ブロンズを打ち抜いたマルタ十字風クロスの全面に、ガラス・エマイユを施した美しいクロワ・ド・クゥ(十字架形ペンダント)。類品に比べて大きめのサイズです。下の写真は本品の表裏を並置した合成写真です。商品の数は一点です。
エマイユ工芸ではフリットと呼ぶガラスの粉末を炉で融解させます。本品はブロンズ製の十字架上で赤色半透明ガラスのフリットを融解させたあと、一旦炉から出して冷却し、黄色、黄緑色、乳白色の不透明ガラスで小さな花を描いています。描いた小花は再度の加熱によって赤色の地に融着し、さらにその全体が無色透明のガラスでカバーされているため、花の絵が剥落することはありません。
エマイユの厚さに関して言えば、高温の炉内で液体になったガラスが表面張力のみでブロンズ上に留まることができる最大量のフリットを使用しているために、本品の表面は優しい曲線を描いて盛り上がっています。
エマイユに使われるフリットには、たいていの場合、不透明ガラスが使われます。浮き彫りの表面にエマイユをかけて凹凸を強調する「エマイユ・シュル・バス=タイユ」には半透明(トランスルーセント)のフリットが使われますが、その場合でもガラスの層が非常に薄いから光を通すのであって、特に青や赤など濃い色の半透明ガラスの場合、数ミリメートル以上の厚さになれば光を通さず、不透明ガラスと差がありません。
しかるに本品の場合、写真では分かりにくいですが、赤色部分は比較的淡い赤色で、実物を手に取って観察すると透明感があります。そのため十字架の側方からエマイユ内部へ入射した光が、入射側とは反対側の縁を内部から照らして、美しいグラデーションを見せてくれます。
末端に向かって広がる本品の意匠は、マルタ島を本拠地にした「聖ヨハネ騎士団」の十字架、「マルタ十字」に似ています。制作時に生じたと思われるヘアライン(非常に細い亀裂)が、交差部下端に認められます。本品においてエマイユの胎(ベース)となっているブロンズ板は厚味があって丈夫ですので、ヘアラインが広がってエマイユが剥落する心配はありません。
上の写真では本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品をご覧になると、もうひと回り大きなサイズに感じられます。
本品のような「クロワ・ド・クゥ」(仏 une croixde cou 十字架型ペンダント)はキリスト教を文化的背景としつつも、信心具ではなく装身具ですので、どなたにも気軽にお使いいただけます。本品の意匠を宗教的コンテクストで解釈するならば、十字架は至高の愛の象徴であり、赤も愛を象徴する色です。一方、五枚の花びらを有する花々は、「マタイによる福音書」
6章 25節から 34節、及び「ルカによる福音書」 12章 22節から 34節で言及されている「タ・クリーナ・トゥウ・アグルゥ」(希 τὰ κρίνα τοῦ ἀγροῦ 野の百合(複数形))を思い起こさせます。したがって本品は神に守られて無心に咲く野の花を象徴しているのでしょう。百合は聖母マリアの象徴でもあります。
本品は数十年前のフランスで制作された真正のヴィンテージ品ですが、古い年代に関わらず、良好な保存状態です。エマイユを施した十字架は、曲がると下地のブロンズからガラスが剥離し、エマイユが破損するので注意が必要ですが、本品のブロンズはある程度の厚みがありますし、ペンダントとして使うのであれば無理な力は加わりませんから、神経質になる必要はありません。小花模様が可愛らしい一方で、マルタ十字のシルエットは中世以来のオーソドックスな形であり、どのような服装のときもご愛用いただけます。
本品は裏面にもガラスが掛けられているので、肌が弱い方にもお使いいただけます。強い金属アレルギーの場合は、上部に取り付けた金色の環を透明マニキュアで保護するか、革紐等の非金属素材に交換してください。