レー・ヴァン・デーによる小聖画 「マリ=マドレーヌよ。イエスの聖血による愛と祝福が、全ての異教徒に与えられるよう祈り給え」 フランス 1950年頃


聖画のサイズ 75 x 108 mm

額を含めた全体のサイズ 145 x 190 mm  縁の厚さ 9 mm



フランス  1950年頃



 十字架の下で祈るマリ=マドレーヌ(マグダラのマリア)の小聖画。ヴェトナムの高名な画家レー・ヴァン・デー(Lê Văn Đệ, 1906 - 66)の作品です。1950年頃のフランスで「宣教慈善会」(Œuvre Pontificale de la Propagation de la Foi)のために刷られた聖画で、表(おもて)面の下部に「マリ=マドレーヌよ。イエスの聖血による愛と祝福が、全ての異教徒に与えられるよう祈り給え」(Marie-Madeleine, priez pour que le Sang divin de Jésus-Christ coule sur tous les infidèles.)と記されています。聖画は高品質のエリオグラヴュールにより、良質の中性紙に刷られています。


 西洋美術において、ゴルゴタにおけるマリ=マドレーヌの姿は、烈しい悲歎の身振りや表情で表されます。しかしながら烈しい感情を表現した作品は歴史上の出来事の再現を第一義とし、その限りにおいて、不可視のものを可視化する宗教画としての性質以上に、歴史画としての性質を備えていると考えられます。自然主義的描写によって表現される人物の表情や動きは、特定の時と場所において起こる事柄であるゆえに、永遠性や不変性と相容れない本性を有します。





 上の写真は「イーゼンハイム祭壇画」の中央パネル(部分)です。この祭壇画において、マリ=マドレーヌは十字架の下に跪き、悲しみに身をよじっています。十字架の方に突き出した手は、痙攣しているように見えます。





 しかるに本品の聖画は東洋の伝統的描法で描かれており、日本画や中国画におけると同様に、感情の表現は抑えられています。レー・ヴァン・デーが描くマリ=マドレーヌは美しく長い黒髪を手に取り、救い主の足から滴る血を拭おうとしています。西洋の画家であれば、身をよじり、慟哭し、あるいは涙も涸れて放心するマドレーヌを描くはずです。ところが本品のマドレーヌは悲嘆に暮れる身振りをせず、涙さえも流していません。マドレーヌの目は十字架上に救い主よりもむしろ天上に向けられ、髪に添えた手の形も静かな祈りを思わせます。

 マドレーヌが身を置いているゴルゴタでは、キリストの受難という歴史的事件が進行しつつあります。しかしながらレー・ヴァン・デーは感情表現を抑制し、神との対話に耽るマドレーヌを描いています。マドレーヌの表情と手の仕草は、聖女の魂が形を取ったものです。落ち着いて祈るマドレーヌの姿には、聖女の信仰の永遠性と不変性、聖女に向かう神の愛の永遠性と不変性、イエス・キリストが与える救いの永遠性と不変性が、見事に可視化しています。

 この受難画を描いたレー・ヴァン・デーは、東洋的描法の強みを生かし、聖女をゴルゴタから救い出して、天の高みに置きました。「永遠にして不変の愛」は本来不可視であるはずですが、レー・ヴァン・デーは不可視なるものの描写に限りなく接近しています。天の高みに上げられた聖女の姿は、崇高な宗教性に輝いています。


 レー・ヴァン・デー Lê Văn Đệ 1950年代の写真


 小聖画の元になっているのは、ヴェトナムの画家レー・ヴァン・デー(Lê Văn Đệ, 1906 - 66)が 1936年に描いた絹本着色画「十字架の下の聖マドレーヌ」(仏 Sainte Madeleine sous la Croix)です。レー・ヴァン・デーはこの作品を描いたのと同じ年に受洗し、カトリック信徒となりました。西洋絵画には無い手法で「神の愛」と「救い」の永遠性、不変性を描いた「十字架の下の聖マドレーヌ」には、キリスト教への改宗に当たり、「永遠」へと目を向けた画家自身の心性が反映しています。

 なお「十字架の下の聖マドレーヌ」は、同じ年に描かれた「マーテル・アマービリス」(羅 MATER AMABILIS 慈愛の聖母)とともに、ヴァティカン美術館に収蔵されています。





 裏面には「宣教慈善会」(Œuvre Pontificale de la Propagation de la Foi)と「使徒聖ペトロ慈善会」(Œuvre Pontificale de Saint Pierre Apôtre)が紹介され、会の目的、唱えるべき祈りとそれによって得られる免償、会員の種類ごとに定められた寄付金額、送金先が書かれています。これらふたつの慈善会はいずれも教皇に直属しており、「宣教慈善会」は非キリスト教圏で活動する宣教師のために祈り、経済的支援をすることを、「使徒聖ペトロ慈善会」は非キリスト教圏において現地人司祭の養成を支援することを、それぞれ目的としています。

 レー・ヴァン・デーの絹本着色画は 1936年の作品ですが、本品すなわち紙に刷られた小聖画の制作年代は 1950年代初め頃と思われます。裏面を見ると分かるように、本品は宣教のための慈善会、及び非キリスト教圏における現地人司祭養成のための慈善会用に刷られたものですが、同宣教会はレー・ヴァン・デーのこの作品を含め、非キリスト教圏の画家による聖画十二点を、1952年用のカレンダーに採用しています。本品はカレンダーから採ったものではなく、独立の小聖画ですが、制作年代はほぼ同じ頃と考えて間違いないでしょう。





 聖画は額装済みで、価格には聖画、額、別珍張りマット、工賃、税がすべて含まれます。額は昔ながらの木製で、プラスチックやパーティクルボードではありません。額のサイズは横 14ミリメートル、縦 190ミリメートルで、縁の厚さは 9ミリメートルです。

 下の写真は料金を追加した場合の額装例です。下の写真に写っている額は壁掛け式で、職人の手作りにより日本国内で制作した木製の一点物です。サイズは横 185ミリメートル、縦 230ミリメートルで、最大の厚さは 38ミリメートルです。この額を使用した額装料金は、通常であれば 14,800円ですが、上の写真に写っている簡易な額からは差額一万円(税込)で変更できます。













 なお商品写真の撮影時は、反射をなくすために、額のガラス(またはアクリル)を外しています。





 本品を描いた画家レー・ヴァン・デーはヴェトナムではたいへん高名で、フランスでも知られていますが、わが国にはほとんど紹介されていません。本品「十字架の下の聖マリ=マドレーヌ」が、この優れた画家を知っていただく一助になれば嬉しく思います。

 聖画は数十年前にパリで刷られたもので、高品質のエリオグラヴュール(仏 héliogravure)によります。私は強い近視で、微細な物が良く見えますが、本品を見たときは古典的フォトグラヴュールコロタイプであろうと思い、ルーペで見るまでエリオグラヴュールであることに気付きませんでした。古い年代にもかかわらず、保存状態は極めて良好です。特筆すべき問題は何もありません。





こげ茶色の額を使用した額装込みの価格 12,800円 (税込) 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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