聖フランチェスコとクレシュ
St. Francis and the Nativity Crib
クレシュ (crèche) の原意はフランス語で飼い葉桶のことですが、クリスマス・シーズンに教会や家庭で飾るイエス降誕のジオラマを指します。クレシュを構成するのは飼い葉桶の寝かされた幼子イエス、ヨセフとマリア、牛とロバ(
注1)、羊飼いと羊たち(
注2)、3人のマギ(
注3)、天使です。キリストを礼拝しにきた人々がこれに加わることもあります。クレシュを飾る期間は地域によって異なりますが、クリスマス・イブから1月6日まで飾られることが多いです。
注1 ベツレヘムの家畜小屋に何の種類の動物がいたのか、福音書には言及がありませんが、旧約聖書に次の記述があります。
牛は飼い主を知り
ろばは主人の飼い葉桶を知っている。
しかしイスラエルは知らず
私の民は見分けない。 イザヤ書 1:3 (新共同訳)
キリスト教の立場から、このテキストの牛とロバは異邦人(選民ユダヤ人ではない人々)を指すと解釈することができます。
注2 関連テキスト ルカによる福音書 2:8 - 20 (同)
その地方で羊飼いたちが野宿をしながら、夜通し羊の群れの番をしていた。すると、主の天使が近づき、主の栄光が周りを照らしたので、彼らは非常に恐れた。天使は言った。「恐れるな。わたしは、民全体に与えられる大きな喜びを告げる。今日ダビデの町で、あたながたのために救い主がお生まれになった。この方こそ主メシアである。あなたがたは布にくるまって飼い葉桶の中に寝ている乳飲み子を見つけるであろう。これがあなたがたへのしるしである。」すると、突然、この天使に天の大軍が加わり、神を賛美して言った。
「いと高きところには栄光、神にあれ。
地には平和、御心に適う人にあれ。」
天使たちが離れて天に去ったとき、羊飼いたちは、「さあ、ベツレヘムへ行こう。主が知らせてくださったその出来事を見ようではないか」と話しあった。そして急いで行って、マリアとヨセフ、また飼い葉桶に寝かせてある乳飲み子を探し当てた。その光景を見て、羊飼いたちは、この幼子について天子が話してくれたことを人々に知らせた。聞いた者は皆、羊飼いたちの話を不思議に思った。しかし、マリアはこれらの出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた。羊飼いたちは見聞きしたことがすべて天使の話したとおりだったので、神をあがめ、賛美しながら帰って行った。
レンブラント 「羊飼いの礼拝」 1830年代のエングレーヴィング
当店の商品です。
注3 3人の
マギ(占星術に詳しいゾロアスター教の祭司)が幼子イエスを訪ねて礼拝したのはイエスが生まれたときではなくしばらく経ってからですが、クレシュには3人のマギが加えられるのが伝統になっています。
3人のマギの名前は福音書に書かれていませんが、西方教会においては6世紀のギリシア語写本 ("Excerpta Latina Barbari")
に基づき、年長者から順にメルキオル (Melchior)、カスパル (Caspar)、バルタザル (Balthazar) とされています。メルキオルは黄金を、カスパルは乳香(フランキンセンス)を、バルタザルは没薬(ミルラ)をイエスに捧げました。黄金はイエスが王であること、乳香はイエスが祭司であること、没薬はイエスが死ななければならないことを表します。またメルキオルはアジアを、カスパルはヨーロッパを、バルタザルはアフリカを表すともいわれ、バルタザルは黒人として描かれます。マギに関する関連テキストは、マタイによる福音書
2:1- 12 です。
マギが幼子イエスを礼拝した日は公現祭(エピファニー)として1月6日に祝われます。公現祭は長い間クリスマスよりも大切な祝日でした。クリスマス・シーズンはこの日まで続きます。
ボニファチオ 「マギの礼拝」 1860年代のエングレーヴィング
当店の商品です。
現在目にするようなクレシュの原型を作ったのは
アシジの聖フランチェスコ (Francesco d'Assisi, 1181/82 - 1226) です。
聖フランチェスコの伝記を書いたチェラノのトマゾ (Tommaso da Celano. c. 1200 - c. 1260/70) および聖ボナヴェントゥーラ
(San Bonaventura, 1221 - 1274) によると、聖フランチェスコは 1223年のクリスマスを独自の流儀で祝う許可を教皇ホノリウス3世から得て、イタリアのグレッチオにクリスマスのミサのための祭壇を作りました。フランチェスコは弟子のジョヴァンニ・ヴェリータをひと足先にグレッチオに遣わし、幼子主イエスがいかなる欠乏のうちに生まれられたかを眼で見て理解できるような仕掛けを作らせたのです。
飼い葉桶に干草が入れられ、牛とロバが連れて来られました。近在の人々が招かれて、たくさんのろうそくが点され、賛美歌の歌声の中、クリスマスのミサが執り行われました。
Giotto (c. 1267 - 1337),
The Institution of the Crib at Greccio, 1297 - 1300, Fresco, 270 x 230 cm, Upper Church, San Francesco, Assisi
聖フランチェスコが 1223年のクリスマス・ミサを行う以前にも、プラエサエペ PRAESAEPE (ラテン語で「飼い葉桶」の意味)と呼ばれるキリスト降誕の絵画や聖劇はありましたから、聖フランチェスコがプラエサエペ(クレシュ)の創始者であるというのは間違いですが、飼い葉桶と牛、ロバを使ったプラエサエペ(クレシュ)は
1223年以前にはありませんでした。したがって聖フランチェスコは現在目にするクレシュの原型を創った人であるということができます。
聖フランチェスコがグレッチオで始めた美しいクレシュの習慣はイタリアからアルプスを越えてドイツとその周辺地域に伝わり、ドイツ系移民によってアメリカにももたらされました。
なお、聖フランチェスコが作らせた最初のクレシュは飼い葉桶と牛と馬だけで、幼子イエスも聖母マリアをはじめとする周辺人物も加わっていませんでした。
関連商品
クリスマスのカニヴェ
クレシュのフェーヴ
アンティーク版画 1800年代のエングレーヴィング
クリスマスに関するレファレンス インデックスに戻る
キリスト教に関するレファレンス インデックスに移動する
キリスト教関連品 商品種別表示インデックスに移動する
キリスト教関連品 一覧表示インデックスに移動する
アンティークアナスタシア ウェブサイトのトップページに移動する
Ἀναστασία ἡ Οὐτοπία τῶν αἰλούρων ANASTASIA KOBENSIS, ANTIQUARUM RERUM LOCUS NON INVENIENDUS