フランス南東部の都市リヨンの守護聖女、ノートル=ダム・ド・フルヴィエール(仏 Notre-Dame de Fourvière フルヴィエールの聖母)を主題にしたプラケット。一方の面に聖母子を、もう一方の面にノートル=ダム・ド・フルヴィエールのバシリカを、いずれも精緻な浮き彫りで制作しています。
一方の面には幼子イエスを腕に抱く聖母マリアの姿が浮き彫りにされています。十字架の後光を輝かせる幼子は正面を向き、中指と人差し指を伸ばした右手を高く上げて、人々に祝福を与えています。聖母も幼子と同様に正面観であり、救いに至る道であるイエス・キリストを世人に示しています。
本品のように、幼子を人々に示すマリアの図像表現を、ギリシア語で「ホデーゲートリア」と呼んでいます。「ホデーゲートリア」(希 ὁδηγήτρια)は、「ホデーゲーテール」(希
ὁδηγητήτρ または ὁδηγός 道を示す人、道案内人)の女性形です。
聖母子の両側には百合が彫られています。百合は純潔、神による選び、摂理への信頼を象徴するゆえに、殉教者をはじめとする聖人の図像にしばしば描かれます。しかしながらこれらの属性は、聖母マリアに最も卓越的に当てはまります。したがって白百合は聖母の花であり、本品においても清らかな色と高い香気で聖母を飾っています。
メダイ(メダイユ médaille)は広義の言葉ですが、特に円形のメダイを指します。四角いメダイユは「プラケット」(仏 plaquette)といいます。本品は釣鐘のようなシルエットのプラケットで、百合は過度の様式化を免れて写実的であり、左右非対称の浮き彫りで表されています。これは日本美術の影響で生まれたアール・ヌーヴォー様式です。アール・ヌーヴォーは装飾美術の様式であり、メダイユやジュエリーに優れて美しい作例が多く見られます。本品もそのような作品のひとつです。
上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。本品は突出部分に軽度の摩滅が認められますが、聖母子の顔の表情や手の形、聖母の衣文(えもん 衣の襞)、百合の花や葉などの細部までよく残っており、古い年代にもかかわらず優れた保存状態です。聖母に執り成しを求める祈りの言葉が、プラケットの上半部にフランス語で刻まれています。
Notre-Dame de Fourvière, priez poyr nous. フルヴィエールの聖母よ。我らのために祈り給え。
もう一方の面には、ノートル=ダム・ド・フルヴィエールのバシリカ(Basilique de Notre-Dame de Fourvière)が精緻な浮き彫りで表されています。「フルヴィエール」(Fourvière)はリヨンを一望する丘の名前です。「ノートル=ダム・ド・フルヴィエール」(Notre-Dame de Fourvière フルヴィエールの聖母)はフルヴィエールの丘に建つバシリカの名前であり、このバシリカに安置されている聖母子像の名前でもあります。本品に彫られているのはバシリカの西側正面で、ひとつひとつの石材までを表現した精緻なミニアチュール浮き彫りによります。メダイの下部にバシリカの名前が彫られています。
本品は数十年前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず、保存状態は良好です。特筆すべき問題は何もありません。アール・ヌーヴォー様式に基づくプラケットの意匠は、近年に制作された品物とは一線を画する優雅さを今に伝えています。