エウカリスチアを捧げ持つ天使 「天使のパンが、人のパンになる」 多色刷り石版による小聖画 112 x 62 mm (パリ、ブマール・フィス 図版番号 5298)


聖画のサイズ 112 x 62 mm

額のサイズ 24 x 19 cm   額の厚さ 約 2.5 cm


フランス  二十世紀初頭



 

 いまから百年あまり前のフランスで作られた小聖画。雲形に縁取られたシルエットは、十九世紀末から二十世紀初頭のフランスを席捲したアール・ヌーヴォーの様式です。





 表面の上半分には細密なクロモリトグラフィ(多色刷り石版)により、エウカリスチアを礼拝する天使を描きます。天使の絵は日本画風の色を使い、背景を描かない点でも日本美術に倣います。円形画面を縁取る葡萄と小麦は過度に様式化されず、写実性を大きく留める点でやはり日本風です。葡萄と小麦を模(かたど)る円形の縁取り、及び表(おもて)面外枠の縁取りは立体的にエンボス(型押し)されており、煌めく銅色の粉末による彩色の名残があります。

 伝統的キリスト教美術のイコノロジーにおいて、四角形は地上界を象徴します。しかるに完全かつ無限な図形である円は、とりわけ四角形との対比において、天上界を表します。天動説の時代は言うに及ばず、ケプラー(Johannes Kepler, 1571 - 1630)以前の時代には、惑星は円軌道を描くと考えられていました。天体の運動が永遠であり、ハルモニア・ムンディー(羅 HARMONIA MUNDI 世界の調和)が完全である以上、天体が円軌道を描くのは自明のことと考えられたのです。

 このように円は天上界を表します。聖体が円形であるのも、円が完全図形であり無限性の象(かたど)りであるからです。本品において聖画の画面が円形であるのは、エウカリスチアがその本質において天上界に属するからです。地上に生きる人間ではなく、天界の存在である天使がエウカリスチアを礼拝しているのも、エウカリスチアが本来は天上界に属することを表しています。十三世紀の神学者トマス・アクィナス(St. Thomas Aquinas, c. 1225 - 1274)は聖体が有する超越性、すなわち「聖体が本来は地上のものではなく、その本質において天上界に属する」という事実を、パーニス・アンゲリクス(羅 PANIS ANGELICUS 天使たちのパン)という言葉で表しました。





 しかしながらトマスは、自作の韻文「サクリース・ソレムニイース」(SACRIS SOLEMNIIS)において、「天使たちのパンが、人間たちのパンになる」(羅 PANIS ANGELICUS FIT PANIS HOMINUM)と言っています。「サクリース・ソレムニイース」の該当箇所を引用します。和訳は筆者(広川)によります。

    Panis angelicus fit panis hominum;
Dat panis cælicus figuris terminum;
O res mirabilis: manducat Dominum
Pauper servus et humilis.
  天使のパンが、人のパンになる。
天のパンにより、数々の前表が終わりを告げる。
なんと驚くべきことであろう。
貧しく卑しき僕(しもべ)が主を食べるとは。


 カトリックではミサをキリストの受難の完全な再現と考えます。聖体は隠喩や象徴的表現ではない文字通りの意味で「コルプス・クリスティー」(羅 CORPUS CHRISTI キリストの御体)と呼ばれ、キリストは聖体のうちに現存し給います。上に引用したトマスの言葉は、この実体変化説に基づきます。


 「天使たちのパンが、人間たちのパンになる」という詩句の意味は、トマスの認識論に基づいて次のように説明できます。

 天使の知性は神の本質を認識することができます。正確に言うと、肉体を持たない天使は感覚器官を持ちませんが、天使の知性の内には創造主に関する知が注入(羅 INFUNDERE)されているゆえに、天使は自分自身を直観することによって、神の本質を直観できるのです。それゆえキリストすなわち神御自身に他ならない聖体の本質を把捉することは、天使の知性には可能です。トマスがキリストの御体(すなわち神の本質)を「天使たちのパン」というのは、このような意味です。

 しかるに人間の知性は神を直観できません。なぜならば、肉体と結合した人間の知性は感覚器官を通して外界の事物を把捉し、認識します。しかるに神あるいは神の本質は可感的事物(羅 SENSIBILIA 感覚器官によって捉えられるもの)ではありません。また神と可感的事物の間には無限の懸隔があるゆえに、前者を後者から抽象的観念として抽出することもできません。それゆえ人間は自身の本性に適合した方法で、神あるいは神の本質を把捉することはできません。したがってキリストの御体(すなわち神の本質)は、本来的には「人間たちのパン」、すなわち人間の知性が捉え得るものではありません。

 しかしながらキリストは聖体拝領の儀式を定めることにより、肉体を持った人間が地上に居ながらにして神(キリスト自身)と一体になることを可能にし給いました。聖体を拝領したからといって、人間の知性が神を直観できるわけではありませんが、本来は救いを得た死者の魂(羅 ANIMA SEPARATA 肉体と分離した魂)にのみ可能であるはずの神との親しき交わりを、聖体拝領は生きた人間において可能にしてくれるのです。トマスはこの秘儀に感嘆して、「天使のパンが、人のパンになる。… なんと驚くべきことであろう。貧しく卑しき僕(しもべ)が主を食べるとは」と謳っています。





 本品に描かれた聖体には、イエスの御名を表す三文字イオタ、エータ、シグマ(IHS)を十字架と組み合わせたモノグラムが記され、実体変化を起こした聖体がもはやパンではなく、コルプス・クリスティーすなわちキリスト御自身であることを示しています。パンでなくなった聖体は、もはや重力の支配を受けることなく聖杯の上に自立して浮遊し、神の愛そのものを表す眩い光を発しています。

 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。天使の目、鼻、口はいずれも一ミリメートル未満ですが、これは作画の精度が数十分の一ミリメートルのオーダーであることを示します。目は虹彩と瞳孔、瞼(まぶた)、睫毛がはっきりと判別可能です。同時代の多色刷り石版画には肌理(きめ)の粗い作例もありますが、これほどの細部を点描法で描き分けた本品の画質は、数ある多色刷り石版画のなかでも最も高い水準に属します。





 絵の下には次の言葉がフランス語で記されています。

     Jésus s'est anéanti dans l'Eucharistie afin de se rapprocher de nous.    イエス遜(へりくだ)りて聖体となり給へるは、彼の御許に近づくを我らに許さんがためなり。
         
     (Mgr. de Ségur)    ド・セギュール猊下


 トゥールの信仰深い女性エミリー・タミジエ(Marie-Marthe-Emilie Tamisier, 1834 - 1910)はファヴェルネの奇跡に心を動かされ、数人の神父たちの協力を得て、1881年、ベルギーとの国境に近い北東フランスの都市リール(Lille オー=ド=フランス地域圏ノール県)において、第一回聖体大会を組織しました。ルイ=ガストン・ド・セギュール師(Mgr. Louis-Gaston de Ségur, 1820 - 1881)はエミリー・タミジエの霊的指導者のひとりであり、第一回聖体大会の開催にも尽力しました。師は 1881年6月9日に亡くなりましたが、リールの聖体大会が開催されたのは、師が亡くなった直後の同年6月21日でした。

 表(おもて)面の最下部左右には、版元ブマール・フィスの名前と所在地 (Boumard Fils, Paris)、及びこの作品の図版番号 (5298) が記されています。





 裏面には初聖体の場所と日付、十二歳の少女の名前が記されています。

     SOUVENIR DE MA PREMIÈRE COMMUNION FAITE EN L'ÉGLISE DE FLIN    フランの教会にて行われた初聖体の記念に
         
     le 30 Avril 1911    1911年4月30日
         
     Renée Denis    ルネ・ドニ


 フラン(Flin)はフランス東部グラン・テスト地域圏ムルト=エ=モゼル県の小さな村です。クリスタル・ガラス製造で有名なバカラ(Baccarat)の町は、フランと同じカントン(仏 canton 小郡)にあります。





 小聖画の額装には、日本の職人が手作りしたチーク材のフレームを使用しています。額の概寸は 24 x 19センチメートル、厚さ 2.5センチメートル前後で、チーク材特有の艶と重量があります。この額は個々の材の個性的形状を活かして製作しているため、一点ものとなっています。

 なお写真では男性店主が本品を手に取っています。本品の実物を女性がご覧になれば、この写真で見るよりも大きなサイズに感じられます。





 上の写真は別の額を使用した額装例です。こちらの額も日本国内の職人が制作した特注品(一点もの)で、サイズはチーク材の額よりも一回り小さく、縦横は 22 x 17センチメートル、厚さは 2.5センチメートル前後です。いずれの額の商品写真も、反射を防ぐために透明アクリル板を外して撮影しています。なおいずれの額も一点ものであるため、聖画のご注文をいただいた時点で在庫していない可能性がございます。同じ額が無い場合は、同等レベルの額の中からお客様のお好みに合うものをご用意いたします。ご安心ください。


 本品は百年以上前のフランスで刷られた真正のアンティーク品ですが、保存状態は極めて良好です。破れや折れ目は無く、大きな汚れもありません。良質の中性紙に刷られているため、酸性紙のような劣化は今後も起こりません。下記の商品価格には、聖画、チーク材フレーム、ベルベット張りマット、工賃、税をすべて含みます。ベルベットの色は変更できます。





13,800円 販売終了 SOLD

※ 聖画、チーク材フレーム、ベルベット張りマット、工賃、税すべて込み。分割払い可。

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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