透かし細工による聖母マリアのメダイ。ヴェールをかぶり、眼を閉じて物思いに耽っている聖母は「悲しみの聖母」(マーテル・ドローローサ)を意図した表現ですが、敢えて様式化した描写を採用して感情を内奥に秘めることで、より深い精神性を獲得しています。聖母の光背が植物文で縁取られているのも、様式化した描写の一部を為しています。光背に採用された唐草模様はヨーロッパに伝統的なアカンサス文よりもむしろ日本美術の影響を感じさせ、天使の翼のように優美な形の葉を有するつる草によるアール・ヌーヴォー様式となっています。
上部の環には、800シルバー(純度80パーセントの銀)を示すフランスのホールマーク(イノシシの頭)、及びメダイを鋳造した工房のマークが刻印されています。
メダイは鋳造当時のままのコンディションで、摩耗も無く、細部まで完全な形で残っています。重厚なパティナ(古色)が、真正のアンティーク品ならではの趣を醸(かも)しています。