楕円形の薄いブロンズ板に三色のエマイユを施したブルターニュのブローチ。ブルターニュに残るケルト系文化の価値が見直され、本格的な保存運動が大きな規模で始まった 1970年代のものです。
ブローチのモチーフは「トリスケル」(triskèle) と呼ばれる巴文の一種で、ブルターニュを象徴します。トリスケルの中心部にはシャムロック(クローヴァー)があしらわれています。シャムロックがケルトの象徴であることは、わが国でもよく知られています。
トリスケルは藍色の不透明ガラスで描かれています。古来ヨーロッパではアブラナ科タイセイ属の植物「ゲード」guède(学名 Isatis tinctoria 和名 バンランコン)から、藍色の染料が採取されていました。ゲードの葉を粉砕して発酵させると、「パステル」(pastel) と呼ばれるペーストができ、これから藍色の色素が得られます。ゲードはブルターニュで多く栽培されていました。
トリスケルと重なるように、緑と白が使われています。緑はシャムロックの色であり、やはりケルトの象徴です。緑は金属光沢があり、無色透明のガラスで被われています。
ブローチの裏側は銅の色がそのまま見えていますが、無色透明のガラスで被われているゆえに、錆びることはありません。針は接着剤を使ってガラス表面にしっかりと接着されています。
本品の制作年代は 1970年代頃です。この頃、アラン・スティヴェル (Alan Stivell, 1944 - ) をはじめとする人々の活動によってケルトの文化が広く知られるようになりました。年代としては新しいですが、「ビジュ・レジオノ」(bijoux régionaux 地域固有のジュエリー)に属する作例といえます。
本品は真正のヴィンテージ品ですが、たいへん良好な保存状態です。特筆すべき問題は何もありません。裏側の針の機能にも問題はまったく無く、充分に実用可能です。このブローチは薄く、ごく軽いので、布地を傷めることもありません。