大輪の薔薇を(かたど)象った美しいメダイ。中央部に小さな円形メダイを貼り付け、天使にかしずかれるリヨンの聖母「ノートル=ダム・ド・フルヴィエール」(Notre-Dame de Fourvière) を浮き彫りにしています。薔薇形の金属板は三枚をハトメ(鳩目)で留めてあり、扇のように広げると、真ん中の金属板に「巡礼記念品」(souvenir)
の文字が読み取れます。
聖母の図像、あるいは聖母子の図像には、薔薇があしらわれることが多くあります。棘のある繁みから生まれながらも棘に傷つくことがない薔薇の花は、薔薇の棘たるエヴァが犯した罪に傷つくことのない無原罪の御宿り、聖母マリアの象徴とされているのです。
(上・参考画像) Lorenzo Veneziano, The Virgin and Child (details), 1356 - 72, on
wood, 126 x 56 cm, The Louvre, Paris
聖母、聖母子が薔薇に囲まれた図像も多く見られますが、これは下に示した「雅歌」2:2の聖句によります。
Sicut lilium inter spinas, sic amica mea inter filias. (Nova Vulgata) おとめたちの中にいるわたしの恋人は 茨の中に咲きいでたゆりの花。
(新共同訳)
本品の聖母子像が薔薇と一体になり、あるいは薔薇の中に配されているのも、このような図像学的伝統に則(のっと)った表現であることがわかります。
(下・参考画像) Francesco Botticini, The Adoration of the Child (details), 1482, tempera on wood, diameter 123 cm, Pitti Palace Gallery,
Firenze
本品の材質はブロンズに銀めっきを施したものです。おそらく百年以上前に製作された真正のアンティーク品としては十分に良好なコンディションです。円形メダイの表面に摩耗が見られますが、浮き彫りの形状はよく判別できます。薔薇については、突出部分の一部にめっきの剥がれが見られる程度で、細部までよく残っています。ハトメ部分にも問題はありません。薔薇は打ち出し細工であるゆえに、大きな面積と優れた立体感にもかかわらず軽量で、ペンダントとして愛用するには理想的です。