聖アンナ ヨブの涙のシャプレ 全長 21 cm
シャプレの全長 21 cm
フランス 1900年頃
十八個のビーズに「ヨブの涙」と呼ばれるジュズダマ(Coix lacryma jobi) の実(苞葉鞘)を使用した聖アンナのシャプレ。メダイはアルミニウム製で、片面は聖アンナが幼いマリアを腕に抱いており、その周囲にフランス語で次の言葉が刻まれています。
Bonne Sainte Anne de Beaupré, priez pour nous. 優しきボープレの聖アンナよ、我らのために祈り給え。
もう片方の面にはケベックにある北アメリカ最大の巡礼地サンタンヌ・ド・ボープレ(ボープレの聖アンナ)のバシリカが精緻な浮き彫りで表現され、周囲にフランス語で「サンタンヌ・ド・ボープレのバシリカ」(Basilique de Sainte Anne de Beaupré) と刻まれています。
ジュズダマはイネ科植物ハトムギの原種であり、その苞葉鞘は薏苡仁(ヨクイニン ハトムギの苞葉鞘)と同様に生薬として使うことができます。
ジュズダマの苞葉鞘は古くは薏苡珠(つしたま)と呼ばれ、琉球のユタがこれを連ねて首に懸けました。柳田国男の「海上の道」によると、元々ユタはしび貝(女性器貝の意)と呼ばれるタカラガイを首に懸けていましたが、中国がこの貝を貨幣として使用するために大量に買い占め、現地で手に入らなくなりました。それでしび貝を薏苡珠で代用するようになり、その習慣が固定したものに違いないと柳田は考えています(『宝貝のこと』『人とズズダマ』)。ユタの首飾りと聖アンナのシャプレは互いに無関係ですが、いずれも薏苡珠が聖なるものと関わる点で興味深く感じられます。
さらに『人とズズダマ』によると、ズズダマという名を数珠玉の意に解するのは民間語源説であって、この植物は仏教と数珠の伝来以前からズズダマ、ススダマ或るいはこれに類する名で呼ばれていた。「倭名抄」他の名彙にはツシタマ、「新撰字鏡」にはタマツシとあり、大同三年(808)の「古語拾遺」は薏子を古語に都須と曰ふ、とある。したがってこの植物は延喜式の頃にツス或いはツシタマと呼ばれていて、その名称は仏教の数珠と無関係であろう、と書かれています。
柳田によると、「おもろ草紙」十三巻の二二八、十五巻の六、十一巻の八二にあるツシヤとはタカラガイ、とりわけ貝貨に使われるキイロダカラ属のキイロダカラ(Monetaria
moneta)及びハナビラダカラ(Monetaria annulus)を指す語であって、ツシタマはタカラガイに似るゆえにこの名で呼ばれます。中原から最も近いキイロダカラの供給源は南西諸島であり、ここに産するキイロダカラは全量が貝貨用に輸出されました。南西諸島のキイロダカラは元々現地で首飾りに使われていましたが、このような使い方ができなくなった結果、ツシタマが代用品として使われるようになり、それが子どもの遊びとして残っている、と柳田は論じています。
なおジュズダマの苞葉鞘はシバンムシ科(Anobiidae)の甲虫にしばしば食害されます。シバンムシは小さくて可愛らしいですが、この虫に食害されると苞葉鞘の内部が空洞になり、強度が失われてシャプレを実用できなくなります。そのため本品は保管場所に注意する必要があります。
本体価格 8,500円 販売終了 SOLD
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