普仏戦争とパリ・コミューン フランスの不信仰と破滅を嘆くラ・サレットの聖母 悔悛のガリアのカニヴェ (シャルル・ルタイユ 図版番号 408)

Marie pleurant sur les ruines de la France, Charles Letaille, No. 408


123 x 80 mm

フランス  1877年



 裏面に「1877年 1月 28日」の日付が書き込まれているフランスのカニヴェ。二つ折りになっており、二、三、四ページ目には祈りの言葉が書かれています。普仏戦争の敗戦とコミューンの内乱後、カトリック信仰が復興した時代のものです。





 表紙に当たるページは、オー・フォルト(エッチング)とグラヴュール(エングレーヴィング)による細密版画で飾られています。このページの文字は活字ではなく、すべてビュラン(彫刻刀)で刻まれています。

 ページの最上部に「ラ・サレットの預言」(Les Prédictions de la Salette) と記され、二つの日付(1846年 9月 19日、1870年 9月 19日)が添えられています。二つの日付にはアステリスク(星印)が付いており、ページ最下部に次のように説明されています。

  On sait que le premier siège a commencé le 19 Sept. 1870, anniversaire de l'apparition à la Salette.

  周知のように、第一回目のパリ攻囲は 1870年9月19日に始まった。これはラ・サレットにおけるご出現と同じ日付である。






 1846年9月19日、フランス南東部ローヌ=アルプ地域圏イゼール県のコール (Corps) 近郊、ラ・サレット (La Salette) において、牛飼いの子供二人に対し、聖母マリアが出現しました。この日の午後三時頃、当時15歳であった牛飼いの少女メラニー・カルヴァ (Melanie Calvat, 1831 - 1904) と11歳の牛飼いの少年マクシマン・ジロー (Maximin Giraud, 1835 - 1875) が、山中の谷間で、見慣れない服装をし、輝く光に包まれた貴婦人に出会いました。貴婦人は岩に腰掛け、顔を手で覆って泣いていました。ふたりが近づくと貴婦人は立ち上がり、涙を流しながらフランス語と現地の方言の両方を使って、メラニーとマクシマンに次のように話した後、谷にほど近い開けた場所から天に昇ってゆきました。

・人々が不信心と罪を悔い改めないならば恐ろしい神の裁きに遭うこと
・人々が悪の行いを改めるならば神が憐れみ給うと自分(貴婦人)が約束すること
・もしも人々が悔い改めないならば、自分は息子の腕が振り下ろされるのを止められないこと。息子の腕は強くて重く、自分には支えきれないということ。


 本品の最上部に書かれている「ラ・サレットの預言」とは、 「人々が不信心と罪を悔い改めないならば恐ろしい神の裁きに遭う」という預言を指しています。二つの日付は、ひとつめがラ・サレットの聖母の出現日、ふたつめが第一回目のパリ攻囲(すなわち、普仏戦争時のパリ攻囲)が始まった日です。ラ・サレットにおける聖母の教えにフランスが耳を傾けず、不信仰が蔓延し続けたために、神とキリストはプロシア軍を使ってフランスを懲らしめ給うたのだ、と考えられていることがわかります。





 日付の下には、金色の線に縁取られて、ラ・サレットに出現した聖母の姿が描かれています。二人の子供は聖母を見つけて驚いています。

 上の写真に写っている定規のひと目盛は 1ミリメートルです。二人の子供は聖母よりも遠いところにいるので、遠近感を出すために、聖母ほど鮮明な輪郭で描かれていませんが、描画の細密性に関しては聖母像に劣りません。目鼻立ちをはじめとするすべての部分は十分の一ミリメートル以下の精度で彫られています。溝の深さでインクの量を調節し、顔や体に影を付けて、三次元の丸みを表現しています。





 岩に腰かけ、顔を両手で覆うようにして泣く聖母は、遠景の子供たち以上に丁寧な細密版画で描かれています。聖母は顔を両手で被っていますが、整った横顔に目、鼻、口が判別できます。手の形も正しい比率で描かれています。しかしながら定規の目盛と比べていただければ明らかなように、顔の高さも手の長さも、およそ 2ミリメートルしかありません。直径 1ミリメートルに満たない薔薇の花には花弁が描き込まれています。自然に流れる衣の襞は、線の太さと深さをコントロールすることによってのみ表現されています。聖母像の高さはわずか 2センチメートルほどですが、これらの驚くべき版画技術により、大きなサイズの絵画と比べても全く見劣りしない仕上がりです。この絵の下には次の言葉が刻まれています。

  Marie pleurant sur les ruines de la France.  フランスの破滅を嘆くマリア

  O insensés, que votre cœur est lent à croire ce que je vous ai annoncé!  鈍き者たちよ。汝等の心、わが語りたることを信ずるに、斯くも遅きことよ。






 ページ最下部に描かれているのは、燃えるパリを西側から東に向かって見た様子です。絵の下には「二度に亙るパリ攻囲はこのようにして終わった!」(Fin des deux sièges de Paris!) と記されており、二度目のパリ攻囲、すなわちフランス正規軍によるパリ・コミューン攻囲を描いた光景であることがわかります。

 中央右寄りに流れているのはセーヌ川で、数本の橋が架かっています。いちばん手前に見えるのはコンコルド橋です。左岸(この絵では向かって右側)へとコンコルド橋を渡ったところに、レジオン・ドヌール宮殿の丸屋根が見えています。

 右岸(向かって左側)では、コンコルド橋よりも少し奥(東)にとても立派な建物があり、窓から炎を吹き出して炎上しています。この大きな建物はチュイルリー宮です。ルーヴル宮とチュイルリー宮を結ぶべく、ナポレオン一世時代に長大な廻廊が完成され、1870年の時点では、チュイルリー宮の両端は東側のルーヴル宮と繋がっていました。

 普仏戦争の直後、パリは急進社会主義的な市民によるコミューンに占領されます。プロイセンの捕虜収容所から解放されたフランス正規軍はプロイセン軍と共同でパリを包囲し、やがて市内に突入した正規軍とコミューン軍の間で激しい市街戦が繰り広げられます。この市街戦と、同時に発生した大火によって、三万人ものパリ市民が命を失い、市役所やチュイルリー宮も焼失します。市役所は後に再建されましたが、チュイルリー宮は取り壊されて、現在も再建されないままになっています。


 金色の枠の下に "PL. 408" と記されているのは、このカニヴェの図版番号(仏 planche 408 「図版 408」の意)です。その左右には版元シャルル・ルタイユの社名と所在地が次のように書かれています。

  Charles Letaille, éditeur Pontifical, rue Garancière 15. Paris  教皇庁御用達 版元 シャルル・ルタイユ パリ、ガランシエール通 15番地





 カニヴェの二、三、四ページ目は活版で刷られており、「現在の我らの不幸に合わせたサレットの聖母の連祷」(LES LITANIES DE N.-D. DE LA SALETTE appliquées à nos maux présents) が三つ、書かれています。第一の連祷の内容は次の通りです。日本語訳は筆者(広川)によるもので、逐語訳ではありませんが、フランス語の意味を正確に伝えるべく努めました。

    Seigneur, ayez pitié de nous.
Christ, ayez pitié de nous.
Seigneur, ayez pitié de nous.
  主よ、憐れみ給え。
キリストよ、憐れみ給え。
主よ、憐れみ給え。
         
     Notre-Dame de la Salette, qui êtes apparue à de pauvres enfants des Alpes pour nous donner de graves avertissements...  priez pour nous!    ラ・サレットの聖母様、アルプに住まう貧しき子らに現れて、我らに給い、重大なる注意を我らに与え給うた御方よ。 われらのために祈り給え。
         
     Notre-Dame de la Salette, qui versiez des larmes en songeant aux péchés de la France, priez pour nous!    ラ・サレットの聖母様、フランスの重ねる罪を思いて涙を流し給える御方よ。 われらのために祈り給え。
         
     Notre-Dame de la Salette, qui nous avez fait entendre les menaces du Seigneur afin que nous nous convertissions, priez pour nous!    ラ・サレットの聖母様、我らが回心せんために、主の警告を知らせ給うた御方よ。 われらのために祈り給え。
         
     Notre-Dame de la Salette, qui disiez : "Si mon peuple ne veut pas se soumettre, je serai forcé de laisser aller le bras de mon Fils..." priez pour nous!    ラ・サレットの聖母様、「わたしの民が従うことを望まないならば、わたしは息子の腕を放さざるを得ません」とおっしゃった御方よ。 われらのために祈り給え。
         
     Notre-Dame de la Salette, qui, après avoir donné vos avertissements sur la montagne, avez ajouté avec bonté : "Mes enfants, faites-les passer à tout mon peuple..." priez pour nous!    ラ・サレットの聖母様、山上にて注意を与え給うた後に、「わたしの子供たちよ、この注意を我が民全員に伝えなさい」と優しく付け加え給うた御方よ。 われらのために祈り給え。
         
     Notre-Dame de la Salette, dont le culte s'est répandu si miraculeusement sur la terre... priez pour nous!    ラ・サレットの聖母様、御身への崇敬は、かくも驚くべき速さで地に広がりました。 われらのために祈り給え。
         
     Notre-Dame de la Salette, qui avez fait jaillir à vos pieds une eau qui depuis vingt-ans guérit les malades, priez pour nous!    ラ・サレットの聖母様、御足下(おんあしもと)から泉を湧き出させ、その泉によりて二十年の間に病者たちを癒し給うた御方よ。 われらのために祈り給え。
         
     Notre-Dame de la Salette, qui êtes remontée au ciel, resplendissante de clarté, ayez pitié de la France, priez pour nous!    ラ・サレットの聖母様、明るく輝きながら天に昇り給うた御方よ。フランスを憐れみ給え。 われらのために祈り給え。


 第二の連祷の内容は次の通りです。

     O vous, qui portiez sur la poitrine les signes de notre salut... dans notre châtiment, intercédez pour nous.    我らの救いの印を胸に提げたる御身よ。 罰を受けたる我らを執り為し給え。
         
     O vous qui annonciez la miséricorde et le pardon si l'on revenait à Dieu, dans notre châtiment, intercédez pour nous.    神に立ち返る者に憐れみと赦しを告げ給うた御身よ。 罰を受けたる我らを執り為し給え。
         
     O vous qui nous avertissiez de sanctifier le jour du Seigneur, si nous voulions prévenir des bouleversements terribles,  dans notre châtiment, intercédez pour nous.    恐ろしい混乱を防ぎたければ主日を聖別するようにと我らに注意し給うた御身よ。 罰を受けたる我らを執り為し給え。
         
     O vous qui nous disiez que le travail du Dimanche et le blasphème excitait particulièrement la colère de Dieu, dans notre châtiment, intercédez pour nous.    日曜日の勤労と冒涜的な罵りが神の怒りをとりわけ掻き立てると我らに語り給うた御身よ。 罰を受けたる我らを執り為し給え。
         
     O vous qui nous reprochiez de ne plus garder les jeûnes et abstinences de l'Eglise, dans notre châtiment, intercédez pour nous.    教会が命じる断食と節制を我らが守っていないことを責め給うた御身よ。 罰を受けたる我らを執り為し給え。
         
     O vous qui nous recommandiez comme si nécessaire la prières du matin et du soir, dans notre châtiment, intercédez pour nous.    朝夕の祈りをかくも必要なる事として我らに勧め給うた御身よ。罰を受けたる我らを執り為し給え。 


 第三の連祷の内容は次の通りです。

     Sainte Marie, Vierge sans tache, qui vous êtes montrée à Lourdes pour crier PÉNINTENCE, faites que nous confessions enfin la justice de Dieu.    聖なるマリア、汚れなき童貞、「悔い改めよ」と叫ぶべくルルドに現れ給うた御身よ。 神が義であり給うことを、我らに告白させたまえ。
         
     Sainte Marie, Refuge des Pécheurs !... qui avez averti Paris assiégé par la date mystérieuse du premier jour de siège, faites que nous confessions enfin la justice de Dieu.    聖なるマリア、罪びとの避け所よ。パリが攻囲された初日の奇(くす)しき日付(ラ・サレットにおける御出現記念日)により、攻囲されるパリの注意を促し給うた御身よ。 神が義であり給うことを、我らに告白させたまえ。
         
     Sainte Marie, Espoir des désésperés !... qui après nos désastres vous êtes montrée à Pont-Main pour nous rendre l'espérance, faites que nous confessions enfin la justice de Dieu.    聖なるマリア、望み尽きたる者の希望よ。我らが災厄に遭いし後、ポンマンに現れ給い、我らに望みを与え給うた御身よ。 神が義であり給うことを、我らに告白させたまえ。
         
         Par votre puissante protection, délivrez-nous des maux qui nous menacent encore, ô Marie !        御身の力ある庇護により、我らを未だ脅かす災いから、我らを逃れさせ給え。マリアよ。
         
         Pauvres pécheurs que nous sommes, convertissez-nous, ô Marie !        惨めな罪びとなる我らを回心させ給え。マリアよ。
         
         Dans le retour à Dieu, aidez-nous, ô Marie !        神に立ち返らんとする我らを助け給え。マリアよ。
         
         Dans l'accomplissement de la pénitence, assistez-nous, ô Marie !        悔い改めを遂げようとする我らに力を貸し給え。マリアよ。
         
         Dans la Foi, la Charité, et les vertus chrétiennes, rétablissez-nous, ô Marie !        信仰と愛とキリスト者の諸徳のうちに、我らを再び立たせ給え。マリアよ。
         
     Jésus écoutez-nous... Jésus exaucez-nous...    イエスよ、耳を傾け給え。イエスよ、我らの祈りを聴き入れ給え。
         
     Seigneur Jésus, qui avez dit : Je ne briserai pas le roseau à demi rompu, je n'éteindrai pas la mèche qui fume encore... nous nous prosternons humblement à vos pieds, vous demandant pardon... miséricorde... par Marie et avec Marie !...    主イエスよ。御身は言い給いました。「わたしは傷ついた葦を折らず、くすぶる灯心を消さない」(訳注 イザヤ 42:3、マタイ 12: 20)と。我らは貧しき心にて御足下に身を投げ、赦しを乞います。マリアにより、マリアとともに、憐れみ給え。
         
     O Jésus, faites-nous faire pénitence, mais sauvez-nous... pour la gloire de votre Nom... pour l'amour de votre Mère... et pour la consolation du chef de votre Eglise dont vous nous aviez fait la fille et le soutien. Amen !    イエスよ。我らに回心を得させたまえ。我らを救い給え。御名の栄光のために。御母への愛のために。御身の教会の頭を慰め給わんがために。我ら(訳注 フランス)を教会の娘、教会の支えと為し給うたのは御身なのですから。アーメン。





 最後のページには、鵞ペンのような付けペンにより、次の言葉が書き込まれています。かつて黒かったインクは、セーピア(烏賊墨)の色に褪色しています。

  Sœur Anastasie à sa chère Séraphie  スール・アナスタシアから、愛するセラフィへ。

 「スール」(sœur) とはフランス語で「姉妹」「シスター」のことです。このカニヴェがアナスタシア修道女からセラフィという女性に贈られたものであることがわかります。

 ページの最下部には鉛筆で次のように書き込まれています。これはセラフィによる覚え書きでしょう。

  Le jour de mon départ le 28 janvier 1887  1887年1月28日、わが出発の日に。





 優れたミニアチュール版画によるこのカニヴェは、美術品として高い評価に値するとともに、フランス精神史の貴重な実物資料でもあります。本品に記された長い祈りは、十九世紀半ばに始まり、普仏戦争以降いっそう力を得た「悔悛のガリア」の時代精神を顕著に反映しています。


 本品は百四十年近く前の紙製品ですが、それほどまでに古いものとは俄かに信じがたいほど良好な保存状態です。良質の中性紙でできていますので、酸性紙のような劣化は今後も起こりません。

 上の写真は木製フレームとベルベット張りマットを使用した額装例です。この額装は実費 4,200円にて承ります。 額の種類と料金につきまして、詳しくはこちらをご覧くださいませ。





カニヴェのみの価格 21,800円 (税込、額装別)

電話 (078-855-2502) またはメールにてご注文くださいませ。




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