ジャン=バティスト・エミール・ドロプシ作 「ゴルゴタの丘に向かう聖女たち」 ブロンズ製の片面プラケット

"Saintes Femmes Allant au Calvaire" une plaquette uniface en bronze par Jean-Baptiste Émile Dropsy, 1848 - 1923


縦 47.7 x 横 80.0 mm  最大の厚さ 5.0 mm   重量 108.0 g

フランス  1880 - 1890年代



 19世紀後半から20世紀前半のフランス・メダイユ彫刻を代表する彫刻家のひとり、ジャン=バティスト・エミール・ドロプシ (Jean-Baptiste Émile Dropsy, 1848 - 1923) による片面の浮き彫り作品。フランス語で「プラケット」(plaquette) と呼ばれる四角いメダイユです。素材はブロンズで、プラケット側面に刻印があります。





 プラケット(メダイユ)には悲しみのヴェールを被り、悲嘆にくれる三人の女性が浮き彫りにされています。いちばん後ろの女性は嗚咽を漏らし、顔を被っています。前の二人は祈るように胸の前に手を組んでいますが、心静かに祈るためというよりも、耐えがたい苦しみと悲しみゆえに自然に手を組んで握りしめているように見えます。女性たちの視線の先、ゴルゴタの丘には、三本の十字架が立っています。中央の十字架には女性たちがメシアと信じて従ってきたナザレのイエスが磔(はりつけ)にされ、息絶えようとしているのです。

 プラケットの下部に幅3ミリメートルのエグゼルグ(exergue 銘を刻印するスペース)があり、「サント・ファム・アラン・オ・カルヴェール」(Saintes Femmes Allant au Calvaire フランス語で「ゴルゴタの丘に向かう聖女たち」)と彫られています。エグゼルグの右下隅にはメダイユ彫刻家エミール・ドロプシのサイン (É. Dropsy) があります。



 この三人の聖女は誰でしょうか。イエズスには大勢の女性たちがガリラヤから付き従ってエルサレムに来ていました。イエズスの受難の際、この女性たちは遠くから様子を見守っていました。イエズスを見守る女性たちのなかから、福音記者マタイは特に三人の名を挙げて、次のように記録しています。

 またそこでは、大勢の婦人たちが遠くから見守っていた。この婦人たちは、ガリラヤからイエスに従って来て世話をしていた人々である。その中には、マグダラのマリア、ヤコブとヨセフの母マリア、ゼベダイの子らの母がいた。(「マタイによる福音書」 27章 55 - 56節 新共同訳)

 マグダラのマリアは使徒に伍する地位にあった重要な女性です。「ヤコブとヨセフの母マリア」は聖母マリアの姉妹です。「ゼベダイの子らの母」は「サロメ」という女性です。しかるに女性たちの幾人かは、この後十字架のそばに移動しています。福音記者ヨハネは、イエズスが亡くなる直前に十字架の傍らに立っていた三人の女性の名を次のように記録しています。

 イエスの十字架のそばには、その母と母の姉妹、クロパの妻マリアとマグダラのマリアとが立っていた。 (「ヨハネによる福音書」 19章 25節 新共同訳)

 新共同訳ではわかりづらいのですが、十字架の傍らに立っていたのは「聖母マリア」「ヤコブとヨセフの母マリア」(聖母マリアの姉妹であり、クロパの妻である人)、「マグダラのマリア」です。ヨハネが挙げるこの三人は、いずれもマリアという名前で、「三人のマリア」と呼ばれています。マタイが名前を挙げるサロメは福音記者ヨハネの母で、この人も十字架の傍らまで来ていたかも知れませんが、ヨハネは自身の母サロメには言及せず、代わりに聖母の名前を挙げています。





 ジャン=バティスト・エミール・ドロプシは、この作品を「ゴルゴタの丘に向かう聖女たち」(Saintes Femmes Allant au Calvaire) と名付けています。激しい悲嘆に暮れつつ、イエズスの受難を遠くから見守っていた聖女たちは、やがて愛に衝き動かされ、イエズスを救い出すことができなくても、またイエズスの身代わりになることができなくても、せめてイエズスに少しでも近づこうと、刑場に向かったのでしょう。そう考えれば、この三人はイエズスの十字架の下に立った三人のマリア、すなわち「聖母マリア」「ヤコブとヨセフの母マリア」、「マグダラのマリア」であることがわかります。


(下・参考画像) 19世紀フランスにおける漆喰彫刻の作例。当店の商品。十字架の下に聖母マリア、聖母の姉妹であるマリア(クロパの妻)、マグダラのマリア、使徒ヨハネがいます。四人の顔ぶれは「ヨハネによる福音書」 19章 25-27節に基づきます。




 伝統的図像表現において、マグダラのマリアはヴェールを被らず、美しい髪をはじめ、女性としての魅力に溢れた誇示するかのような姿に描かれますが、メダイユ彫刻家エミール・ドロプシはキリスト教図像学上のこの慣例を破り、19世紀らしいリアリズムによって、聖女たちのありのままの悲しみをプラケットの上に再現しています。


(下・参考画像) ルーベンスによるマグダラのマリア Pieter Paul Rubens, The Deposition (details), 1602, oil on canvas, 180 x 137 cm, Galleria Borghese, Rome







 ジャン=バティスト・エミール・ドロプシは美しい女性像を最も得意とするメダイユ彫刻家ですが、「ゴルゴタの丘に向かう聖女たち」("Saintes Femmes Allant au Calvaire") は、美女を描くいつもの作風を封印し、ヴェールで顔を隠して悲しむ女性群像を描いた異色作です。抑制の効いた表現には地上の華やぎが見られない代わりに、深い精神性に満ち溢れています。「悲嘆に暮れる聖女たち」という主題に相応しい抑制を効かせつつ、決して陰鬱に陥らない清澄な仕上がりは、ジャン=バティスト・エミール・ドロプシの芸術的天才を証明しています。

 本品「ゴルゴタの丘に向かう聖女たち」は、サイズ違いの作品一点が、パリのオルセー美術館に収蔵されています。





 本品は19世紀末のフランスで鋳造された真正のアンティーク美術品ですが、古い年代にも関わらず、たいへん優れた保存状態です。特筆すべき問題はありません。





本体価格 58,000円 (額装別) 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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