 2:2)として表現されているのです。

 本品のレース状切り紙細工は、たいへん繊細かつ複雑なパターンにもかかわらず、一箇所の破損も無い完品です。





 カニヴェの裏面には聖母への祈りと信仰の誓いがフランス語で記されています。内容は次の通りです。日本語訳は筆者(広川)によります。

    ELLE EST VOTRE MÈRE.
Recourez à elle dans tous vos besoins.
  マリアは汝の母なり。
必要な時はいつでも、マリアに頼るべし。
     
     Marie! notre bonne Mère! vous, dont la tendresse et la protection ne firent jamais défaut au cœur qui vous confie ses peines, à l'âme qui vous offre ses angoisses, continuez-moi votre bienveillant appui.    マリアさま。私たちの優しいお母さま。マリアさまに悩みを打ち明けて委ねる人の心を、マリアさまに苦しみを捧げる魂を、いつも優しく慰め守り給うた御身よ。これからも私を優しく支えてください。
     RÉSOLUTION. Au milieu des embûches de ce monde, des préoccupations de cette vie misérable, je recourrai toujours à vous, ô Marie, comme l'enfant qui vient dans le sein d'une mère chérie, déposer ses premiers soupirs, confier sa plus amère douleur.    誓い この世にある多くの罠と、悩み多き生活を取り巻く数々の心配事のただ中で、私は、マリアさま、いつも御身にすがります。ちょうど幼子が愛する母の胸に飛び込んで、ようやくため息をつき、背負いきれない悲しみを母に委ねるように。
     
     Répétant chaque jour la prière de Saint Bernard: Souvenez-vous, ô pieuse vierge Marie, que vous n'avez jamais abandonné qui vous implorait avec confiance.    聖ベルナールの祈りを日々繰り返して唱えつつ。「慈しみ深きおとめマリアよ。御身を信じて乞い願う者を、御身はこれまで決して見棄て給わなかったことを憶えたまえ」
     
    BOUASSE-LEBEL. 33, rue Saint-Sulpice, Paris   ブアス=ルベル パリ、サン=シュルピス通 33番地



 本品は19世紀に制作された真正のアンティーク品ですが、良質の中性紙に刷られているため劣化は見られず、それほどまでに古いとは信じ難いほどの良好な保存状態です。複雑なパターンの切り紙細工にも瑕疵は見当たらず、稀少な完品です。インタリオによる聖画は、多大な労力と時間を要するグラヴュール(エングレーヴィング)によって手間を惜しまず制作され、優れたアンティーク・ミニアチュール版画となっています。

 敬虔な祈りが籠められた信心具であるとともに、良好な保存状態の稀少な骨董品でもあり、ふたりの女性を描いた優れた美術品でもあり、19世紀末に宗教に回帰した当時のフランスの精神的状況を伝える貴重な資料でもあります。





カニヴェの価格 21,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。別料金にて額装も承ります。




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