エドワード・ヘンリー・コーボウルド作 「姦淫を犯した女」 ヨハネ福音書に基づくアンティーク・エングレーヴィング 249 x 194 mm 1854年


Edward Henry Corbould, "Go, and sin no more." Charles Henry Jeens sculpsit, 1854




 エドワード・ヘンリー・コーボウルド(Edward Henry Corbould, R.I., 1815 - 1905)による「姦淫を犯した女」のエングレーヴィング。原画はイギリス王室の収蔵品です。


 「姦淫を犯した女」は「ヨハネによる福音書」八章の冒頭にある物語です。「ヨハネによる福音書」八章二節から十一節を、新共同訳により引用します。

   2    (イエスが)朝早く、再び神殿の境内に入られると、民衆が皆、御自分のところにやって来たので、座って教え始められた。
   3    そこへ、律法学者たちやファリサイ派の人々が、姦通の現場で捕らえられた女を連れて来て、真ん中に立たせ、
   4    イエスに言った。「先生、この女は姦通をしているときに捕まりました。
   5    こういう女は石で打ち殺せと、モーセは律法の中で命じています。ところで、あなたはどうお考えになりますか。」
   6     イエスを試して、訴える口実を得るために、こう言ったのである。イエスはかがみ込み、指で地面に何か書き始められた。
   7    しかし、彼らがしつこく問い続けるので、イエスは身を起こして言われた。「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい。」
   8    そしてまた、身をかがめて地面に書き続けられた。
   9    これを聞いた者は、年長者から始まって、一人また一人と、立ち去ってしまい、イエスひとりと、真ん中にいた女が残った。
   10     イエスは、身を起こして言われた。「婦人よ、あの人たちはどこにいるのか。だれもあなたを罪に定めなかったのか。」
   11    女が、「主よ、だれも」と言うと、イエスは言われた。「わたしもあなたを罪に定めない。行きなさい。これからは、もう罪を犯してはならない。」





 コーボウルドの絵画は、神殿の建物内を描いています。中央に立つイエスの視線は、向かって左に腰掛けた人物の視線とぶつかり合い、火花を散らしています。イエスが見つめる人物はひときわ立派な服装で、十二個の宝石が嵌った胸当てを着用しています。これは「出エジプト記」二十八章に記述された大祭司アロンの胸当てであり、イエスと視線をぶつけ合う人物が大祭司カイアファであることを示しています。

 女を訴える者たちは、画面の向かって右側に描かれています。律法学者らしき右端の男はパピルスを広げ、「レビ記」二十章または「申命記」二十二章と思われるトーラー(律法)の規定を示しています。そこには「姦淫を犯した男女は死刑に処せられる」と書かれています。

 しかしながらイエスは十二歳のときに学者たちを驚かせた聡明な頭脳の持ち主(ルカ 2: 41 - 52)であり、同じトーラーから「出エジプト記」二十三章を引用して、女を告発する律法学者たちを容易に言い負かしています。預言者ダニエルは処刑されそうになったスザンナを弁護し、告発者たちを処刑させました(「ダニエル書補遺」)。女を告発する者たちは自分たちの主張が通らないのみならず、スザンナのときと同様に自分たちが処刑されかねないことを悟り、足早に逃げ出そうとしています。

 イエスはダニエルに勝る知恵によってトーラーを自在に引用しています。この作品では十戒の石板を持ったモーセ像がイエスと重なるように背景に描かれ、イエスが「活けるトーラー」であることをはっきりと視覚化しています。





 この作品において、神殿の出入口は向かって右後方にあるにもかかわらず、光は左側から射し、イエスと女を照らしています。左側から射す光は、至聖所から放射する知恵と愛の光です。神の光は大祭司カイアファにも当たっていますが、大祭司は神に背を向けているので、光に気付いていません。神の光は右端の律法学者が手に持つトーラーの巻物にも当たっていますが、律法学者自身は光に照らされていません。これは彼が神を論じつつも、頑なで愛の無い心ゆえに神の恩寵に無縁であることを示しています。

 大祭司カイアファは「一人の人間が民の代わりに死に、国民全体が滅びないで済む方が、あなたがたに好都合だとは考えないのか」(「ヨハネによる福音書」十一章五十節)と言いました。この発言はカイアファ自身の考えに基づくものではなくて、救い主受難の預言である、とヨハネは注釈していますが(ヨハネ 11: 51, 52)、神の光に背を向けるカイアファの口から如何にも出そうな言葉ではあります。神は一人ひとりを愛し給うゆえに(マタイ 6: 25 - 34、ルカ 12: 22 - 34)、神の恩寵に照らされた人物であれば、一人の命を軽んじる発言をするはずがないからです。実際、イエスはこのとき女を悪巧みから救い給いましたが、後にご自身がカイアファの手に渡され、さらにピラトのもとに送致されて、十字架に架けられ給うことになります。





 この作品を描いたエドワード・ヘンリー・コーボウルド(Edward Henry Corbould, R.I., 1815 - 1905)は、文学及び歴史を主題に、専ら水彩画を描いたイギリスの画家です。アルバート公(Albert, Prince Consort, 1819 - 1861 1840年にヴィクトリア女王と結婚)は、1842年にエドワード・ヘンリー・コーボウルドの「姦淫を犯した女」("Go, and sin no more." or "Woman Taken in Adultery", British Royal Collection)を購入しました。またコーボウルドは王室からの信頼が厚く、1851年からは女王の子供たちに歴史画の描き方を指導しました。


 本品はコーボウルドの「姦淫を犯した女」を基にしたアンティーク版画で、チャールズ・ヘンリー・ジーンズ(Charles Henry Jeens, 1827 - 1879)の作品です。チャールズ・ヘンリー・ジーンズは 1854年から 1879年まで「ジ・アート・ジャーナル」("The Art Journal"に作品を発表しています。本品「姦淫を犯した女」は、1854年にトーマス・アグニュー(Thomas Agnew & Sons)が版元となって発表されたあと、1874年に「ジ・アート・ジャーナル」誌上で再び取り上げられています。

 本品の版画技法は、エングレーヴィングです。チャールズ・ヘンリー・ジーンズの晩年に当たる 1870年代のイギリス版画界では、その頃のヨーロッパ大陸の様式に影響されて、肌理(きめ)の粗いエングレーヴィングが主流になりました。ジーンズは最晩年の 1879年にフランシス・ホルの「家を出る」(Francis Holl, "Leaving Home")を製版していますが、この作品は大陸式の作風となっています。しかしながら本品「姦淫の女」は 1854年に製版した作品であり、たいへんきめ細かく彫られています。上下の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。本品のような大面積の作品にはエングレーヴィングとエッチングを併用するのが普通ですが、ジーンズはエッチングを全く使わず、精緻なエングレーヴィングで画面を埋め尽くしています。

 チャールズ・ヘンリー・ジーンズによるエングレーヴィング「姦淫を犯した女」("Go, and sin no more.")は、本品と同じものが大英博物館に収蔵されています。








 本品は劣化しない無酸紙(中性紙)に刷られているため、百三十年以上前のアンティーク版画であるにもかかわらず、たいへん美しい状態を保っています。当店では無酸のマットと無酸の挿間紙を使用し、美術館水準の保存額装を実施しています。このページの写真は額装例で、外寸 40 x 31センチメートルの木製額に、青のヴェルヴェットを張った無酸マットを使用しています。額の色やデザインを変更したり、マットを替えたりすることも可能です。無酸マットに張るヴェルヴェットはベージュ、緑、赤もご用意できますし、ヴェルヴェットを張らずに白や各色の無酸カラー・マットを使うこともできます。商品価格にはエングレーヴィング、額、マット、別珍、工賃、税がすべて含まれます。

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