金色に輝くアール・デコ 《ラコ 美麗オリーヴ彫金の女性用時計 十五石》 愛と平和と繁栄 先進の耐衝撃装置 スイス 1920年代後半から 1930年代初頭


突出部分を除くケースの縦の長さ 26.5 mm

竜頭を除くケースの幅 18.0 mm

風防と裏蓋を含めた時計全体の厚み 8.7 mm



 百年近く前、腕時計が誕生して間もない 1920年代頃にスイスで製作された女性用腕時計。時計本体のサイズは縦 26.5ミリメートル、幅 18ミリメートルで、五百円硬貨(直径 26.5ミリメートル)とほぼ同じです。本品の文字盤とケースのデザインは、当時流行のアール・デコ様式によります。古い年代にもかかわらず保存状態は良好で、きちんと動作します。





 時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)をケース(英 case)といいます。

 腕時計は懐中時計から発達しました。ムーヴメント製作の技術が進歩して時計が十分に小型化されると、女性たちが小さな懐中時計を手首に巻き始めたのです。このようにして、女性用懐中時計から女性用コンヴァーティブル・ウォッチが誕生し、腕時計へと進化してゆきました。


 コンヴァーティブル・ウォッチをはめた女性。1910年頃の写真。


 腕時計は女性用懐中時計から進化しましたが、懐中時計のムーヴメントはすべて円形です。四角形や八角形など、円形以外の懐中時計も稀(まれ)にありますが、それらは円形ムーヴメントを多角形のケースに入れているだけで、懐中時計のムーヴメントそのものは常に円形です。したがって腕時計のムーヴメントも、コンヴァーティブル・ウォッチの時代においてはすべて円形でした。


(下) 小さな懐中時計から誕生した女性用コンヴァーティブル・ウォッチ。当店の商品です。




 コンヴァーティブル・ウォッチの時代は 1910年代の終わり頃まで続きますが、1920年代に入ると本格的な腕時計の時代が到来します。腕時計はもともと女性用の時計として誕生しましたので、女性用腕時計の技術的進歩は男性用よりも速く、1920年代の初めころには細長い女性用ムーヴメントが既に登場していました。流行に敏感な女性たちは、「時計は円いもの」という既成の観念を壊した四角い時計、細長い時計を競って身に着けました。


 初期の腕時計をはめた女性。1920年代の写真。


 本品は男性用に先駆けて女性用腕時計華やかさを競い合った 1920年代後半から30年代初頭に、ドイツ、プフォルツハイムのラッヒャー社(Lacher & Co.)がスイス製ムーヴメントを使用して製作した時計です。カール・コッホマンの商標カタログ(Karl Kochmann, "CLOCK & WATCH TRADEMARK INDEX OF EUROPEAN ORIGIN", 2007)によると、ラッヒャー社は 1939年9月2日に「ラコ」(LACO)というブランド名を登録しています。本品のムーヴメントと文字盤にはラコ(LACO)のブランド名がありますが、1939年以降の時計にしては、機械の様式が古すぎます。ラコという商標が特許局によって正式に認められたのは 1939年9月2日ですが、このブランド名は実際にはそれよりも以前から使用されていたのでしょう。





 時計において、時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を文字盤(もじばん)または文字板(もじいた)といいます。文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を、インデックス(英 index)といいます。

 本品の文字盤は白色で、子持ち縞様(よう)のフルーティングが全面に施され、十二時の下に「ラコ 耐衝撃」(LACO SHOCK)、六時の下に「スイス製」(SWISS)と記されています。本品が製作されたのは百年近く前で、文字盤は当時のオリジナルですが、保存状態は極めて良好です。

 本品のインデックスはアラビア数字によります。時計のインデックスには年代による特徴があって、1960年代以降の時計にはバー・インデックス(棒状のインデックス)、1950年代の時計にはアラビア数字を棒や点と併用したインデックス、1940年代以前にはアラビア数字のみのインデックスが多用されます。本品に採用されているのは金色アラビア数字の立体インデックスで、直線のみで構成されたアール・デコ様式の字体が時代の雰囲気をよく表しています。





 本品の針は懐中時計の流れを汲むクラシカルな形状で、深い青色の光沢を有します。青色の素材はブルー・スティール(英 blue steel)すなわち青い鋼(はがね)で、鋼鉄製の針を加熱し、青い酸化被膜を作ったものです。ブルー・スティールは錆の発生を防ぐための加工ですが、作るのに手間がかかるので、現代では数十万円以上の時計にしか用いられなくなっています。現代の安価な時計の青い針は、大抵の場合、ブルー・スティールを模して青く塗装しています。本品の針は真正のブルー・スティールです。

 三時の位置から突出するツマミを竜頭(りゅうず)といいます。本品をはじめ、アンティーク時計はすべて電池ではなくぜんまいで動きます。本品は手巻き式ですので、一日一回竜頭を回してぜんまいを巻く必要があります。ぜんまいを巻くのはとても簡単で誰にでもできますから、初めての方でもまったく心配いりません。また時計を使わない日にぜんまいを巻く必要はありません。

 本品にはブルー・スティールの針に合わせて青色ガラス付の竜頭を取り付けました。この竜頭が好みでない場合は、飾り石が付かない通常の龍頭に交換可能です。なおこの時代の女性用時計はドレス・ウォッチですので、秒針はありません。秒針は、本来、仕事の際に作業時間を測定するためのものです。





 本品のケースはイエロー・ゴールドの金張り(ロールド・ゴールド・プレートまたはゴールド・フィルド)です。金張りとは板状の金をベース・メタルに張り付けたもので、摩耗に強く、見た目にも高級感があります。アンティーク時計の金張りは現代の金めっき(エレクトロプレート)に比べると金の厚みが数十倍に達しますが、本品の金張りも分厚く、百年近く前のものとは信じがたいほど良い状態を保っています。

 1920年代から1930年代初頭に製作された女性用時計は、文字盤とベゼル(ケースの前面)および側面に華やかな彫金装飾を有します。1920年代後半から1930年代初頭には四角い時計が流行しました。本品のムーヴメントはトノー型(樽型)ですが、風防の枠には長方形の彫金細工が施され、ケースの全体的形状も三時側および九時側の張り出しを目立たなく後退させるステップト・ケースを採用して、時計の四角さを強調するデザインとなっています。

 ケース側面にはオリーヴの枝を刻みます。ケース側面にまで彫金が及ぶのは、主に 1920年代の女性用時計の特徴です。本品の彫金モチーフとなっているオリーヴは、平和と繁栄、愛、勝利を象徴しています。





 時計ケースに金を張るのは美しさのためでもありますが、アレルギー対策という側面を有します。しかしながら金は軟らかい金属ですので、肌に接する部分に金を使うと摩滅することがあります。これを避けるために使われるのが、ステンレス・スティールです。初期の腕時計において、銀色のケースは大抵がニッケル合金でできていました。ニッケル合金は丈夫ではありますが、肌が敏感な人はアレルギーを起こします。それゆえ堅牢で美しく、且つアレルギーを起こさない素材としてステンレス・スティールが注目され、肌に触れるケース裏蓋に使われるようになりました。本品の裏蓋もステンレス・スティール製です。





 本品はトノー(樽)型手巻ムーヴメント、ラコ キャリバー 16 を搭載しています。ラコ キャリバー 16 は十五石の手巻き式ムーヴメントで、スイスで製作されました。

 手巻き式ムーヴメントは電池ではなくぜんまいで動きます。電池で動くクォーツ式腕時計が普及したのは、1970年代以降のことです。本品が製作された時代にはクォーツ式腕時計はまだ発明されておらず、腕時計はすべてぜんまいで動いていました。ぜんまいで動く時計を機械式時計といいます。現代の時計はクォーツ式時計ですが、本品は全く異なる仕組みで動く機械式時計です。

 機械式時計には手巻き式と自動巻き式があります。どちらも電池ではなくぜんまいで動きますが、自動巻きはムーヴメントの背面(手首に近い側)に回転錘(かいてんすい ローター)という錘(おもり)が付いていて、その動きによってぜんまいが巻きあがる仕組みになっています。最初の自動巻きムーヴメントが登場したのは 1940年代後半で、本品が製作された時代の時計はすべて手巻き式でした。

 手巻き式時計は竜頭(りゅうず)を回してぜんまいを巻き上げる必要があります。これを不便と感じるかどうかは使い手次第ですが、手巻き式時計には自動巻きに比べて故障しにくいという大きなメリットがあります。また手巻き式時計は回転錘が無いので、その分だけ薄くドレッシーに作ることができます。手巻き式時計を自動巻き式時計と比べて、正確さに違いはありません。宇宙飛行士は現在でもクォーツ式ではなく手巻き式時計を使っています。





 上の写真はムーヴメントの受け側、すなわちムーヴメントをケース裏蓋から外すと見える側を撮影しています。受け(ブリッジ bridges)と呼ばれる部分には、ラコ時計会社(LACO WATCH Co.)、スイス製(SWISS)、十五石(FIFTEEN JEWELS)、スリー・アジャストメンツ(THREE ADJUSTMENTS)等の文字が刻まれています。ムーヴメントの右端に、楕円で囲んでキャリバー名(16)が刻まれています。

 ムーヴメントの左上側には大きな輪が写っています。これは天符(てんぷ)といって、振子時計の振子に相当し、機械式時計において最も重要な部品です。天符は「ひげぜんまい」という細いぜんまいの働きによって高速で振動し、規則正しい動きによって正確に時を測ります。天符が「振動する」とは、往復するように回転する、という意味です。ラコ キャリバー 16 の天符は二種類の金属を張り合わせたバイメタリック・バランスで、ひげぜんまいという精妙な部品の働きにより、一時間当たり一万八千回、一日当たり四十三万二千回の振動を繰り返して時を刻みます。





 のちの時代の機械式時計では、天符にエリンバーという合金が使われるようになります。十九世紀の懐中時計は、気温が上がると時間が遅れる傾向がありました。これは高温で金属が膨張し、とりわけひげぜんまいの長さが伸びることによって、天符の振動する回数が減るためです。エリンバーはこの現象を起こさない合金で、フランス語エラスティシテ・アンヴァリアブル(仏 élasticité invariable)に由来します。エリンバーは気温が上がっても膨張しないので、この合金で天符を作ると時間の遅れが生じません。エリンバーの天符が普及するのは概ね 1940年代以降で、本品はそれよりも古い時代の時計ですので、天符の熱膨張を相殺するために二種の金属を張り合わせ、さらに天輪の二か所を切断した切り天符としています。これらは十九世紀から 1920年代までのアンティーク時計に見られる特徴です。

 なお商品写真はムーヴメントが動作している状態で撮影したので、切り天符の切れ目は写っていません。高速で振動しているにもかかわらず、写真の天輪が静止しているかのようにシャープな輪郭で写っているのは、天真の曲がりがまったく無いことを示します。

 アンティーク時計の生命ともいえるのは、天符の状態です。ひげぜんまいが弱っている時計は、長く使うことができませんが、それでもひげぜんまいがもともと有する物理的性質(等時性)によって、正常に時間を刻みます。ひげぜんまいの状態を知るには、時計からムーヴメントを取り出し、実際に動作させて確かめるしかありません。静止した商品写真ではわかりませんが、本品の天符は大きな振り角で元気に動いており、たいへん良好な状態です。ご安心ください。





 良質の機械式腕時計、懐中時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、時計の部品として使用されるのです。本品のムーヴメント、ラコ キャリバー 16 は十五個のルビーを使用しています。上の写真ではルビーが四個しか見えませんが、あとの十一個は機械の裏側(文字盤側)など、上の写真に写っていない部分に使われています。1920年代の時計は後世の時計に比べて石数が少なく、七石ぐらいのものが多数を占めていました。十五個のルビーを使用した本品のムーヴメントは、摩耗してはならないほとんどすべての箇所にルビーを使用した高級品です。

 本品の文字盤には、ブランド名(LACO)の下に「耐衝撃」(英 SHOCK)と記されています。これは天符の受け石座の形状が、衝撃を吸収すべく工夫されていることを示します。上の写真でムーヴメントの右側に大きなルビーが写っています。これがブリッジ側の天符受け石で、受け石を囲む銀色のベゼルが受け石座です。通常であれば受け石座は円形ですが、本品の受け石座は動物の顔のような可愛らしい形をしており、両耳の部分が裏側からネジ留めされています。こうすれば時計が衝撃を受けたときに受け石がわずかに動いて衝撃を吸収し、機械式時計にとって致命的な「天真折れ」という故障を防ぐことができます。耐衝撃装置が普及するのは 1950年代のことですが、本品はおよそ三十年も先んじて、独自に工夫した耐衝撃装置を搭載しています。1920年代に耐衝撃装置を搭載した時計は非常に珍しく、ベンラス社の例を除けば、筆者(広川)は本品しか目にしたことがありません。





 本品のバンドはお好きな材質、長さ、色のものに付け替えることができます。時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り替えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。

 時計にバンドを取り付けるための突出部分を、ラグ(英 lugs)といいます。現代の時計は十二時側と六時側にそれぞれ二本ずつのラグが出ていて、伸縮する金属製のピン(ばね棒)でバンドを取り付けます。しかしながら本品は 1920年代のヨーロッパの時計に多いワイアラグ式で、環状に閉じた針金様(よう)のラグを採用しているために、専用のバンドを取り付ける必要があります。ワイアラグ用バンドは市販されていませんが、当店には在庫しています。

 商品写真はバネで伸縮する金属製バンド(エクスパンジョン・バンド)を取り付けて撮影しています。革バンドに交換したい場合は、取り付け部の幅が 8ミリメートルのワイアラグ用バンド、または 9ミリメートルのワイアラグ用バンドが適合します。お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料で承ります。





 当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 95,000円 現状売り

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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