アレクサンドル・カバネル 「ラ・ネサンス・ド・ヴェニュス」 ヴィーナスの誕生 パリ、グピルによるアンティーク・フォトグラヴュール 1881年

La Naissance de Vénus


原画の作者 アレクサンドル・カバネル(Alexandre Cabanel, 1823 - 1889)

版元 グピル(Goupil et Cie)


画面サイズ  縦 255 mm  横 150 mm



 ブグロー (William-Adolphe Bouguereau, 1825 - 1905) と並んで十九世紀フランスのアカデミズム絵画を代表する画家、アレクサンドル・カバネル (Alexandre Cabanel, 1823 - 1889) の「ラ・ネサンス・ド・ヴェニュス」("La Naissance de Vénus" ヴィーナスの誕生)。この作品はカバネルの代表作であり、最もよく知られたフランス絵画のひとつです。


【原画について】

 カバネルの名声を揺るぎないものにした「ラ・ネサンス・ド・ヴェニュス」(ヴィーナスの誕生)は、1863年のサロン展出品作品です。この作品は公開後すぐに皇帝ナポレオン三世によって 15,000フランで買い上げられ、1865年にエリゼ宮に飾られたあと、1870年にリュクサンブール宮に移されました。


 ギリシア神話のアフロディーテー(希 Ἀφροδίτη)は海の泡から生まれたとされます。古来の語源説によると、アフロディーテーという名はギリシア語で泡を表すアフロス(希 ἀφρός)に由来します。現代の言語学者の中にはアフロス語源説に異論を唱える人もいますが、オックスフォードのギリシア語辞典古来来の説と同様に、アフロスがアフロディーテーの語源としています。アフロディーテーはローマ神話のウェヌス(羅 VENUS)と同一視されました。ウェヌスはヴェネロル(羅 VENEROR 愛する、慕う)と同源で、性愛の女神の名です。フランス語はラテン語から派生したロマンス語派に属するゆえに、カバネルのこの作品においてアフロディーテーはヴェニュス(ウェヌス)と呼ばれています。


 フランスの高名な詩人であり批評家でもあったテオフィル・ゴーチエ (Pierre Jules Théophile Gautier, 1811 - 1872) は、1863年6月13日の「ル・モニトゥール・ユニヴェルセル」(Le Moniteur Universel) 紙に「女神の体は波が立てる真っ白な泡で出来ているかのようだ。ふたつの乳首、唇、両頬はほんの微かな薔薇色に染まっている。」と書いて、この作品を絶賛しています。

 同じくフランスの彫刻家であり批評家でもあるルイ・オヴレ (Louis Auvray, 1810 - 1890) も「1863年サロン展」("Exposition des beaux-arts : salon de 1863") のなかで、「カバネル氏の『ヴィーナスの誕生』には素晴らしい魅力があるが、官能的な興奮を掻き立てるものではない。この絵において鑑賞すべきは優雅な姿、デッサンの正確さ、繊細かつ鮮烈な色遣いである。ボードリー氏 (Paul Jacques Aimé Baudry, 1828 - 1886) の『真珠と波』("La Perle et la Vague", 1863) と比べると自然さに欠けるが、『ヴィーナスの誕生』はよりいっそう純粋であり、詩的な美しさがある。」と書いています。


(下) Alexandre Cabanel, La Naissance de Vénus, 1863, huile sur toile, 130 x 225 cm., Musée d'Orsay, Paris




(下) Paul Jacques Aimé Baudry, "La Perle et la Vague", 1863, el Museo del Prado




 「ラ・ネサンス・ド・ヴェニュス」はナポレオン三世の失脚によって国家財産となり、 1881年にリュクサンブール美術館、1923年にルーヴル美術館に移されました。その後 1978年にオルセー美術館に移され、現在に至っています。

 シャルル・フランソワ・ジャラベール(Charles François Jalabert, 1819 - 1901)の弟子であるアドルフ・ジュルダン (Adolphe Jourdan, 1825 - 1889) は、グピル社 (Goupil & Cie) から依頼を受け、この作品のオリジナル (225 x 130 cm) を 60パーセントのサイズに縮小した模写 (136 x 85 cm) を製作しています。ジュルダンの模写はニューヨークのダヘシュ美術館 (Dahesh Museum of Art) に収蔵されています。


【この版画について】

 フランスの大手美術関連会社であるグピル社は、カバネルとの契約により、「ラ・ネサンス・ド・ヴェニュス」のフォトグラヴュアを製作する権利を獲得しました。グピル社の優れた版画作製技術は良く知られており、この作品もきわめて高いクオリティを誇ります。

 ルーペで拡大すると、現代のスクリーン・フォトグラヴュアに検出されるような格子状の点が存在せず、真正のアンティーク・フォトグラヴュアであることが確認できます。作品は良質の中性紙に刷られており、保存状態に問題はありません。裏は白紙です。


(下) 現代の美術印刷(スクリーン・フォトグラヴュア、いわゆるグラビア印刷)の拡大写真。画面はすべて格子状の点で構成されています。




(下) アンティーク・フォトグラヴュアの拡大写真。女神の右乳房のあたりで、上の写真と同等の面積を撮影しています。紙の繊維が識別できるほど大きく接写していますが、スクリーン・フォトグラヴュアに見られるドットは存在しません。




 アンティーク・フォトグラヴュアはタイポグラヴュアやスクリーン・フォトグラヴュアと違って多色刷りができません。それゆえ原画では色相の違いによって隣接部分と容易に識別できた細部が、版画にすると周囲に融け込んで目立たなくなってしまいます。とりわけ「ヴィーナスの誕生」のように中間色を多用し、色相や明度の劇的な変化が少ない作品の場合、フォトグラヴュアにすると、曖昧模糊とした画面になってしまいます。

 それゆえにアンティーク・フォトグラヴュアの版には、エッチング、エングレーヴィング、メゾチント等の技法を駆使して修整が行われます。このグピル版フォトグラヴュア「ラ・ネサンス・ド・ヴェニュス」も、ルーペで拡大、精査すると、メゾチント用ロッカーを使用して、女神とプッティの顔と髪、女神の体の陰翳部分(へそ、腕や胴体や脚先の陰など)に手が加えられていることがわかります。





 フランス語フォトグラヴュール(photogravure) は、「光」を表すギリシア語「フォース」(φῶς) の語幹フォート(φωτ-) と、「彫刻、製版」という意味のフランス語グラヴュール(gravure) を、ギリシア語系合成語に使われる繋ぎの音オ(-o-) で接続して作った語で、「光を利用して版を刻む技法」という意味です。しかし 十九世紀のフォトグラヴュアは、熟練した職人が手作業で修整を加えながら製版作業を行う美術版画であって、現代のスクリーン・フォトグラヴュアのように機械的な製版は決してできません。ルーペで数十倍に拡大すると、肉眼で見て自然に見えるように、熟練した職人の手によって工夫が凝らされていることに気付きます。

 このような細かい作業は、十九世紀の版画にのみ見られる特徴です。現在では失われてしまったこのような技術、職人芸には、驚嘆を禁じ得ません。


 版画は未額装のシートとしてお買い上げいただくことも可能ですが、当店では無酸のマットと無酸の挿間紙を使用し、美術館水準の保存額装を提供しています。この額装の価格は 24,800円です。額の色やデザインを変更したり、マットを替えたりすることも可能です。無酸マットに張るヴェルヴェットは赤や青、ベージュ等に変更できますし、ヴェルヴェットを張らずに白や各色の無酸カラー・マットを使うこともできます。


 版画を初めて購入される方のために、版画が有する価値を解説いたしました。このリンクをクリックしてお読みください。





フォトグラヴュールの本体価格 58,000円 (額装別)

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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