シャトーヌフ=シュル=シェール(Chateauneuf-sur-Cher サントル地域圏シェール県)にバシリカがあるノートル=ダム=デ=ザンファン(La basilique Notre-Dame-des-Enfants 子供たちの聖母)のメダイ。フランスにおいて 800シルバーを示す「イノシシの頭」のポワンソン(貴金属検質所のホールマーク)が、上部に突出した環状部分に刻印されています。
メダイの表(おもて)面には、子供たちに取り囲まれたノートル=ダム=デ=ザンファンが、打刻による浅浮き彫りで表されています。群像の周囲には、フランス語で「シャトーヌフ=シュル=シェールのノートル=ダム=デ=ザンファン」(Notre-Dame-des-Enfants à Chateauneuf-sur-Cher) と記されています。
聖母は戴冠し、一段高い台の上に立っていますが、頭に後光も無く、優しい仕草で子供たちを招いています。子供たちもまったく物怖(お)じせずに聖母に寄り添い、腕を伸ばしています。子供たちを慈しむ聖母の両手からは、神と聖母の愛と祝福が恩寵の光となって降り注いでいます。
上の写真に写っている定規のひと目盛は 1ミリメートルです。聖母の顔の直径はわずか 1ミリメートルに過ぎませんが、その表情には限りない母の愛とやさしさがよく表現されています。聖母の身長はおよそ
10ミリメートルですが、極小のサイズにも関わらず、長い髪が波打つ様子や、右脚を軽く曲げて前に出している様子が写実的に表されています。
メダイユの制作方法には「鋳造」と「打刻」の二つがあります。「打刻」は一枚一枚の制作に手間がかからないゆえに量産が可能ですが、多くの場合繊細さに劣ります。しかるに本品の聖母はたいへん美しい顔をしており、打刻によるメダイのなかでも特に丁寧に作られたことがわかります。
裏面には子供たちの祈りが刻まれています。
Notre-Dame-des-Enfants, protégez-nous. Protégez nos parents. Protégez
l'Église.
子供たちの聖母さま、わたしたちをお守りください。お父さんお母さんをお守りください。教会をお守りください。
銀は信心具に使われる最も高級な素材です。19世紀のフランスには中間層が存在せず、社会全体が豊かでなかったので、高価な銀無垢メダイが量産されることはめったにありませんでした。しかるに本品は打刻によるメダイであり、ある程度多くの枚数が制作されたと推察されます。シャトーヌフ=シュル=シェールにあるノートル=ダム=デ=ザンファンのバシリカは
1869年に定礎され、1886年に完成しましたが、本品はこの時期に作られ、バシリカの建設資金を集めるため、一定額以上の献金と引き換えに頒布されたメダイであろうと思われます。
本品は百数十年前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、突出部分にも摩耗が無く、細部まで完全な状態で残っています。聖母に最良のものを捧げるために貯金を捧げた子供たちの純粋な信仰心が、高価な銀無垢メダイに形象化しています。
ノートル=ダム=デ=ザンファンは、子供、家族、教育関係者の守護聖女です。