およそ100年前のフランスで製作された美麗なメダイ。処女マリアの横顔を立体的な浮き彫りで表しています。
プロテスタントと違って、カトリックでは聖母マリアを大切にしますが、それは受胎告知の際、マリアがガブリエルに対して「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」と答えたからです。プロテスタント思想においては、人間は善を為すことができません。人間にできるのは、罪を犯すことだけです。しかるにカトリックにおいては、人間は善を為す自由を有すると考えられています。神は救いを強制せず、マリアは自由意志を以って、全人類のために救いを受け入れたのです。
このメダイにおいて、年若き聖母は信仰を象徴するヴェールを被り、しっかりと目を見開いて前を見ています。その口許には神に全てを委ねる決意とともに、神への全面的な信頼、信仰ゆえの微かなほほえみさえ浮かんでいます。聖母を取り巻くように、ラテン語で「童貞マリア」(VIRGO
MARIA) と記されています。
メダイの裏面には、上部に星、左側に百合が浅浮き彫りで表されています。聖務日課及び聖母マリアの小聖務日課において、マリアは「めでたし、海の星よ。/神を産み育てし母にして/永遠の処女/天つ国の幸いなる門よ。」(AVE
MARIS STELLA / DEI MATER ALMA / ATQUE SEMPER VIRGO / FELIX CAELI PORTA)
と呼びかけられます。この「アヴェ、マリス・ステッラ」の祈りにおいて、「海の星」はマリアの象徴となっています。
百合も聖母の象徴です。これは旧約聖書の恋の歌「雅歌」2:2に見られる次の聖句が、神の御心に適(かな)った女性マリアを指すと考えられたからです。
Sicut lilium inter spinas, sic amica mea inter filias. (Nova Vulgata) おとめたちの中にいるわたしの恋人は 茨の中に咲きいでたゆりの花。(新共同訳)
百合は純潔の象徴であり、この点でも処女マリアに相応しい花といえます。
本品に施された童貞マリアの浮き彫りはたいへん立体的で、じっと見ていると、あたかも聖母ご自身が眼前におられるかのような錯覚さえ覚えます。100年前に製作されたものであるにもかかわらず、メダイのコンディションは良好です。突出部分に見られる軽度の磨滅のゆえ、浮き彫り全体が真正のアンティーク品ならではの優しい丸みを帯びて、図らずも聖処女マリアの女性らしいたおやかさを強調する効果が生まれています。