アルブミン・プリントによる稀少なカニヴェ 「我らに最も近く寄り添い給う聖母の聖心よ」 (ドプテ 図版番号 210)
ô le Cœur Immaculé de Marie le plus compatissant, Dopter, pl. 210, 115 x 74 mm
フランス 1860年
聖母の聖心(汚れなき御心)を主題に制作されたカニヴェ。アルブミン・プリントによる非常に珍しい作例です。
表(おもて)面には、楕円形の古典的な枠内に、聖母を描いた聖画の写真を貼り付けています。穏やかな表情で慈母の眼差しを向ける聖母の胸には、神とイエスへの愛に燃える「汚れなき御心」が、まばゆい光を発しつつ炎を噴き上げています。聖母の「汚れなき御心」は、イエスへの愛ゆえにイエスの聖心と一体になり、罪びとへと愛の手を差し伸べます。聖母は両腕を胸の前に組み、罪びとのために執り成しの祈りを捧げています。
聖画はアルブミン・プリントによるもので、温かみあるセーピア(SEPIA ラテン語で「烏賊墨」の意)の色はこの技法に特有です。写真の保存状態は極めて良好で、ルーペで拡大してもクラックが見当たりません。上の写真は本品の表面を拡大しています。
裏面には聖母への祈りがフランス語で書かれています。内容は次の通りです。日本語訳は筆者(広川)によります。
O Cœur Immaculé de Marie ! ô plus compatissant de tous les cœurs, après celui de Jésus ! soutenez-nous dans nos tentations, secourez-nous dans nos périls, consolez-nous dans nos peines ; et quand devra sonner pour nous la dernière heure, soyez notre force et notre confiance. | マリアの汚れなき御心よ。あらゆる心のなかで、イエスの聖心に次いで、我らに最も近く寄り添い給う聖心よ。我らが誘惑に遭うとき、我らを支え給え。我らが危険に遭うとき、我らを守り給え。我らが苦しみ悩むとき、我らを慰め給え。我らの生の最期には、我らの力、頼みであり給え。 | |||
Alors, ô Marie ! nous faisant sentir toute la tendresse de votre Cœur maternel, protégez-nous, priez pour nous, jusqu'à ce que vous nous voyiez à vos pieds dans l'heureux séjour des Cieux. | それゆえ、マリアよ、母なる御心の優しさを余すところなく我らに示し給いて、我らを守り給え、我らのために祈り給え。幸いなる天上の住まいにて、我らが御足もとに参るまで。 |
祈りの下にはカニヴェの図版番号 (planche 210) とともに、版元ドプテの名前が書かれています。ドプテは 1824年から 1878年まで存続したパリの版元です。
Dopter, à Paris, 29, rue de Madame. ドプテ パリ、マダム通 29番地
活版で刷られた以上の部分を取り巻くように、次の言葉が鉛筆で記されています。
à ma chère Marie, souvenir du 19 mars 1860. Ne m'oublie pas près de St.
Joseph. 愛するマリへ、1860年3月19日の記念に。私のために、聖ヨセフにきっと祈ってください。
書き込みの後半を直訳すると、「聖ヨセフの御許(みもと)で、私を忘れるな」という意味です。カニヴェの贈り主がマリに対して、「自分(カニヴェの贈り主)のために聖ヨセフの執り成しを必ず願うように」と依頼しているのです。この文面からは、マリと聖ヨセフとの間に特別な結びつきがあることがうかがえます。また「忘れるな」("Ne
m'oublie pas") という部分の動詞の形が、フランス語においてごく親しい人や目下の人に対して話すときの語形を取っているゆえに、マリはごく若い年齢であったと思われます。マリはカニヴェの贈り主の娘、あるいは妹かもしれません。筆者が推測するに、このカニヴェは少女マリが「聖ヨセフ修道女会」(l'Institut
des sœurs de Saint-Joseph) に入会した記念、あるいは修道誓願を宣立した記念に、家族から贈られたものではないでしょうか。
本品は 1860年、わが国で言えば幕末に当たる時代に制作された真正のアンティーク品ですが、百五十年以上の歳月にもかかわらず、保存状態は極めて良好です。アルブミン・プリントによる聖画にも、切り紙細工の部分にも、特筆すべき問題は何もありません。とりわけアルブミン・プリントは最高の保存状態です。
アルブミン・プリントを使用したカニヴェは珍しく、本品は筆者がこれまで目にした唯一の作例です。1850年代半ばから20世紀初頭のフランスでは、「カルト・ド・ヴィジット」(la
carte de visite) または「フォト=カルト・ド・ヴィジット」(la photo-carte de visite) と呼ばれる名刺サイズの肖像写真が盛んに作られ、交換されました。アルブミン・プリントによる本品は、聖母マリアの「フォト=カルト・ド・ヴィジット」とでも呼ぶべきもので、当時の流行を映し出す興味深い作例です。
当店では別料金にて額装をお申し付けいただけます。上の写真で使用した額はイタリアからの輸入部材を使った木製で、サイズは縦 20センチメートル、横
15センチメートル、厚さ 2センチメートル、ベルベット張りマットを含む価格は 9,450円です。この額は自立式ですが、ご希望により壁掛け式の金具を無料で取り付けいたします。他の額、他の色のベルベットをご用意することも可能です。遠慮なく何なりとご相談くださいませ。
カニヴェのみの価格 23,800円 販売終了 SOLD
電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。別料金にて額装もご注文いただけます。
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