スペインとスペイン系の諸国民の守護聖女、サラゴサのヌエストラ=セニョラ・デル・ピラル(柱の聖母)を象る真鍮製メダイ。1946年6月24日、教皇ピウス十二世により、ヌエストラ=セニョラ・デル・ピラル聖堂は小バシリカとされました。本品メダイはおそらくその記念として制作されたものと思われます。
本品のヌエストラ=セニョラ・デル・ピラルは透かし彫りによって背景から独立しているうえに、後光や雲、建物に比べて肉厚に作ってあるため、小さなサイズにもかかわらず、あたかも丸彫りの聖母子像を眼前に見るかのような力強さを感じます。
聖母の下半身から柱頭にかけての部分はふだん円錐台形のマントに覆われていますが、このメダイでは全身が露出しており、バロック彫刻らしい立ち姿を目にすることができます。聖母は左腕に幼子イエスを抱き、後光と一体化した巨大な冠を戴いています。この冠は1845年から現在まで続くマドリー(マドリッド)の老舗ジュエリー工房、アンソレナ(Ansorena)によって制作されたもので、1905年、サラゴサ大司教の手により聖母像の頭に載せられました。
聖母子の後方に見えるサラゴサ司教座聖堂(ヌエストラ=セニョラ・デル・ピラルのバシリカ)は、十一の穹窿と四つの塔を有します。当初建てられたロマネスク様式の聖堂は
1434年に火災に遭い、ムデハル様式で再建されました。しかしながらこの聖堂も火災に遭い、現在の聖堂は 1681 - 86年に再建されたものです。したがってこの聖堂はレコンキスタよりもずっと後の建物ですが、ミナレットを思わせる四本の塔はイスラム建築の影響を色濃く感じさせます。
ヌエストラ=セニョラ・デル・ピラルが立つ柱は、雲の上に浮かんでいます。遠景にバシリカが見えているにもかかわらず、メダイの下部に雲を配することによって、ヌエストラ=セニョラ・デル・ピラルが天上で戴冠した栄光の聖母であることを宣言しています。
上の写真に移っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。聖母子像の高さはジャスパーの柱上部を含めても十ミリメートルに足りませんが、流れるような衣文や、光背に見られるスペイン特有の精緻な細工が巧みに表現されています。
本品は一円硬貨よりも小さく、直径はわずか 16.8ミリメートルです。それにもかかわらずメダイの背景を金属用鋸で切り落とし、細密な透かし彫りを実現しています。拡大写真では素朴な仕上がりに見えますが、実物を見るとたいへん丁寧に仕上げられていることが分かります。
上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。
本品はおよそ八十年前に制作された真正のアンティーク品ですが、保存状態はたいへん良好で、浮き彫りの細部まで良く残っています。
真鍮の落ち着いた金色はアンティーク品に相応しい歴史を感じさせ、また手間をかけて透かし彫りされているため、どのような色の洋服に合わせても、また素肌に合わせてもよく馴染みます。メダイを愛用すると服地や素肌と擦れ合う面が摩滅しますが、本品の裏面には何も彫られていないので、摩滅を気にせずご愛用いただけます。
本品は二千年前にサラゴサに出現した柱の聖母の記念品であり、日々実用できる美術工芸品です。